かつては若者世代にささるクルマが企画・開発されていた

「昔ほどクルマ好きが多くない」という話を耳にすることは少なくない。その理由として、デジタルガジェットなどクルマ以外の物欲を刺激する工業製品が増えてきているというのも理由であろうし、経済的な理由からクルマが身近なものではなくなったという見方もあるだろう。

いずれにしても「最優先事項ではなくなった」、「好きではなくなった」という説明にはなっても、かつての若者が「クルマを手に入れることが第一」と考えるほど熱狂していた理由にはならない。なぜ、若者(とくに男性)にとってクルマは魅力的なアイテムだったのか。

ひとつには、移動の自由度や距離を伸ばすモビリティへの根源的な憧れというのもあるだろう。徒歩から自転車、そしてオートバイやクルマへと、行動半径を広げられる乗り物へのニーズというのは本能的なものと言われている。そして、日本において若者にとってクルマが魅力的だった理由として、ある時期において若者世代のニーズに刺さる商品が企画・開発されていたという見方ができる。

日本の人口ピラミッドを見ると一目瞭然だが、1947〜1949年生まれの第一次ベビーブーマー世代と、1971〜1974年生まれの第二次ベビーブーマー世代が突出している。第一次ベビーブーマーが20歳前後の1968年は日本の自動車産業にとって成長期であり、国内市場を重視していた時代である。つまり若者向けのクルマを開発することは市場原理として当然だった。

運転免許を取るかどうか考える時期に、自分たちの世代をターゲットにした商品が続々と出てくれば、自ずとクルマが欲しくなり、クルマを所有することへの欲望は強まる。ある意味で、人口比率に従った商品企画がニーズを生み出したといえる。

初代スカイラインGT-Rやロードスターはベビーブーム世代の免許取得時期に登場

ちなみに、日産スカイラインに最初のGT-Rが生まれたのは1969年1月。高価なモデルゆえにダイレクトに若者向けというわけではないが、あこがれを喚起するには十分以上のインパクトがあった。

その後、二度のオイルショックによりクルマを所有することへのハードルは上がったように見えるが、1975年に訪れた「スーパーカー・ブーム」により、スポーツカーへのあこがれを持つ子供たちが増えたことは大きな種となった。

こうして第二次ベビーブーマーより少し上の世代にクルマ(スーパーカー、スポーツカー)へあこがれを持つ集団が生まれたこと、第二次ベビーブーマーが20歳に近づくタイミングでのバブル景気が到来したことで、1980〜1990年代の自動車ムーブメントが若者をターゲットにする流れになるのは自然なことだった。この頃、第二期スカイラインGT-Rやユーノス・ロードスターが生まれたのは、至極当然だったのである。

大きなトレンドでいえば、日本に自動車市場において1960〜1990年代までは若者向け商品が主役であり、宣伝のメインターゲットでもあった。だからこそ若者はクルマを欲したという見方ができよう。

卵が先か鶏が先か、いずれにせよ「昔はクルマ好きが多かった」というのは、自動車産業にとって若者が大きな市場だったからこそ、といえるだろう。