右読みの看板「んどう」が歴史を感じさせる

写真拡大

名古屋市役所や愛知県庁など官庁街に程近い「山田屋」。うどんや名古屋名物のきしめんが味わえる、戦前から人気の麺処だ。長年愛され続けるそのワケを、3代目店主の息子である小林さんに聞いた。

【写真を見る】ランチタイムには官庁街のビジネスマンや地元住民でにぎわう

■ 3代目店主と息子が守る老舗

創業は1930(昭和5)年。戦後の1950(昭和25)年に建て替えてからそのままという店構えに、歴史と風格が漂う。暖簾をくぐると木目調の店内にテーブルと赤いイスが並び、黒電話や年季の入ったラジオもあり、まさに昭和にタイムスリップしたかのような空間だ。

なかでも目立つのが黒い大きな棚。小林さんは、「これは私のおばあさんの嫁入り道具なんです」と教えてくれた。戦時中はこの棚を別の場所に疎開させていて、戦後に店へと戻したというほど、当時から大切にされていたそう。

■ シンプルが生み出す、王道ど真ん中の一品

風情たっぷりの場所でいただけるのが、すべて自家製麺を使う麺類と多彩にそろう丼もの。小林さんいわく、「やや柔らかめの麺は、コシよりもつるりとした喉ごしを意識しています」とのこと。ダシに使うカツオ節にもこだわりがあり、「ソウダガツオの身だけを使っています。ダシ自体も昆布など何かとブレンドするのではなく、1種類のカツオ節だけでシンプルに。あっさりと仕上がるんです」と教えてくれた。

丼メニューでの定番人気はカツ丼だ。トンカツの豚肉は軽く叩き、味付けはコショウと旨味調味料入りの塩のみ。ふわふわ食感にするために卵は優しく溶いて、ソウダガツオのダシを使う割下と合わせる。「トンカツと卵は一緒に煮ません。ご飯のカツを乗せ、その上に割下と合わせた卵をかけます」と小林さん。そうすることで、サクサク感の残るトンカツとふわふわの卵が、同時に味わえるというわけだ。

■ 耳より目で覚えた、受け継がれる伝統の味

87年前に小林さんの祖父が創業し、伯父が継いだ後、現在は父親が3代目。店主を務めるも、高齢のため現在の調理担当はほぼ息子の小林さんだ。厨房に立ち始めたのは脱サラをした10年前。父親から詳しく教わるというよりは、調理のほとんどを見て覚えたのだとか。

そんななか、先代の味を知る客からの言葉には感動したそう。小林さんは「名古屋市役所のOBの方が数年ぶりに当店に来て、『味が変わってないね』と言われたんです。それはうれしかったですね」と、笑顔で語った。

メニューの種類や料理の味付けすべてにおいて、“シンプル”を大切にしている小林さん。その変わらない信条と丁寧な仕事が、幅広い支持にもつながっているのだろう。【東海ウォーカー/礒永遼太(エディマート)】