Photo by schmollmolch(写真はイメージです)

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 山本一郎(やまもといちろう)です。結婚できただけでもラッキーなのに、子供までできて生まれてよかったと幸せを噛み締める派です。

 先日、フランス新大統領に39歳という若いエマニュエル・マクロンさんが選出され、世界的にもおおむね歓迎モードで推移しております。トランプ相場が終焉して少し停滞気味だった証券市場も、右派的な政策を全面に出すマリーヌ・ル・ペン候補(48)に大差でマクロンさんが勝ったことを好感して大幅に株価が上昇して、フランスのEU離脱というEU解体の悪夢からは、かなり遠ざかった安心感が出たとでも言うべきでしょうか。世界的に良いニュースが少なくなっている今、まだどうなるか分からないけど、ルペンさんよりは既存の世界秩序を乱すことはなさそうだというマクロンさん勝利に対する祝福であるとでも言いましょうか。

 マクロンさんに対する政治的な論考については、比較的リベラルな立場で語られる遠藤乾せんせと、マクロン「大統領」に懐疑的な立場をとる現実派の宮家邦彦せんせの両論を見比べると面白いです。


 海外でのマクロン評も、だいたいこのような振れ幅の中に落ち着いているのが特徴的で、政治的なポジションも含めてマクロン大統領になっても、フランスは既成の秩序の中で国内問題に注力せざるを得ないため大きな混乱は自分からは起こさないであろう、という見方が中心になっています。それを「若いわりにおとなしい」とみるか「若いので大統領としての自力を蓄えるべき」と感じるかに、差が出ている印象でしょうか。

■日本とフランスの価値観の違い

 しかしながら、日本ではマクロンさんに対しての論評のかなりの割合が「25歳年の差婚」を果たしたとか、結婚し子供もいる教師であった現夫人と高校生時代に「結婚する」と宣言し、その通り結婚したマクロンさんの面白プライベートに注目が集まりやすいのが日本とフランス間の距離感や日仏文化差のようなものを感じます。なぜかそれを意志の強さの表れと好意的に評価する人も少なくなく、正直「どうでもいいじゃねえか他人のプライベートなんざ」と思う私からしますと、もっと他に論じる内容があるだろうと思ったりもするわけです。

 例えば、これが高校生時代のマクロンさんが高校教師であった夫人を好きになって結婚したくなったという話を日本に置き換えれば、間違いなく高校教師である女性の異常さが日本ではバッシングの対象になるでしょう。何お前教え子に手を出してるんだって話であって、それが最終的に大統領になって良かったねというオチであったとしても、議員同士の不倫が発覚して議員辞職に追い込まれる日本の政治風土からは、あまりきちんとした見解や理解を導き出すのはむつかしい。そういう経歴の人は、日本人有権者の中の女性票をごっそり落として議員になることすら無理なんじゃないかと思いますしね。

 逆に、これが男子高校生が女性教師に恋をした話だから許容できる部分があったとして、男女逆だったときどうなのかという話もあります。これはもう、日本では完全に変態のレッテルどころか犯罪者扱いされて教師免職待ったなしの展開だと思うんですよ。男性教師が女子高校生に手を出して不倫して家庭を築いた時点で、その男性はノーフューチャーであります。問答無用です。そのとき、日本人が25歳年上のおっさん教師に恋をした女子高校生を褒め称えるか? と言われたら100%NOであります。「年上教師に惚れて結婚まで漕ぎ着けたマクロンさん、偉い」という人は、逆の立場で考えて「おっさんを愛して略奪婚をした女子高校生は素晴らしい」と言えるかを思い返せば、自分の中に秘めた男女差別的な土壌もあるんじゃないかと、思い致すといろんな小宇宙が拓けるのではないかと感じます。

 要するに日本とフランスにおける社会人の在り方の差が大きすぎて、指導者のエピソードひとつとっても「マクロン大統領はハンサムだね」ぐらいの見解しか出てこないのかもしれません、残念ながら。

 大多数の日本人にはよく理解できない遠い大国の選挙でも、世界が求める大勢の読みに近い結果となると、日本の株も上がって景気もほんのり良くなって受益する人も増えるのでしょうか。

著者プロフィール


ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研