(Photo by Takahiro Saito)

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 開場してからスタートまで、そして転換中、フロアに流れていたのはSoundgardenだった。数日前に亡くなったクリス・コーネルに追悼の意を込めてのことだろう。1990年代前半にグランジの先駆けと言われたバンドの音は、今聴けばヘヴィメタル/ハードロックの色が相当強い。このような重く激しい音のバンドが「グランジ」「ミクスチャー」「ヘヴィロック」という言葉とともに流行し、パンクが「メロコア」「ポップパンク」という言葉になって世界中を席巻し、両方まとめて「ラウド系」ともてはやされるようになった時代だ。

 そんな時代が青春だったであろうマキシマム ザ ホルモンのメンバーも、今や立派なアラフォー。ナヲが妊活中の心境を語った朝日新聞の記事を直前に読んだこともあり、決して若いとは言えない彼らが、限りある人生の中でどんな選択をして生きているのか、そんなことを自然に考えてしまう。クリス・コーネルの粘っこい歌い方が、シリアスな気分に拍車をかける。

 ……という思考が木っ端微塵に吹っ飛ぶライブだった。「ごちゃごちゃ言うなうるせぇぇぇぇ!」と笑顔でビンタを食らった気分。そうだ、そうだった。マキシマム ザ ホルモンはこうじゃなきゃいけない。

 ナヲの第二子妊娠〜出産のため2年間ライブ活動を封印していた彼らが、満を持してスタートさせた『耳噛じる真打TOUR』。初日の5月20日八王子MATCH VOXには、凄まじいチケット争奪戦をくぐり抜けてきた300人の腹ペコたちが集結。猛者中の猛者だろうと思っていたが、アンコールでメンバーが確認したところ初めてホルモンを見るという人が意外に多い。ネットで何もかもが一瞬の出来事になってしまうこの時代、2年というブランクは相当なものだが、バンドのブランド力は衰えないどころか新参のファンまで詰めかけてくるのだ。凄いことだと思う。

 ライブスタートの瞬間から、その理由が見えてくる。仕掛けの面白さと、無駄だろうが何だろうが猛烈な熱量がこもった演出、登場するメンバーのキャラの濃さ、そして何より楽曲のこってり度が、他のバンドでは代替が効かないものだからだ。久々ゆえに緊張もあっただろうが、始まってしまえばブランクはまったくなし。モッシュとシンガロングとヘッドバンキングを同時に巻き起こすホルモンだけのサウンドが炸裂する。

 ホルモン「だけ」のサウンドと書いたが、楽曲のルーツは比較的見えやすい。基本はヘヴィロックとミクスチャーで、時折スラッシュメタルやカオティック・ハードコアくらいまで激化するが、同時にポップパンク(もしくはアイドル歌謡)くらいわかりやすいメロディも炸裂する。ほとんどが、冒頭に書いた90年代の「ラウド系」にあった魅力である。ただ、この曲はメタル、この曲はミクスチャーと作風を分けず、一曲の中に「ラウド系」の魅力をこれでもかと詰め込むスタイルがまず異様にして過剰。さらには膨大な言葉を詰め込みながらも、発語の気持ちよさやリズム感にこだわり抜いているから英語にも日本語にも聴こえない、そんな歌の存在も個性のひとつだ。過剰であることを追求したあまりガラパゴス化したラウド系バンドと言ってもいいだろう。

 そしてここからが重要なのだけど、2000年代、2010年代と時代が進むにつれてラウドシーンも変化していく、その流れにホルモンは与していない。ラウド系の若手がエレクトロニカやダンスビートを普通に取り入れ、よりハイファイな音像になっていく今の時代において、ホルモンの音はびっくりするくらいロウであり生々しい。かといって頑なに90sマナーにこだわっている感じでもない(もしそうなら、ただの懐かしい音である)。ちゃんと今も新鮮で、強烈で、衝撃的なサウンド。強いて言うならこのバンドは「自分たちが青春時代に受けてきた衝撃と刺激」にのみ、こだわり抜いているんじゃないかと思う。

 話が長くなったが、ライブはファーストのリアレンジ・バージョン『耳噛じる 真打』からの曲、そして目下オリジナルアルバムとしての最新作『予襲復讐』の曲をメインにスタート。リアレンジが新鮮なのは当然だが、驚くのはどの曲もリフが徹底的にソリッドかつキャッチーであることだ。マキシマムザ亮君もこの2年で驚くほどスリムになったが(生活習慣病、および痛風合併症の為、医者からこのままでは死ぬと宣告されたらしい。今はすっかり健康体だ)、一発で脳天に突き刺さるリフ、歌詞よりもギターの音そのものを歌いたくなるような中毒性を持つリフ、聴いた瞬間から頭をガシガシ振らざるを得ないキレキレのリフ。それらが、ものすごく研ぎ澄まされていることに気づく。

 若き日に洋楽ラウド系の洗礼を浴びた人ならわかるだろうが、そもそも英語だから歌への共感などは二の次だ。まずは音の激しさに驚くし、激しさの中にも絶対キャッチーな部分があるから惹きつけられる。そのキモになるのがギターリフである。そこで受けてきた衝撃や刺激を、改めて振り返り、全力で掻き集めているのが今のホルモンなのだろう。ただでさえ人気があるのだから、ライブで鉄板曲をやれば間違いなく盛り上がる。そういうルーティンに陥らなかったという意味で、この2年のライブ封印はとても充実した結果をもたらしたようだ。

 中盤の「アバラ・ボブ〈アバラ・カプセル・マーケッボブ〉」は、AA=の上田剛士がプログラミングで参加したリアレンジ・バージョン。強烈なデジタルビートから始まるこの曲は、今の彼らがヘヴィでグルーヴィなノリではなく、ソリッド、かつ即効性の高い音を求めていることがよくわかるナンバーだ。同時にそれは「10代の求める刺激にドンピシャ」という方向でもある。アルバム『予襲復讐』はマキシマムザ亮君の中学時代の衝動をそのまま詰め込んだ怪作だったが、分別も知識も経験値もなかった頃の、何もないがゆえの底なしのエネルギーというものが、今なお、というよりも、積極的な勢いを手にしてムクムク膨らんでいる。これが2017年のマキシマム ザ ホルモンだ。ものすごい湿気の中で今にも意識が飛んでしまいそうなファンも多数だが、比べてメンバーはケロッと元気。「いつもより全然ラクだよねぇ?」とナヲが言い放ったときは冗談だろと耳を疑った。でも、冗談ではないのだ。こんな音を出しているバンドなのだから、そうじゃなきゃいけないのだ。

 実をいうと、二人目の子供を授かったナヲが、ファンに祝福されることで感極まって……みたいな内容になるのかと思っていた。大人になって無茶は減ったけれど人生はより豊かになって、みたいな片鱗も見えるのかしらと想像していた。全然違った。スタートからラストまで容赦ない肉弾戦。酸欠で死ぬかと思った終了直前に「この程度で音を上げんの?」と高笑いするメンバーがいた、という感じの2時間だ。いや、参りました。成長するというより、若返りまくるマキシマム ザ ホルモン。ツアーはここから続いていく。(石井恵梨子)