『図書室のピーナッツ』竹内 真 双葉社

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 私が初めて本気でなりたいと思った職業は学校司書である(その前には「スパイになりたい」という野望を持っていた時期もあるのだが。よろしければ2014年11月12日更新の当コーナーのバックナンバーをお読みになってみてください)。しかしながら"子どもの頃の夢だった仕事に就く人間はごくわずか"(私が観察する限り、2割いるかいないか)の法則にもれず、自分もこうして駄文を書きながら生活している(いや、もちろんありがたいと思ってます。子どもの頃には予想もしていなかったというだけ)。だからこそ、本書の前日譚にあたる『図書室のキリギリス』(双葉文庫)を読んだときには少々ジェラシーを感じた。主人公・高良詩織は友人である音楽教師・井本つぐみが紹介してくれた県立直原高校の学校司書の職をほとんど苦労することなく手にしてしまったのだから。題名の「キリギリス」というのも、学生時代あまり勉強熱心ではなかった詩織自身を指している。小説の中のキャラクターに嫉妬するとは、己の器の小ささを暴露するようでお恥ずかしい。今となっては詩織を応援する気持ちになっているので、ご勘弁を。

 シリーズ2作めとなる本書『図書室のピーナッツ』も、詩織が図書館や本にまつわるいろいろな謎を解決していく短篇集である。詩織のサポート役となるのは、図書委員たちと本書から登場した市立図書館の司書・山村だ。実は詩織には離婚歴があり、前作ではそのことによって彼女がダメージを受けていることを色濃く感じさせたのだが、新キャラの存在もあってだいぶ晴れやかなトーンになったと思う。それは詩織が司書として成長していることとも無縁ではない。元夫が出て行ったことを引きずり、自分には司書の資格もないからそこそこの仕事をしていればいいというような姿勢でいるなら、詩織が読者の共感を集めるのは無理だろう。過去に向き合い、学校図書館をよりよくするために自分が何をすべきか考えて仕事をする彼女の姿には、エールを送りたくなるに違いない。

 もうひとつ、私が詩織に肩入れしたくなるのはこの作品に出てくる作家や本のチョイスが絶妙だからだ。特にぐっときたのが「第三話 ロゼッタストーンの伝言板」に出てくる小沢健二(『うさぎ!』/小澤昔ばなし研究所発行『子どもと昔話』〈季刊〉にて連載)と、「第四話 ピーナッツの書架整理」の村上春樹&スヌーピー。村上春樹とスヌーピーは別々に登場するのではなく、それぞれが切り離せない状態でひとつの謎となっている。詳細を書くと興を削いでしまいそうなので、ぜひ読んで確かめていただければと思う。また前作の文庫版では、各話に出てきた本について著者が巻末で解説をされており(このシリーズはもともとウェブマガジンで連載されていたもので、毎回取り上げた本に関するコラムも発表されていたとのこと)、こちらも読み応え十分。前作の挿入本(挿入歌ならぬ)がまた憎いラインナップで、チェス小説アンソロジーの『モーフィー時計の午前零時(ジーン・ウルフ他著・若島正編/国書刊行会)やおなじみ村上春樹などに加えて、L・M・モンゴメリの『ストーリー・ガール』(角川文庫)が取り上げられていたことがうれしかった。登場人物たちが関心を持つ本というのはそもそも著者の興味を引いたものなわけで、「この著者とは本の趣味が合う!」と思ったらもう目が離せなくなるのではないだろうか。本について調べるときも"ネット検索は禁止で、図書館の資料だけを使う"という制約を登場人物たちに課したりするアナクロさも好ましい(「『ネットで調べて』って答えるだけなら図書館の存在意義がなくなっちゃいます」とは、司書教諭で学級担任も受け持つ英語教師の若森の言葉。ふだんはあまり仕事熱心ではないが、たまにこのようにストイックさの感じられる発言が出たりするので憎めないキャラである)。詩織の任期にはあと4年近くのチャンスがあるはずなので、竹内さんにはぜひ続編のご執筆に励んでいただきたい。

 図書館員たちが中心となって行う読書会などの企画はどれも魅力的で、やっぱり司書教諭になりたかったなあと久々に思った。しかし今から私が司書として学校で働ける機会は、よほどの幸運に恵まれない限りめぐってくることはないだろう。だけど現在の私は、この原稿を書くことで一種の読書会を開いている。私がご紹介した本を読者のみなさんに手にとっていただければ、それは同じ本を読んでお互いが感想を抱いたということだ。双方向で感想を共有するのはいまのところちょっと難しいけれど、自分が読んだ本についてひとりでも多くの方に何かしら感じていただきたくて、私は書き続けています。

(松井ゆかり)