私は数カ月前までファンドマネジャーという肩書きだった。最近こそ「投資ファンド」という言葉は毎日のように新聞紙面で目にするようになった。しかし、私がファンドファンドマネジャーになった十数年前は、まだまだ黎明期でいわゆる有名なドラマのイメージが強かった。

 私はヌーベルバーグ(新しい波)というこのコラムの中で、現在の資本主義の限界に着目しながら、我が国における新しい「資本」、つまり志のある「志本(しほん)」の流れを紹介していきたいと思う。

 投資ファンド業界は、日本国内にこれまでなかった「資本」の流れを生み出した。私募ファンドと言われる公の市場を通さない資金調達などを含めると正確な統計を取ることは難しい。

 筆者調べによると狭義の投資ファンドであるプライベートエクイティファンド*1というカテゴリーでみると毎年5000億円強の大きな資本が、ファンドを通じて資本の再分配をする役割を担っている。

 これは2007年から2016年までの10年間の東京証券取引所における株式新規公開(IPO)時の平均調達額が年1300億円程度であることを考えるとかなり大きな金額だと分かる。

*1=主に未公開株式へ投資する投資ファンド

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

金融機関に借金するしか方法がなかった日本の中小企業

 最近では事業価値が2兆円とも言われる経営再建中の東芝の半導体事業売却の受け皿として投資ファンドの名前をよくニュースで耳にする。

 これまでは誰もがリスクを取りたがらなく資本の流入が滞ってしまった倒産企業や、既にピークを越えてゆるやかな衰退局面にある衰退事業に対して、新たな資本を注入し、再び輝きを取り戻すための活力を与えるという、新しい「資本の流れを生み出す」価値を提供してきた。

 なぜ我が国においてこのような投資ファンドという産業が成長してきたのだろうか。それは我が国の伝統的な資本の仲介役である金融機関の役割と関係している。

 我が国における企業の資金調達はどのように行われているのか。

 図(次ページ)の通り財務省の法人企業統計調査年報によると、企業活動の調達の内訳を示す貸借対象表の負債と資本の部合計に対して、大企業では23.4%、中小企業では実に29.8%を金融機関からの借入に依存している。

(*配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49902)

 特に証券市場に上場していない中小企業においては、資金調達の手段が限られているため、経営者が身銭を切って出資するか、金融機関からの借入によって資金調達するかしか選択肢がほとんどなかった。

 このような金融機関からの借入による資金調達を間接金融と呼ぶ。間接金融に対して、資本による調達(主に株式を発行して調達する手法)を直接金融と呼ぶ。

 なぜ間接金融と呼ばれるかというと、銀行をはじめとした金融機関の多くは、預金という個人や法人が預けたお金を、企業の事業活動のために貸し出す(企業から見れば借り入れる)ため、金融機関を通じて間接的に資本の出し手である個人や法人から資金調達をするため、間接なのだ。

出典:財務省「法人企業統計調査年報」をもとに筆者作成


 しかし、企業の事業活動を支えてきた間接金融という機能に大きな異変が起き始めている。

 金融の世界では信用創造という言葉がある。

 金融機関が100しか預かっていない預金を100以上の貸し付けに回すことで、本来存在している資本以上の資金を市場に流通させる機能を持っているためだ。

 「64.9%」、これが2016年末の金融機関(全国銀行ベース)の預貸率と呼ばれる数値だ。

 「貸出÷預金」で算出される預貸率は1998年までは100%を上回っていた。100%を上回っているということは、金融機関の持つ信用創造によって、元手以上の資本が経済に循環している血の巡りが良い状態だ。

出典:「日本銀行統計資料」を基に筆者作成


 しかしながら、上述の通り、我が国の金融機関の預貸率はおよそ65%。個人や法人など資本の出し手が金融機関に預けた資本のうち、約35%が企業の事業活動には用いられていないことになる。まるで経済活動に必要な血の巡りが滞る動脈硬化だ。

金融街・大手町の銀行本店が並ぶ永代通り


 地域別にみると、大都市東京を擁する関東が頭一つ抜けて高く、中部・東北・中国・四国など地方に行けば行くほど深刻な状況であることが分かる。

 それでは貸出によって運用し切れない金融機関は、どうやって預金者から預かった資本を運用しているのだろうか。調達資金にも利息というコストがかかっているため、資金を寝かせておくことはできない。

 特に運用状況が深刻な地方を主な営業地盤とする地域銀行の貸借対照表を時系列に並べてみると資本の流出先が見えてくる。

 地域銀行の貸借対照表によると、保有する有価証券残高が逓増している。中でも1998年頃は地域銀行全体で130兆円程度だった国債保有残高が、2013年頃には3倍強の420兆円程度まで増加していることに気がつく(下の図)。

出典:日本銀行統計資料を基に筆者作成


 それは日本国という非常にリスクの低い相手に対しての運用手法である。

 営業経費もかけず、難しい与信判断もせず、貸し倒れというリスクも取らずに済む、言ってみればお手軽な運用手法の1つが国債での運用だ。

 少し乱暴な表現を用いると思考停止状態だ。あまりに国債で運用する金融機関が増えすぎてしまったことから、日銀が昨年導入したマイナス金利政策は大きなインパクトを地域銀行にもたらした。

 地域金融機関の預貸率は、全般的な傾向として都市部よりも地方に行くとより深刻な状況であることが分かる。地域金融の中心を担う地方銀行*2および第2地方銀行*3全105行のうち、預貸率上位陣は100%超の北九州銀行など福岡勢が占める。

 一方、預貸率下位は特殊状況もあると思われる東日本大震災の被災地を除くと、中部勢など50%近い水準にとどまっていることが分かる。特に下位は過疎が厳しいと言われている地域とおよそ重なっている。地方に行けば行くほど、金融仲介機能低下は深刻なのである。

*2=全国地方銀行協会加盟金融機関
*3=第2地方銀行協会加盟金融機関

これまで考えもしなかったものに投資する

 このような本来銀行をはじめとした金融機関が担ってきた金融仲介機能が、人間の動脈硬化のように機能低下を起こし始めた中で、投資ファンドという新たな金融仲介機能がその存在感を増すことになる。

 投資ファンドは、これまで考えもしなかったものに資本を投下し始める。金融機関の不良債権がその1つだ。

 我が国はバブル経済崩壊の爪痕として金融機関は不良債権問題に頭を抱えることになる。

 金融機関はバーゼルという国際基準や国内基準でも厳しい自己資本比率規制を課せられており、不良債権問題によって日本の金融仲介機能は身動きが取れない状態に陥っていた。

 不良債権とは文字通り当初の約定通り回収することが困難な貸付債権のことを指す。その貸付先の代表的なものの1つはゴルフ場だ。

 ゴルフ場は都市部からは離れた郊外や地方に多く存在し、いったん不良債権化してしまうと、土地として売却しても二束三文にしかならないため、多くの金融機関はその処理に頭を抱えていた。そのゴルフ場向けの問題の対象である不良債権に金融商品としてに価値をつけて資本を投下したのだ。

 ほかにも、地方を代表する産業の1つである温泉旅館も投資ファンドの資本投下を受けて蘇った老舗旅館も多い。鬼怒川温泉の老舗旅館である鬼怒川金谷ホテルや別府温泉で1番館の杉乃井ホテルなどの著名な名宿は代表的な事例だ。

 価値がつけられなかったものに価値をつける取引。まさに新しい資本の流れの1つだ。

日本銀行本店


 投資ファンドは、資本主義国家・日本において、一定の新しい資本の流れを生み出した。そして、一定の認知度を得て、市民権を得ることができた。それは間違いないだろう。

 しかしながら、私たちは改めて考えなければならないことは、新しい仲介機能である投資ファンドの多くは、東京に拠点を持つシステムであるということだ。

 既述の通り、地方に行けば行くほど従来の地域金融機関を中心とした金融仲介機能が弱ってしまっている。地域金融機関の貸借対照表に計上される有価証券のうち、国債や株式などの伝統的な運用手法を除いた「その他」という項目の金額が増えてきている。

 その中の1つが、「投資ファンド」向けの出資だ。地域の個人や法人などの預金者が拠出した資本を、その地域で企業向けの貸し出しという形で運用する地域循環型の信用創造、まさに地域の血のめぐりだ。

東京型人工心臓による金融仲介機能

 それが、東京にある投資ファンドという高機能の人工心臓を経て、血流が地域に再供給される仕組みは少しいびつであることは間違いないだろう。地域に住む人々の志は、その資金の供給機能の中に組み込まれていると言えるだろうか。

 この東京型人工心臓による金融仲介機能に問題意識をもって取り組む新しい取り組みも少しずつ広がり出した。 

 今年に入ってから飛び込んできた、神奈川県の湯河原温泉のシンボルだった「富士屋旅館」を国が出資する機関でもある地域活性化支援機構と地元の横浜銀行が共同で設立するファンドを活用して再生するというニュースは、地域金融機関が直接金融における金融仲介機能を果たした新しい流れだ。 

 地域の事業と地域を応援する人の志のこもった資本「志本」とをつなげるクランドファンディングという手法を用いた新しい直接金融での金融仲介機能を果たす手法も広がりつつある。

 「動脈硬化」を起こしかけた地方の資本の流れ。直接地域の資本の出し手から「志本」を届けられるような新しい直接金融の仕組みこそが、地方創生に取り組んでいかなければならない私たちが必要としているものかもしれない。 

筆者:藤井 雅巳