中国の書店ではどんな日本関連の書籍が並んでいるのでしょうか?(写真はイメージ)


 日本の書店に置いてある中国関連書籍は大半が中国批判本で、「もうすぐバブルが崩壊するぞ」といった内容の書籍が次々に発行されています。「今年こそ中国バブルが崩壊する」という本がなぜ毎年出版されるのかはさておき、逆に中国の書店にはどのような日本関連の本が置いてあるのでしょうか。

 第1に挙げられるのは、日本式経営を解説するビジネスノウハウ本です。次に、これに負けじと多いジャンルとして娯楽小説があります。特にミステリー作品は中国語の翻訳版が数多く出版され、ドラマや映画など映像化作品も視聴されるなど強い関心が持たれています。

 海外における日本書籍というと漫画作品の流行ばかりが取り上げられがちですが、中国では日本の文学作品も高く評価されています。今回は、その現状について紹介しましょう。

中国の書店の外国文学コーナー。村上春樹や松本清張といった日本の小説家の作品が並ぶ(筆者撮影、以下同)


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中国でも大人気の村上春樹

 中国において最も著名な日本人作家は、おそらくどの中国人に聞いても十中八九、村上春樹氏の名前を挙げるでしょう。村上氏の作品は一定規模以上の中国の書店であれば、ほぼどこでも取り扱われ、「日本文学」または「海外文学」コーナーで平積みにされていることも珍しくありません。

 実際、中国の検索大手「百度(Baidu)」で日本人作家に関する検索を行うと、必ずと言っていいほど検索候補に村上氏の名前が表示され、代表作として『ノルウェイの森』(中国名『挪威的森林』)のタイトル名が同時に候補として表示されます。

 村上氏の作品は、筆者が北京へ留学していた10年以上前から中国で高い人気を得ていました。当時は『海辺のカフカ』(中国名『海辺卡夫卡』)が人気で、行く先々の本屋で平積みにされているのを見ながら、「翻訳されているとはいえ、反日的と言われる中国でこんなにも日本文学が受け入れられるものなのか?」と不思議に思ったものです。

 村上氏の2013年発売の作品『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(中国名『沒有色彩的多崎作和他的巡禮之年』)には既に翻訳版が出ているものの、今年2月発売の『騎士団長殺し』(中国名『騎士団長殺人事件』)はまだ翻訳版が出ておらず、中国のネット上ではいつ翻訳が出るのかと待ち遠しいという声も散見されます。

 なお村上氏以前は、渡辺淳一氏が日本の作家として高い人気を博し、『失楽園』は1990年代の中国でも大流行しました。

 ただし、中国で出回っていた『失楽園』は多くが海賊版だったようです。当時、渡辺氏が海賊版の出版元を調べてみたところ、正式に出版権を付与した出版社の子会社だったと述べています。中国の出版社にしてみれば、親会社が取得した権利を子会社が使っても問題ないということだったのでしょう。

村上春樹氏の『1Q84』の中国語版


ミステリー作品に惹かれる中国人

 村上春樹氏に次いで中国で人気のある日本人作家となれば、ほぼ間違いなく東野圭吾氏の名前が挙がってきます。

 東野氏の作品は、中国の多くの書店で取り扱われているだけでなく映像化作品としても広く視聴されており、新刊が発売されると書店内で大々的にPOP広告が掲示されるなど強い人気を得ていることが見てとれます。

書店では人気の高い東野圭吾氏の作品がズラリ


 中国のネットを見ても、その人気ぶりは明らかです。「東野圭吾作品おすすめ9選」と題されたサイトでは、『白夜行』『容疑者Xの献身』『放課後』『悪意』『秘密』『手紙』『時生』『宿命』『さまよう刃』が推薦されており、日本人である筆者の目から見ても、なかなか渋い選出の仕方をしているなと思わせられるラインナップです。

 このほか中国の書店やネット上でよく見る日本人作家名としては、やはりミステリー作家の京極夏彦氏、綾辻行人氏の名前が挙げられます。

 中国人が集うあるネット掲示板では、「誰のミステリー作品が好き?」という議題で、この2人に東野圭吾氏を加えた3人の作品の傾向や特徴、個別の作品論などについて激しい議論が展開されていました。筆者はまさかこれほどまでに日本の小説作品に入れ込む中国人読者がいるとは思わず、素直に驚かされました。

「中国人にあのロジックは作れない」

 知人などに聞いたところ、中国で日本のミステリー作品に入れ込む層としては、20代を中心とした若い女性が多いとのことです。実際に筆者も通勤途中、地下鉄車内で日本のミステリー作品をスマホで読み耽るOLらしき女性を見たことがあります。

 一体どうしてこれほど日本のミステリー作品が中国人に受け入れられているのでしょうか? 日本の小説を愛好する知人の中国人女性に聞いみたところ、開口一番に「中国人にあのロジックは作れない」という言葉が出てきました。

 その女性によると、日本のミステリー作品には、中国の作品にはまず見られない斬新な推理ロジックやトリックがふんだんに盛り込まれており、それらが非常に新鮮だというのです。その女性は東野圭吾氏の作品が特に好きで、主要な作品はすべて読んでいるそうです。また、ミステリーをテーマとした漫画作品『名探偵コナン』も好きらしく、アニメもよく見ているということを明かしてくれました。

 中国では、頭を使うミステリー作品が気を得やすいようで、『名探偵コナン』だけでなく、やはりミステリー漫画の『金田一少年の事件簿』も高い知名度と人気を誇っています。

ミステリーに餓えた中国の読書ファン

 さて、上記の女性へのインタビューを行った後、中国には本当にミステリー作品がないのか疑問に思い、改めて現代小説やドラマ、映画などを見渡してみました。すると確かに推理やトリックを中心に据えたミステリーと呼べそうな作品が見当たりません。

 テレビでも中国の刑事物ドラマはアリバイや証拠をじっくり追及することなどなく、日本の「西部警察」よろしくひたすら派手なアクションでドンパチやらかす番組ばかりが思い浮かびます。そのような意味では、確かに中国人は入り組んだ推理ロジックを作るのが苦手なのかもしれません。

 中国人は基本的に日本人と比べて読書家です。家の外にいても、少しでも空き時間ができるとスマホでネット上の読み物や電子書籍を読んでいます。そんな読書家である中国人たちから見ても、日本の小説のミステリー要素は非常に新鮮でクオリティーが高く魅力的に映るようです。

 さらに筆者の個人的な見解を付け加えると、日本と中国は同じ漢字文化圏にある上、魯迅作品を含めて中国の現代小説が日本からの影響を強く受けているという背景もあるようです。小説の構成やストーリー、登場人物の設定など共通している要素が多いことも、日本の文学作品が受け入れられやすい理由の1つになっているのではないかと感じられます。

 筆者は1人の日本人として日本の文学作品が中国でも読まれていることを素直にうれしく思います。ただその一方で、日本では近年、出版不況から新人賞がどんどん廃止されるなど新進の作家や作品が登場しにくい環境になっていることが気がかりです。そのような中で日本の小説家は今後も外国人に受け入れられるような作品を供給し続けられるのか? そんな不安もあり、今回は1つの論点として中国の現状を報告させていただきました。

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筆者:花園 祐