FC東京戦を前半戦のターニングポイントだと考えていた。それだけに、敗戦となったのは非常に残念だ。(C) J.LEAGUE PHOTOS

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 仙台の渡邉晋監督による現役指揮官コラム「日晋月歩」の第9回。テーマは「古巣戦」だ。FC東京には平山相太、三田啓貴、増嶋竜也が在籍していたことがあるが、前に所属していたクラブとの対戦は選手にとってどのようなものなのだろうか。渡邉監督自身の経験も含めて語ってもらった。
 
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[J1リーグ10節]仙台 0-2 FC東京/5月7日(日)/ユアスタ
 
 FC東京戦を前半戦のターニングポイントだと考えていた。結果を残せなかったのは、非常に残念でならない。その重要な試合を迎えるにあたり、「選手たちを煽って送り出す」か「連勝の勢いを買って普段と同様にする」か。
 
 私は後者を選択した。「大一番」のようなことは言わず、「戦うこと」と「楽しむこと」をキーワードとして伝えただけ。世間はゴールデンウィークで、しかもゲームの日は最終日(5月7日)だ。
 
 様々なエンターテインメントがあるなかで、1万7千人を超える人がユアテックスタジアム仙台に足を運んでくれた。さらに画面を通せば、より多くの人が試合を見てくれている。その人たちに何を届けることができるのか。
 
 一番大きいのは、もちろん勝利だ。その他に、見てくれている人たちの心を動かす。それができれば、エンターテインメントとして素晴らしい。心を動かすために必要なことを考えたら、それは「戦っている姿」と「プレーしている選手たちが楽しんでいる姿」だった。
 
 苦悶の表情だけを浮かべていたら、観戦している側も面白くない。「笑顔=楽しい」ではないが、狙ったプレーを表現できた時の選手たちの躍動感は、やらされている姿勢では絶対に出ないだろう。
 
 もしかしたら、「我々の明暗を分ける試合だ」と選手たちに発破をかけていたら結果は違ったのかもしれない。それでも、後悔はない。
 
 そういった戦いで古巣との戦いを迎えたのが(平山)相太、タマ(三田啓貴)、マス(増嶋竜也)の3名だ。相太は負傷もあってベンチ入りしてなかったので、実際にピッチに立ったのはタマとマス。
 
 タマは下部組織からお世話になっていただけでなく、明治大学を経由して戻った経緯もある。昨季のレンタル移籍を経て、今季から仙台に完全移籍を果たしたものの、古巣戦にはより特別な想いで臨んでいたのは明白だった。
 前回の対戦時(3月15日のルヴァンカップ1節)では0-6と大敗。タマは気持ちが空回りしていた。ピッチに送り出す時に見た顔つきは強張っており、とてもじゃないが平常心とは言えなかった。
 
 なので、今回はタマと目が合うたびに「リラックス、リラックス」と執拗に声を掛けた。あいつは「うるせぇな」と思ってたんじゃないかな(笑)。
 
 その効果もあってか、良い精神状態で相手と向き合えていたと感じる。本人は「決められるシーンでしっかりとゴールを奪いたかった」という気持ちはあるだろうけど、ゲームを作るという意味でもタマが果たした役割は大きかった。
 
 大袈裟な言い方ではなく、ルヴァンカップのFC東京戦に比べればパフォーマンスの質は段違いに良かった。展開力とスペースを見つけてボックス内まで侵入する能力を遺憾なく発揮しており、負け試合といえども、手応えを掴んだはずだ。
 
 また、巡り合わせもあって、タマのJ1通算100試合出場の記念セレモニーをキックオフ前に行なった。ご両親もスタジアムに顔を出していたし、対戦相手がFC東京だったという事実と相まって、きっと思い出に残る一戦になったと思う。
 
 自分の現役時代の話を少しさせてもらえば、古巣戦では「やってやろう!」という想いがあった。1996年に札幌に入団するも、1年でクビに。甲府に拾ってもらえたのだが、札幌戦では気負っていたのを覚えている。