昨年1月のAIIB開業式典 新華社/AFLO

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 鳴り物入りでスタートした中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)が早くもコケ、ADB(アジア開発銀行)の存在感が増している。産経新聞特別記者の田村秀男氏がレポートする。

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 中国主導の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)は2016年1月の開業後、休眠状態が続いている。加盟国数こそ日米中心のアジア開発銀行(ADB)を上回ったものの、実際に払い込まれた出資金は定款上の資本金の7%にも満たない。単独融資はほとんどなく、多くはADB融資に相乗りしただけだ。

 AIIBと同様、米国中心の国際金融体制の一角を切り崩すはずの人民元の国際化も看板倒れだ。元は2016年10月に国際通貨基金(IMF)・特別引き出し権(SDR)構成通貨入りしたものの、国際金融市場での決済シェアは円に逆転され、世界の中央銀行の準備通貨シェアは2016年末で円の4分の1に過ぎない。

 だが、油断はならない。日米両国とも、習近平政権に懐柔されかねない有力高官が多数存在するからだ。特に、日本側は親中派の多い財務官僚が北京になびきやすいから、始末が悪い。

 中国側関係筋によると、4月6、7日の米中首脳会談では習近平国家主席がトランプ大統領に対し、AIIB出資や5月に北京で開催予定の「一帯一路サミット」への米政府高官参加を求めたという。

「一帯一路」は2013年に習近平氏が打ち出した、中華経済圏構想である。ユーラシア大陸の内陸部と周辺海域のインフラを整備し、すべてのルートを北京につなげる。必要資金を調達、投融資するための役割をもつのがAIIBであり、ほかにも「シルクロード基金」「BRICS銀行」が中国主導で創設済みだが、いずれもAIIB同様、プロジェクトは欲しいがカネは出したくない参加国だらけだ。

 AIIBはADBや世界銀行など既存の国際金融機関と同様、ドル建て融資が主流の国際金融市場が相手だが、資金調達できない。AIIBには基軸通貨ドルの米国と世界最大の金融債権国日本が不参加のために、米欧の格付け機関がAIIB債の格付けを拒否しているからだ。

 ならば、中国は自らの外貨準備(外準)を充当するしかないが、昨年、中国からの資金流出は年間で7000億ドルを超え、外準は3兆ドルまで減った。外準は4.6兆ドルもの外国企業や金融機関の対中債権(中国にとっては対外負債)の大半が含まれるので、ないのも同然だ。

 ならば人民元を刷って融資できればよいが、ローカル通貨のままだと国際市場では見向きもされない。そこで習政権が執念を燃やしたのが、各国通貨当局の間でドルと交換が保証されるSDR構成通貨入りだ。

 親中派のラガルドIMF専務理事は、円を押しのけて人民元をドル、ユーロに次ぐ第3の国際通貨として認めた。ところが、人民元は資金流出に伴う元売り圧力にさらされ、元の信用は国際金融市場で失われてしまった。AIIBが元建て債を発行しても、計算高い中国人投資家が購入するはずはない。

【PROFILE】たむら・ひでお/1946年高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日経新聞を経て、産経新聞記者となる。現在、編集委員と論説委員を兼務。『人民元の正体 中国主導「アジアインフラ投資銀行」の行末』(マガジンランド)、『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『財務省「オオカミ少年」論』(産経新聞出版)ほか著書多数。

※SAPIO2017年6月号