イギリスの新紙幣に恥ずかしい間違い? 「名言語っているみたい」と5ポンド札が物議

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 イギリスで2016年9月に新しい5ポンド札(約725円相当)の流通が始まったが、印刷されている文字が文法間違いではないかとイギリスで話題になっている。

◆恥ずかしい間違い?
 新しい5ポンド札は、表にエリザベス女王の肖像画があしらわれており全体的に青っぽい作りで、基本的なイメージは旧5ポンド札を踏襲している。しかし素材は、イギリスの紙幣では初めてとなるポリマー製。イングランド銀行の5ポンド札紹介サイトによると、強度はこれまでの紙幣と比べ2.5倍という。さらにシースルーの窓やホログラムのおかげで偽造が難しい作りにもなっている。

 そんな最新の5ポンド札なのだが、「恥ずかしい文法ミス」が発見されている。5ポンド札には今回、裏面にウィンストン・チャーチル元首相の肖像画と、「I have nothing to offer but blood, toil, tears and sweat」(「私が差し出せるものは、血と労苦、涙、汗だけである」)という言葉が印刷されている。この言葉は、チャーチル元首相が1940年5月13日に下院で演説した際の有名な一節だという。

 オックスフォード大学で英文学を教えるタラ・スタッブス博士はテレグラフ紙に対し、5ポンド札に印刷されているこの言葉には、引用符もなければ、文章の終わりを示すピリオドもなく、そしていわゆる「オックスフォード・コンマ」と呼ばれる「and」の前のコンマもない、と文法間違いを説明している。イギリスの読み書きレベル向上に向けて活動している団体「ナショナル・リテラシー・トラスト」の広報担当者によると、「誰かの言葉をその通りに引用するなら、引用部分の始めと終わりを二重引用符でくくる必要がある」という(テレグラフ)。

メトロ紙は、引用符がないためにまるでチャーチル元首相の発言ではなく5ポンド札が、「(5ポンドという価値の代わりに)私が差し出せるものは、血と労苦、涙、汗だけしかない」と言っているようだ、と指摘する。

◆チャーチル元首相は気にならなかったかも
 テレグラフによると、紙幣発行に先立ちイングランド銀行が発表した5ポンド札の画像には、引用符もコンマもあった。しかし最終的に発行された紙幣には前述の引用符やコンマ、ピリオドが削除されており、「見た目に美しいデザインを優先するために文法を犠牲にした」という批判が上がっているという。一方で、エジンバラ大学の文法の専門家ジェフ・パラム教授は「ピリオドが必要なのはつながった文章においてであり、引用符に関してもここではチャーチル元首相の発言と明らかなので不要」(テレグラフ)として、文法間違いという批判を一蹴しているという。

 ただし王立文学協会のリサ・アピニャネジ会長は、チャーチル元首相が存命していたら恐らく、文法間違いよりも、自分がなぜポンド紙幣で一番価値の低い5ポンド札に使われているのかの方が気になったのではないか、と指摘している(テレグラフ)。

◆コンマ1つで大違い
 コンマは日本語の読点に似ているが、読点はわりと自由に打っていい一方、英語のコンマは読点より細かいルールが存在する。コンマの有無により、文章の意味が変わってしまう可能性も多いためで、英語圏ではたびたびジョークのネタになっている。例えば簡単なところでいうと、コンマありの「Let’s eat, grandma」となしの「Let’s eat grandma」の場合、前者が「おばあちゃん、食べましょう」と食事を始めようとしている家族団らんの場面が思い浮かぶのに対し、後者は「おばあちゃんを食べましょう」とホラー映画並みの場面が脳裏に浮かんでしまう。

 特にその使用法について議論されることが多いコンマに、「オックスフォード・コンマ」がある。オックスフォード大学出版局の編集者らが表記ルールとして使用していたことからこう呼ばれると言われており、オックスフォード英英辞典は、「リストの最後のandの前に付ける、任意のコンマ」と説明している。「任意」ということは付けても付けなくても文法的には間違いにならないのだが、このコンマの有無で文章の解釈が変わってしまうことが多く、たびたび議論が起こる。オックスフォード・コンマがなかったことで法律の解釈に疑義が発生し、法廷で争われたケースが今年3月アメリカであった話は、本サイトでも当時紹介した。

 ウェブ誌『クオーツ』は5月3日、著名人がオックスフォード・コンマについてツイッター上で自分の意見を表明する様子を伝えた。というのも、Celebrityoxfordcomma(@CelebrityOxford)という謎のツイッター・アカウントが、2014年ごろから著名人にツイッター上で「オックスフォード・コンマの使用について、あなたはどちらの立場ですか?」と質問を投げかけているのだ。質問はほぼ無視されているようだが、返信のあったケースではほとんどが「賛成」のようだとクオーツは伝えている。女優のルピタ・ニョンゴ氏やヤフーのCEOマリッサ・メイヤー氏などは、賛成派であると明確に回答している。

 バズフィード英語版ではこれまでたびたびオックスフォード・コンマの大切さを、イラストや写真とともに解説する記事を掲載している。2015年2月23日付の記事では、「We invited the strippers, JFK, and Stalin」という例文を挙げ、オックスフォード・コンマありだと「ストリッパー、JFK、スターリンを招待した」という文になるが、ない文章「We invited the strippers, JFK and Stalin」だと招待したストリッパーが誰であるかの説明として「JFKとスターリン」と書かれていることになる、と説明している。

 このように、小さな点1つと侮ると大変な誤解を生じる可能性があるオックスフォード・コンマだが、古い5ポンド紙幣は5月5日をもって法定通貨ではなくなり、オックスフォード・コンマや引用符、ピリオドを割愛して文法間違いが指摘される新5ポンド札が今後は唯一の5ポンド札となる。