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●お金を出してでも本当に欲しいものを!
パイオニアといえば、音響機器やカーナビのメーカーというイメージが一般的だろう。だが、自転車好きには別のイメージがある。それは「"ペダモニ"のパイオニア」である。ペダモニとは、ペダリングモニターシステムの略称である。ペダリングというからには自転車をこぐ部品であり、パイオニアは、自転車部品メーカーでもあるのだ。

自転車業界に深く根付いた同社のサイクル事業だが、本業とのつながりは見えにくい。事業化のきっかけから、製品の発売までを探ると、そこには思いもよらないストーリーがあった。サイクルスポーツ事業推進部の碓井純一課長と同事業部に所属し製品を開発した藤田隆二郎氏に伺った話を全4回に分けてお届けする。初回はなぜパイオニアが自転車事業を始めたのか、だ。

○きっかけは趣味

パイオニアの自転車部品開発のアイデアが生まれたのは2008年12月のこと。当時、研究開発部に所属していた藤田氏のもとに、新たな研究テーマを提案する番が回ってきたのが始まりだ。研究開発部は新規事業のための研究・開発も担当している部署であり、研究テーマの立案自体は特別なことではない。しかし、いつもと少し違ったのは、新しいことをやろうという空気感だった。

そこで、藤田氏は自身の趣味であった自転車のパーツを作れないかと考えた。使用していたサイクルコンピュータの使い勝手が悪かったからだ。本稿の主役となるパワーメーターを見ても、海外製ばかりで価格は高かった。かつ壊れやすいという評判で、どうにかできないかと感じていた。だからこそ、藤田氏は「お金を出してでも、本当に欲しいと思ってもらえる物を作ろうと考えた」という。

●パイオニアと自転車機材をつないだもの
ここでパワーメーターについて少し説明しておこう。パワーメーターとは、自転車の動力計のことである。パワーメーターを自転車に取り付け、パワーメーターのセンサーを通じて、どれだけの力で自転車をこいでいるのかを計測できる機材だ。計測値(ワット)はサイクルコンピュータで確認する。

パワーメーターを使うことで、走行時のペース配分(踏みすぎて疲れないようにする)に役立てたり、走行後も、過去のデータと比較してパフォーマンスをチェックしたりすることができる。ほかにも、トレーニングの強度、疲労なども確認でき、レースに向けてのコンディショニングにも使われたりしている。いわば、競技志向の高い人ほど欠かせない機材だ。

精密機器であるがゆえ、価格も高い。今では精度にこだわらなければ、2万円も出さずに買えるものもあるが、それなりのものを買おうとすれば、10万円から30万円程度かかり、高価な機材といえる。

○生きるパイオニアの知見

自転車を趣味にしている藤田氏の「本当に欲しいものを!」という気持ちはわかるが、それでも自転車の機材は、パイオニアの本業とは遠い。それでも開発が進んだのは、研究開発部のメンバーや上長も自転車が趣味で、提案内容が理解されやすかったこともあったようだが、根本的には、本業のバックボーンが生かせたからだ。

「パイオニアの技術、試験設備がなければ、スピーディーに事業化は進まなかったと思います」。こう開発過程を振り返るのは碓井氏だ。

開発したセンサーは、自転車のクランク部分に取り付けられ、微細なひずみから力を検出する。そこには、レーザーディスクで培った微細信号検出技術が使われているという。センサーで検出したひずみは、無線でサイクルコンピュータに送られるが、その信号伝送も、オーディオ機器で培った技術だ。

そして、何より"壊れない"製品に仕上げるための試験設備だ。振動、衝撃、防水、防塵、耐候性能をテストする設備があり、まさに開発環境は整っていたわけである。

●製品化まで4年強
最終的にパイオニアが作り上げた自転車機材は、「ペダリングモニターシステム」と呼ばれるものであり、力を計測するセンサー、計測値を表示するサイクルコンピューター、採取したデータを記録・分析するウェブサービスのシクロスフィアで構成されている。

しかし、こうした開発環境がありながらも、製品化を迎えるまでには4年強の歳月が必要だった。第1世代のペダリングモニターシステムがテスト販売の日を迎える2013年7月まで、開発は続き、試行錯誤が続いた。

そこに至るまでビジネスの旨味はまったくない。ある意味、経営陣の忍耐強さには敬服するところだが、経営陣ならびに藤田氏、碓井氏も我慢ができたのは、大きな期待感があり、手応えを得ていたからにほからない。

開発過程では、奇跡的な巡り合わせがいくつかあり、他社製品をしのぐ革新的な機能の創出などにつながっていく。開発過程の事業化に向けた大きな推進力になっていったのだ。

(大澤昌弘)