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5月7日に実施されたフランス大統領選の決選投票で、中道で「親EU」のマクロン氏が、極右で「反EU」のルペン氏を大差で下して勝利しました。これで、トランプ現象とも呼ばれる自国優先主義、ポピュリズム(大衆迎合主義)の潮流はひとまず食い止められ、「反EU」の拡大にも歯止めがかかりました。

○フランス大統領選はマクロン氏が勝利

マクロン氏が掲げた経済政策を見ても、フランス経済の立て直しのために自由貿易の強化、法人税の大幅減税、労働市場の改革などを打ち出すとともに、その一方で弱者にも目配りした政策を盛り込むなど、比較的バランスの取れた内容となっています。

今回は事前の世論論調査でもマクロン氏の支持率が約60%、ルペン氏が約40%程度と報道されていましたが、その予想以上に票差が開きました。やはり極右政党の党首を大統領にしてはならないというフランス国民の意識が強かったと言っていいでしょう。第1回投票で決選投票に進めなかった共和党(中道右派)のフィヨン氏、社会党(中道左派)のアモン氏がマクロン氏支持を表明したことも、マクロン氏に票が集まりやすくなりました。

しかしそれ以上に内容的に注目すべきだったのは、「反EU」と移民排斥を主張していたルペン氏に対し、マクロン氏がEUとの関係強化と移民受け入れを強く主張し続けたことです。実は、この点が米大統領選との重要な違いとなったことを強調しておきたいと思います。

どういうことかと言いますと、ルペン氏は「移民排斥」「アメリカ・ファースト」など自国優先主義のトランプ氏と共通点が多いことは周知の通りで、その対抗馬という点ではマクロン氏はヒラリー・クリントン氏と似た立場だったと言えます。しかしクリントン氏は当初は「自由貿易主義」を標榜し「TPP賛成」を表明していましたが、次第にトランプ旋風に押されて保護主義的な姿勢を見せるようになり、TPPにも事実上反対姿勢を打ち出すようになっていました。つまり自らもポピュリズムの誘惑に負け、そのことが政治姿勢や政策に一貫性を欠く印象を与えたことがクリントン氏の隠れた敗因になったと私は分析しています。

しかし今回、マクロン氏はポピュリズムに流されることなく「親EU」の姿勢と政策を真正面から掲げて闘いました。しかも単に「EUが必要」「EUから離脱すると経済が悪化する」といった"守り"の主張ではなく、「フランス経済のためには強いEUが必要だ」とEUとの現状以上の関係強化とEU自体の強化を訴えたのです。これが勝因の一つとなったもので、逆にルペン氏が途中から「反EU」の主張を弱めたほどです。このことは、ポピュリズムの流れを食い止めるためには何が必要かを我々に教えてくれているような気がします。

マクロン氏が掲げた経済政策を見ても、フランス経済の立て直しのために自由貿易の強化、法人税の大幅減税、労働市場の改革などを打ち出すとともに、その一方で弱者にも目配りした政策を盛り込むなど、比較的バランスの取れた内容となっています。

○マクロン勝利による市場影響は?

今回のフランス大統領選の結果、反EUと自国優先主義、ポピュリズムの拡大との流れはいったん歯止めがかかったと見て、8日の東京株式市場では安堵感が広がりました。日経平均株価は450円高の1万9895円と今年の最高値を更新し、2万円の大台まであと一息のところまで回復しました。外国為替市場でも一時、ユーロに買いが集まり、対ドルでも対円でも上昇しました。

欧州市場ではすでに選挙前にマクロン勝利を見越してユーロが買われ株価も上昇していたため、ユーロは売られフランスやドイツの株価も下落しましたが、それでも市場には安心感がひろがっており、当面は株価の上昇傾向が続き、欧州と世界の景気も上向くことが期待されます。

○マクロン政権が抱える課題は経済の立て直し

しかしこれでもう安心と言うわけにはいきません。マクロン政権の前途には数多くの難題、課題が待ち受けており、その行方次第では欧州と世界全体にも大きな影響があることに依然として変わりありません。

これはすでに多くのメディアが指摘している点ですが、マクロン氏の勝利はいわば「消去法」で選ばれた色彩が濃いということです。決選投票では有権者の選択肢は「マクロン氏」「ルペン氏」「棄権または白票」の3つしかないわけで、マクロン氏に票を投じた有権者は「マクロン氏に全面賛成ではないが、ルペン氏よりマシ」「ルペン大統領の誕生だけは阻止すべきだ」という人が多かったと推測されます。

また米国のトランプ大統領の政策による混乱や批判が広がっていることから、フランスの有権者が"ルペン大統領"誕生への警戒感を強めることにつながった面もありそうです。

こうした背景で勝利したマクロン氏ですから、政治的基盤は今のところ非常に弱いのが現実です。彼が昨年に立ち上げた「前進」は政治グループとしては拡大しているようですが、議会ではまだ議席がありません。新大統領は今後、首相や閣僚を任命して政権をスタートさせることになりますが、決選投票で支持を表明した共和党や社会党などの協力をどこまで取り付けられるかがカギとなります。

そして6月には下院選が実施されます。その結果によってマクロン大統領の政権基盤の状況がはっきりしてくるでしょう。もし少数与党の政権運営を余儀なくされれば、政策が思うように実行されず、そうなれば改めて国民の不満と政治不信が高まるおそれがあります。

新政権のこの連載で以前に指摘したように(第84回・4月25日付け掲載)、新政権の最大の課題は経済の立て直しです。フランス経済は低迷が続いており、たとえば失業率は10.1%(2017年3月、以下同)で、特に25歳未満の若者の失業率は23.7%に達しています。これはドイツの3.9%(25歳未満は6.7%)、英国の4.5%(同11.9%)と比べてはるかに高く、EU28カ国平均の8.1%より高い水準です。ここ1〜2年で欧州の失業率は低下傾向を見せていますが、フランスは1年前から下がっておらず高止まりしたままなのです。

実質GDP成長率もEU全体の平均を大きく下回る状態が続いており、EUの中心国であるドイツや英国とは大きく水をあけられています。このような状態がフランス国民の不満を高め、これまでのルペン氏の支持拡大の背景となってきたものなのです。

したがってマクロン新大統領による経済立て直しが急務で、そのためには抜本的な構造改革が必要です。フランスでは実は長年、共和党(前身政党を含む)と社会党による2大政党が政権を交代で担ってきました。そのひとつである社会党の影響によって政府が出資する国有企業のような大手企業が多く経営にも政府が介入するケースが見られます。硬直的な労働慣行も残っており、やや大げさに言えば社会主義的な色彩を帯びた経済構造が経済活性化を阻害していると言われています。

マクロン氏は「政府が保有する大手企業の株式を売却しそれによって調達した資金を産業革新のための基金に使う」「公務員削減で財政赤字削減」などの政策を掲げていますが、果たして構造改革まで切り込めるかどうかがポイントでしょう。

しかし逆に今後うまくいかなければ、再びルペン氏の支持拡大と反EU機運の高まりを招くおそれがあります。

そのうえ注意すべきなのは、フランスより経済状態の悪い国が欧州には他にも少なくないという事実です。一時より改善したとは言っても、ギリシャは相変わらずマイナス成長で失業率も25%近い水準にあり、経済危機が再燃する恐れを常に抱えています。イタリアも経済不振が続いており、金融機関の不良債権問題という火種の存在が懸念されています。同国でも極右政党や反EU政党が勢力を伸ばしており、来年に予定されている総選挙が今年に前倒しされる可能性があります。

このように、欧州経済と政治のマイナスの連鎖は食い止めなければなりません。欧州全体への影響という意味でも、フランス新大統領の役割は大きいと言えます。マクロン新大統領の手腕が問われることになりそうです。

○執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

オフィシャルブログ「経済のここが面白い!」
オフィシャルサイト「岡田晃の快刀乱麻」

(岡田晃)