これから日本企業が取り組むべき「ダイバーシティ3.0」とは?(写真はイメージ)


 多様な人材を活用するダイバーシティ(最近は「ダイバーシティ&インクルージョン」ともいう)の推進が政策的課題の1つになっている。女性、外国人、障害者など多様な人々が一緒に働ける職場をつくっていこうというわけである。それはまた年齢や就労形態、経歴などの多様化にもつながる。

 しかし現状はダイバーシティで先進的とされる企業でさえ、せいぜい女性の管理職比率が何割になったとか、障害者を何パーセント雇用したという程度である。それも本音では法令や行政の指導でやむなく雇用しているか、企業イメージの向上が目的で行っているところが多い。

 つまり「消極型」のダイバーシティであり、暗黙のうちにダイバーシティを経営の制約条件、あるいはコスト要因と位置づけている。

 企業がダイバーシティに消極的なのは、そのメリットを十分理解していないためか、あるいはダイバーシティを推進するための制度的な条件(具体的にいえば個人の「分化」)が整っていないからである。

 たしかに工業社会、とりわけ少品種大量生産全盛の時代には、人材の面でも均質性や画一性が求められた。個性や異質性は経営にとってどちらかというとマイナス要因だった。ところが生産システムの自動化やITの発達により、社員が同質でなければこなせないような仕事は大幅に減少した。逆にハードウエアよりソフトウエアが価値をもち、アイデアや創造性が求められるポスト工業社会では、個性や異質性こそが価値の源泉になる。

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非効率な慣行を見直すきっかけに

 このようなダイバーシティのメリットに気づきはじめた企業は少なくない。

 マレーシアに進出した企業で、次のような話を聞いた。マレーシアは多民族国家であり、社内にもマレー系、インド系、中国系、その他の民族の社員がいる。彼らは食事の戒律のほか、祈りの時間、祝日などがそれぞれ違っている。そのため全員一律の日本的なマネジメントが通用しない。そこで、全員が必ず一緒にこなす仕事と、必ずしも一緒でなくてもよい仕事に仕分けし、後者については個人の裁量に委ねるようにした。それが結果的に、何となく続けてきた非効率な慣行の見直しにつながったそうである。

 また、女性の管理職が増えて女性社員が働きやすくなったとか、外資系企業との合併で外国人と一緒に働くようになり、それがきっかけでムダな残業が減ったという話も聞かれる。このようにして多様な人材を自然な形で受け入れているのが「共存型」である。

戦略型ダイバーシティの推進を

 ただ、「消極型」にしても「共存型」にしても、どちらかといえば受け身のダイバーシティである。これからは、より積極的に、そして戦略的に人材の多様化を図る「戦略型」のダイバーシティを推進すべきではなかろうか。

 女性向け商品を扱う会社では、女性の視点を取り入れて商品企画や販売を行うため、女性を大量に採用し、責任あるポストに据えるところが増えているし、海外にビジネスを展開するにあたって外国人を採用する企業も多い。社内の既得権に安住する風土や沈滞した空気を変えるためにフリーランスや派遣社員を活用している例も見られる。

 また海外では、製品開発のアイデアを出してもらうため経験や考え方、ものの見方が異なる多国籍の人材を積極的に採用している企業もある。

環境への適応力を高めるためにも

 多様な環境、変化の激しい環境への適応力を高めるためにもダイバーシティは有効だ。

 進化生物学者の長谷川英祐によると、アリやハチの集団のなかにはエサの糖度や巣の中の温度といった刺激に対して敏感に反応する個体と、鈍感な個体が混在しているそうである(『働かないアリに意義がある』、メディアファクトリー、2010年)。そのため、たとえば巣の中の温度がわずかに上がったときには少ない個体が警鐘を鳴らし、大きく上がったときには多くの個体が行動に移る。つまり、状況に応じて適当な数の個体が動員される合理的なシステムになっているわけである。

 企業でも多様な情報や刺激に対する感度の異なる人材をそろえておけば、リスクに対して迅速に対処できるし、流行や消費者行動の変化にも素早く適応できるようになる。今後、技術革新やグローバル化のスピードはいっそう加速すると考えられるだけに、環境適応力の面からも人材のダイバーシティはいっそう重要になるはずだ。

 組織のスタイルも変わりつつある。さまざまな業種においてプロジェクトベースの仕事が増えており、情報・サービス関係の業種では組織そのものが常設のプロジェクトチームになっている企業もある。そこでは社内、社外を問わずチームとしてパフォーマンスをあげるのに最もふさわしい人材が求められている。高い専門性をもった人材のベストミックスが追求されるわけである。

 消極型を「ダイバーシティ1.0」、共存型を「ダイバーシティ2.0」とするなら、こうした戦略型の「ダイバーシティ3.0」こそ、日本企業の閉塞感を打破する改革の柱となるのではなかろうか。

筆者:太田 肇