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■どんなクルマ?

羊の皮さえ、かぶっていない

600ps超の4ドアサルーン自体はこれが初めてではない。数年前、キャデラックCTS-Vが実現させていた。ただし、言うまでもなく「並外れた」領域。

英国の道においても、そう簡単に慣れるものではない。

連綿と続くAMGの不朽の名作は、今回大きな転換期を迎えることとなった。どういうことかと言うと、つまり「従来のAMG」からの脱却だ。

4WDが標準で、コイルスプリング式サスペンションからアダプティブ・エアサスペンションになるというのが今回の特筆すべき点。

ドライブトレインが変わったのは、AMGがアメリカの市場開拓に本腰を入れたから。「4WDであること」というのは、プレミアム・ブランドとして販売するにあたって重要なポイントとなる。

サスペンションの変更に関しては、604psのフルパワーを発揮する際にも、乗り心地とハンドリングの幅を広げることを目論んだためであろう。

ラインナップは従来の563psのモデルと、この「S(604ps)」、それから4ドアか、ステーションワゴンも選択可能。

大出力は9速オートマティックを伝って100%のトルクを前後それぞれのアクスルにかけることが可能。また「ドリフト・モード」を選択すると、リアのトルク配分が多くなり、従来通りのAMGの挙動を再現することもできる。

■どんな感じ?

「発進」ではなく「発射」

ツインスクロールターボを採用し、604psを誇るE63SのV8エンジンユニットから発せられるのは至極暴力的な雄叫びだ。

日産GT-Rのような2シーター・スポーツもメじゃないこのクルマ、0-100km/h加速は3.4秒だ。「スーパースポーツ」と呼ばれるクルマたちと競わせても遜色ないスペックである。

「レース・スタート」機能を使うと、最適な回転数でエンジンが制御され、プレーキ・ペダルから足を離した瞬間に、前後のタイヤには最適なトルク配分でパワーが伝達される。これは「発進」ではなく「発射」と表現するほうがいいだろう。

ただギアが繋がるまでの、ほんの一瞬のブランク(気づくかわからないほど)が気になった。

シフトチェンジの際のターボラグはなく、継ぎ目の感じられない過給はターボチャージャー自体がシフトチェンジの際のロスをリカバーしているからだ。

日常遣いにおいても、E63Sのエンジンは「良い子」であろうと努める。低回転でもラグは感じられず、9速のギアを巧みに使うことでレスポンスも申し分ない。

E63の新しい心臓はどこへ持ち込んでも楽しい。

ただ、それを受けとめているシャシーについても同じことが言えるか? と言う問いに対しては、わたしは「イエス」とは言えない。

グリップや安定感はあるものの、それは直感的なものとは違い、意識的に制御されたことが感じ取れる乗り心地。運転する喜びとは少しかけ離れている。

たしかに速い けれど物足りない

3つのチャンバーを備えたAMG製の新しいエアサスは、コンフォート、スポーツ、スポーツ+の各モードでもっと違いを出すべきだとおもう。

コンフォート・モードでの乗り心地は、街中では少し硬い印象。ただし高速ではスムーズな動きをみせたので、このE63を長距離移動に使おうと考えているひとにとっては朗報なのかもしれないが、このサスペンションは、ちょっとしたデコボコの続く道だったり、大きなバンプを超える際は我慢が必要。

レース・モードではESPはカットされ、マニュアル・トランスミッションを選択しているとさらにドリフト・モードが選択可能となる。

このモードを選択している最中は、フルパワーのトルクがリアに伝達されるのでテールを振り回して楽しむことが可能だからである。

まともな路面でドライ・コンディションならば、ドリフト・モードは想像以上に楽しい。E63の鋭いステアリング性能はダイレクト感があるものの、少しアンダーステアを作り出す。コーナリングへの応答性はとても機敏で、軽くいなすことが可能だ。

ただしハンドリングは充分ではない。ドリフト・モードでないときのそれはもたもたした印象で、どこかダイレクトさに欠ける。

4WDシステムもスポーティなモードを選択していると、ドライバーの考える安定感とは乖離が生じ、安定性には少し不満が残る仕上がりだ。

■「買い」か?

スマートさよりも狂気を期待

一般的な見方をすれば、豪華で行き届いた装備であるうえ、ここ10年で考えてもかなり速い。そしてさらに素晴らしく刺激的なクルマときている。過激な一面もあるが、一般道でもサーキットでもオールマイティである。

ただ、その過激さがリスクをはらんでいるとも言える。ドリフト・モードを選択している際は最高に楽しいが、実用的かと言われれば疑問符。

対してコンフォート・モードを選択しているからといって、かゆいところに手が届いている感覚はない。両極端すぎるキャラクターが次第にフラストレーションに繋がってしまう可能性だって大いにある。

これまでのAMGのスタンダードから見てしまうと、このクルマは面白くない。AMGの標榜する、高すぎるスタンダードが招いた結果だろうが、われわれAUTOCARは、スマートなAMGよりも狂気的なAMGを求めている。

メルセデス-AMG E63S 4MATIC+

■価格 £88,295(1,292万円) 
■最高速度 300km/h 
■0-100km/h加速 3.4秒 
■燃費 11.0km/ℓ 
■CO2排出量 207g/km 
■乾燥重量 1875kg 
■エンジン V形8気筒3982ccツイン・ターボ 
■最高出力 613ps/5750rpm 
■最大トルク 86.7kg-m/2500rpm 
■ギアボックス 9速デュアル・クラッチ