ドナルド・トランプ米国大統領(ZUMA Press/アフロ)

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 4月下旬、北朝鮮問題への不安から神経質になっていた金融市場は一変し、米国の株式を中心にリスク資産の価格が上昇するリスクオンが進んだ。背景には、フランス大統領選挙の第1回目投票で、中道派のマクロン氏が首位に立ったことがある。5月7日の決選投票にて極左、極右の候補が対決する展開が避けられたのは大きかった。

 それに加えて期待を集めたのが、米国の税制改革だ。トランプ大統領が4月26日に税制改革に関する発表を行うと発言したことが、投資家のリスクテイクを支えた。2月上旬、トランプ大統領が「“驚くべき”税制改革を発表する」と述べて以降、忍耐強く減税の発表を待つ投資家は多く、「今回こそは」と期待した投資家もいたようだ。ただ、公約以上に詳細な内容は示されていない。トランプ政権に過度な期待を持つべきではないだろう。

●経済対策を具体化できないトランプ政権

 4月29日、トランプ政権が発足し100日が経過した。トランプ大統領は米国第一を掲げ、雇用の創出、製造業の国内回帰、輸出の振興などを通して経済の底上げを図ると強弁してきた。しかし、経済対策の具体的な内容は明らかになっていない。その背景には、政府機関における主要ポストの政治任命の遅れ、大統領の調整能力の欠如などが考えられる。

 それに加え、トランプ政権の自国第一主義の発想は後退しているようにもみえる。26日に発表された税制改革では、法人税率を35%から15%に引き下げ、企業が海外に滞留させてきた利益を国内に戻す際の税率も35%から10%に引き下げると発表された。それに加え、個人向けの減税措置も打ち出された。これは公約通りの内容だ。

 一方、トランプ大統領が輸出の振興のために重視していたとされる輸入への課税(国境税)の導入は見送られた。現実的に考えると、国境税の導入は米国の輸入物価の上昇につながる恐れがある。それが経済にマイナスの影響を与えると懸念する専門家は多い。ある意味では、国境税の導入が見送られたことは、トランプ政権が徐々に現実的な発想に向かいつつあることの表れ、と見ることもできる。

 問題は、そうした政治スタンスが自国の利益優先を求めた有権者に支持されるかどうかだろう。“驚くべき”、“史上最大の”といった誇張表現が目立ちはするものの、減税の大枠に真新しさはない。依然として財源が示されていないことも問題だ。現時点で、税制改革が米国の景気を一層強くするとは考えづらい。

●限界に近づきつつある投資家の忍耐
 
 26日に税制改革案が発表された後、米国の株価は下落し、ドルも売られた。これは、「驚くべきといわれても、驚くに値する内容ではない」との、投資家の率直な反応の表れだ。それでも、米国を中心に主要国の株価は堅調な展開を維持している。6月以降に示される税制の詳細な内容に期待する投資家は多いようだ。

 いうなれば、いつ実現するかわからない経済対策を期待して、投資家は粘り強く辛抱している、というのが現状だ。この忍耐がどの程度続くかが、今後の金融市場を左右するだろう。冷静に考えると、トランプ政権が経済対策を実行に移すのは難しいと考えられる。財源が示されていない状況のなか、財政均衡を重視する共和党の保守派議員が減税案に賛成するとはいいづらいからだ。

 今後も、誇張表現は目立つが、経済対策の詳細が示されない可能性がある。すでに、新車販売台数が年初から3カ月続けて減少するなど、米国経済のファンダメンタルズ(=基礎的条件)は不安定さを増している。トランプ政権が経済対策を実行できないなかで経済指標が悪化し始めると、これまで以上のマグニチュードで期待が剥落する恐れがある。

 発足後の100日間、世界の投資家はトランプ大統領の実行力を見定めようとしてきた。同氏が内容のない主張を繰り広げるなら、投資家の忍耐は限界を迎える恐れがある。そのため、足元の円安の流れが続くと楽観はできない。米国株式市場の下落などをきっかけにリスクオフが進んだ際には、これまで以上のペースで円が買われる可能性があることに注意すべきだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)