左から、藤井健太郎、アイナ・ジ・エンド、高根順次

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 藤井健太郎 × BiSHアイナ・ジ・エンド × 高根順次による、書籍『PRODUCERS' THINKING』発売記念鼎談の後編。前編では、同書の裏テーマである「好きなことで生きる」にちなんで、それぞれの仕事観や現在のエンターテイメント業界について話し合った。後編では、さらに話を掘り下げて「好きなこと」「面白いと思うこと」を追求するためのポイントや心構えについて語り合った。

参考:藤井健太郎 × BiSHアイナ・ジ・エンド × 高根順次が語る、「好きなことで生きていくホントの方法」

■アイナ「足りないのは行動力や実現力」

高根:藤井さんは、テレビ局でマスを相手にしながらも、自分が面白いと思ったことをやり続けていて、BiSHもメジャーで人気がありながら、かなり尖っている。そういう意味でお二人は似たポジションにいると思うんですけれど、BiSHはこれからさらに上を目指すうえで課題もありますよね。プロデューサーの渡辺淳之介くんは、BiSHで何をやれば面白いのかについて「俺もわからない」って言っていて、ここがBiSのときと大きく違うところで、興味深い点でもあります。

アイナ:それに関しては、藤井さんの言葉にヒントがあると思っていて。藤井さんは「面白いものを思いつく能力が高いわけじゃなくて、それを行動に移す能力が高い」って仰っていたじゃないですか。わたし、BiSHの振付けを担当することが多いんですけれど、どうやって情熱とか愛を伝えようって考えたとき、いろいろ思いつくものはあるんです。でも、それをすぐ行動に移して、形にすることがなかなかできない。足りないのは行動力や実現力なんだなって、実感しています。

高根:渡辺くんも、本当はアイデアを持っているのに、それを行動に移せていないだけかもしれない。最近いろんな業界人や有名人がBiSH注目しているらしいんですよ。で、僕が渡辺くんに「BiSHすごいじゃん、風が吹きまくっているじゃん」って言ったら、「そうなんですよ。風は吹いているのに、帆を張れていないんです」って答えてきて。マネージャーとしてBiSHに対する全責任を負っているからこそ、子離れが難しくなっているのかもしれない。渡辺くんはプロデューサー兼マネージャーだから、世の中に対して彼女たちをどう売り込んでいくのかを考えなければいけない立場なんですよね。で、BiSHが想定外に大きくなってきて、どういう風に対処していけば良いのかがわからないのが、現状なのかなと。

アイナ:BiSみたいに、ひたすら過激な面白さを追求する感じでもないから、方向性がわかりにくいんでしょうね。

藤井:BiSの場合は、人気のないところから始まって、世の中の人たちに知ってもらうための戦略でしたからね。そこにたどり着いた今、次の一手に躊躇してるんですかね。

高根:最近のメジャーに出てからの2曲、『プロミスザスター』と『オーケストラ』は、渡辺くんはあんまり好きじゃなさそうだよね。これはディスでもなんでもないけれど、アイナちゃんの歌が立ちすぎているのが、ひとつ難しいポイントではあって。アイナ・ジ・エンド&スーパーモンキーズみたいになるのは、渡辺くんが思うBiSHではないんだと思う。「勝てば官軍、売れれば何でも良い」って人ではないから。

アイナ:わたしの歌をフィーチャーしていただくのはすごく嬉しいし光栄なんですけれど、渡辺さんが褒めてくれないから、プレッシャーに感じることはありますね。一番認めて欲しい人に認められない悔しさというか。渡辺さん、不器用だから正直に態度に出ちゃうんですよ。昔だったらお酒の席とかで、「渡辺さん、次どうするんですか?」なんて気軽に聞けたんですけれど、いまはなんか聞けないです。

藤井:でもアイナ・ジ・エンド&スーパーモンキーズになった場合、アイナちゃんは安室奈美恵になれる可能性もあるわけじゃないですか。今はあんまりそういう風に考えていないと思いますけれど、ゆくゆくはソロになるのだって嫌じゃないですよね?

アイナ:嫌じゃない(笑)。でも、ソロになるにしても渡辺さんには携わっていてほしいなと思います。わたしこそ、親離れができていないのかもしれません。もうちょっと、自立しなきゃ。

■藤井「人間、やっぱり本気が一番面白い」

高根:お二人は表現や制作をしていて、「これはキタな!」って感じる瞬間はありますか? 僕は書籍でも書いているんですが、ラッシュを見たときに「キタな!」って感じることが多いのですが。

藤井:ロケや収録の現場で、自分が想定していたものを超える瞬間というのはありますね。台本やキャスティングの段階で、これがこうなるからこれくらいの感じになるだろうと予測していて、実際にやってみたら、とんでもないことが起こったり。

高根:そういう瞬間って、なんとなく作っている時には絶対に訪れないですよね。ものすごく熱中して作っていて、トラブルを乗り越えた先に出てきたりするもので。

藤井:やっぱり慣れてくると、思い切りの良さがなくなってきますからね。経験的に、このパターンはまずいなってことがわかってくると、守りに入ってしまうというか。もちろん、意識して踏み込むようにはしているけれど、やっぱり昔に作ったものの方が度胸があったりもする。粗い部分はあるけれど、初期衝動がちゃんと感じられて。ミュージシャンも、結局のところ、ファーストアルバムが一番良かったりするじゃないですか。だから、そういう気持ちだけは忘れないようにしようって心がけていますね。

アイナ:わたしはそんなにすごい「キタな!」はないんですけれど、たとえばBiSHには、モモコグミカンパニーって子がいて、彼女はあんまりダンスが上手じゃないんです。でも、それが可愛く見える振付けを思いついたときとかは「やったー!」って思いますね。逆にライブでは、自分の達成感とお客さんの満足とが一致しないことが頻繁にあるから、自分で「やった!」って思っても、慢心しないように気を付けています。イマイチだと思ったのに、すごく褒められることもあるし。当時は最高だと感じたライブって、後から自分で見るとすごくダサく思えたりもするんですよね。だから今は、もっと自分たちを越えていきたいってことしか考えられないです。

藤井:客観的な評価って本当に難しいんですよね。ただ、毎回ベストを尽くしたい、さらに良いものにしなければいけないって姿勢は一緒ですね。人間、やっぱり本気が一番面白いんですよ。一度、罰ゲームで獣神サンダー・ライガーさんに思いっきり殴られるってやつをやったら、みんな絶対に殴られたくないからテレビじゃあんまり見たことがないくらい本気になって、異常なテンションの現場になった。「本気でやる」というのは、面白いものを生み出すひとつの大事な条件だと思います。

■アイナ「好きなことを一生懸命やっているのって、かっこいい」

高根:最後に、改めて『PRODUCERS’ THINKING』を読んだ感想を教えてください。

アイナ:これまでMVの撮影とかで、監督さんと打ち合わせで話をすることは多かったので、なんとなく監督が一番偉い人って思っていたけれど、プロデューサーもいないとダメなんだなって気付きました。監督とプロデューサーが、お母さんとお父さんみたいにいて、はじめて良い作品になるんだなって。あと、映画作りについて、これまでイメージしてきたのとは別の視点から学ぶことができたのも良かったです。恥ずかしいんですけれど、今までわたし、映画のエンドロールに出てくる「配給」って、現場のご飯係のことだと思っていたんです(笑)。ご飯は大切だから、あんなにしっかりクレジットされているんだなって思い込んでいました。

藤井:たしかにご飯は大切(笑)。

アイナ:あと、高根さんが、水曜日のカンパネラさんとかSuchmosさんが売れている明確な理由はわからないと仰っていたのも驚きました。プロデューサーの人は、みんな何もかもお見通しだと思っていたんですけれど、こんなに試行錯誤されているんだなって。でも、これからはさっき藤井さんが仰っていたように、好きなことを突き詰めていくことが大事になると思うので、わたしもそうありたいなと。好きなことを一生懸命やっているのって、かっこいいですから。

藤井:僕は帯に書かせてもらったことと重なるんですけれど、高根さんが前書きで書いていたように、プロデューサーって特殊な才能がなくても自分が面白いと思うことややりたいことを具現化できる良い職業で、やりがいがありますよね。たとえばキャスティングで、この人とこの人を合わせてみたら面白いとか、このストーリーをこの監督に撮ってもらったら最高だとか、そういうのを考えるだけでも楽しいのに、具現化することができるんだから、好きな人にはたまらない職業だと思います。漠然となにか面白いことがしたいと考えている人は、飛び込んでみると良いかもしれない。

高根:たとえば、自分で小説を書こうとして、実際に書いてみたらクソかもしれないけれど、プロデューサーになったら花開く可能性はありますよね。僕は正直、今もクリエイションできる人に対する憧れは強いけれど、その憧れこそが、プロデューサーとしても大事なポイントだと思っています。

藤井:そこからクリエイターやパフォーマーに対するリスペクトが生まれますからね。しかも、プロデューサーの仕事ってDJ的なところがあって、言ってみれば情報の選択とその組み合わせ方なんですけれど、その要素ってカルチャーと呼ばれるものの非常に大きな部分を占めていますよね。そういう意味でも、プロデューサーの仕事はすごくやりがいがあるし、この本を読めば、その魅力は十分に伝わるんじゃないかと思います。

(構成・写真=松田広宣)