4月6日に開催された「インテル AI Day」の様子。


 人工知能(AI)、機械学習、ディープラーニングといった言葉は、もはやIT業界のみならず、さまざまな業界で通じるビジネス用語になってきた。

 AIを利用する側の企業が増えてきたのはもちろん、開発側でも国内外のプレイヤーが群雄割拠し、ハードウエア、ソフトウエアの開発や実用化に邁進している。いくつものスタートアップ企業が立ち上がり、企業買収や企業同士の連携の動きも活発だ。

 その中で、ITの老舗企業は、AI時代の到来に向けてどのように舵を切るのだろうか。

 4月6日、「インテル AI Day」と称して、インテルのAI戦略をパートナー企業などと一緒に語り合うシンポジウムが催された。インテルの描くAI戦略とは一体どのようなものなのか。

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インテルNervanaテクノロジーの活用

「医療、特にヘルスケアの例では、網膜というのはさまざまな疾患の初期症状が現れる組織として知られています。たとえば糖尿病であれば、実は眼底の画像を撮ると、網膜の中に血管がにじんでいたりします。これによってかなり早い時期に、糖尿病の初期症状を特定できるということです」

 こう語るのは、インテル AI製品事業本部 副社長 兼 最高技術責任者(CTO)のアミール・コスロウシャキ氏。こういった検査にもAIを導入することによって、スピーディにかつ正確に、重大な病気の初期症状を発見できるという。

インテル AI製品事業本部 副社長 兼 最高技術責任者(CTO)のアミール・コスロウシャキ氏。


 では、そのような未来は、どのように実現されるのだろうか。

 インテルは2016年8月、ディープラーニングのソフトウエアやハードウエアの開発に取り組んできたスタートアップ企業、米Nervana Systemsを買収した。その後、2016年11月には「インテルNervanaプラットフォーム」を発表し、データセンター向けの包括的なプラットフォームを提供してきた。

 そして2017年3月、インテルAI事業本部の発足を発表した。このチームは、Nervanaプラットフォームの開発を推進し、さらに、アプライドAIリサーチラボ(応用AI研究所)をも構築していくという。

 インテル データセンター事業本部 アクセラレーター・ワークロード事業開発本部長 バリー・デイビス氏は、新しく立ち上がるAI事業本部のビジョンをこう語る。

「インテルのハード、ソフトとAI関連の資産を一元管理することで、この市場に対する真の影響力を確立しようということです」

インテル データセンター事業本部 アクセラレーター・ワークロード事業開発本部長 バリー・デイビス氏。


 また、同社は平行して「インテルNervana AIアカデミー」を設立した。これは、学術界、産業界問わず、インテルNervanaの技術をより多くの人に、簡単に採用できるようにしようというもの。具体的には、フレームワークやツールを提供するだけでなく、チュートリアルの提示やワークショップの開催など、人材の育成を支援する側面も持つ。

 さらに、さまざまなパートナーとも協業し、AI事業の幅を広げようとしている。

 たとえば、世界中のデータサイエンティストが競い合うコミュニティ「Kaggle(カグル)」に対しては、マシンラーニングのコンペティションの協賛を行っている。カグルではさまざまな種類のコンペが行われており、またディープラーニングの実践者やコミュニティとともに、問題解決に取り組むことができる。冒頭で紹介した糖尿病性網膜症も、カグルのコンペティションで取り上げられた課題だ。

 さらに、2016年11月には、インテルは2500万ドルの投資をブロードインスティチュートに行い、ゲノム解析の研究を進めようとしている。ゲノムと病気の関連を調べることで、先に挙げたような医療の進展にも大きく貢献できるかもしれない。

プリファードネットワークスとの協業

 さらにインテルは、同日、オープンソースのディープラーニング向けフレームワーク「Chainer」(チェイナー)を提供するPreferred Networks(PFN、東京都文京区)との協業を発表した。

 2015年6月にオープンソース化されたChainerは、いまや最も普及しているディープラーニング向けフレームワークの1つ。そのChainerの実績と、インテルのディープラーニング向けアクセラレーターとを組み合わせることで、AIやディープラーニング向けのアプリケーションの開発や実行の最適化を進め、性能向上を目指す考えだ。

 Chainerのコミュニティは拡大し続けているが、ディープラーニングの加速にはより膨大な量のデータに対応することが大きな課題になるという。今回の協業がハードウエアの性能を最大限に引き出すことができれば、その課題の解決にもつながるかもしれない。

 PFNの西川徹社長は、インテルとの協業に向けての思いをこう語る。

「私たちは、ディープラーニングとIoTを融合することによって、新しいアプリケーションを生み出していきたいと考えています。そして、そのための要素技術の開発に力を入れています。そのような事業の加速にとってインテルとの協業は非常に重要です」

Preferred Networks(PFN)社長の西川徹氏。


 インテルは、アーキテクチャの先導者としてその地位を築いてきたが、今回のAIへの取り組みではソフトウエアへの投資や協業が多く見受けられる。その理由を考える上で、コスロウシャキ氏の言葉が興味深い。

「ジョークのようですが、ハードウェアチームの重要なものはソフトウェアチームだ、というのがあります。ハードを動かすためには、たくさんのソフトウエアが必要だということです。ディープラーニング、AI、マシンラーニングの領域では、アプリケーションを実行するのにさまざまなソフトウエアが、さまざまなレベルで必要になります」

 ハードウエアの雄たるインテルが、自社内外のさまざまなソフトウエアの英知を取り込んだとき、その先にはどのようなAIの世界が広がるのだろうか。それこそ、現在の我々には予想もつかない未来が待っているかもしれない。

筆者:町田 誠