ドイツの首都ベルリンのオフィスで、写真撮影に応じるスタートアップ企業「マイン・グルントインコメン(私のベーシックインカム)」の創設者ミヒャエル・ボーマイヤーさん(2017年4月13日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】ドイツの首都ベルリン(Berlin)に住むミコ君はまだ5歳だが、すでに生活資金として月収1000ユーロ(約11万6300円)を得ている。不正ではない。ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI、全国民向け最低所得保障)の試験運用の一環として得ているものだ。

 スタートアップ企業「マイン・グルントインコメン(Mein Grundeinkommen、私のベーシックインカム)」に選ばれた85人(うち10人が子ども)が、2014年からこれを受け取っている。

 同社の創設者ミヒャエル・ボーマイヤー(Michael Bohmeyer)氏(31)は、UBIに対して懐疑的なドイツの世論に対し、UBI構想が有効であることを証明しようと実践に立ちあがった。同氏は「私が初めて手掛けたこのスタートアップのおかげで、自分も定収入を得られるようになり、生活はよりクリエーティブで健全になった。だから今度は社会的実験を始めたいと思った」とAFPに語った。

 UBI構想を試してみたいと考えたのは、ボーマイヤー氏だけではなかった。約5万5000人がインターネット上で資金提供を募るクラウドファンディングを通じてUBIの給付に必要な資金を拠出した。実際にUBIを受け取る人は、インターネットでライブ配信された抽選イベントで選ばれた。

 ミコ君の母親のビルギット・カウルフスさんによると、抽選に当たったミコ君自身はよく分かっていないが、息子が選ばれたとき一家は活気づき、おかげで暮らしにゆとりが生まれ、休日に初めて家族で出掛けることもできたという。

■試せるゆとり

 ボーマイヤー氏はUBIの受給者について「みんなが前よりもぐっすり眠れているし、怠け者になった人はいない」と語る。UBIを受給し始めたことによって、金銭の心配が要らなくなったということから人生の一大転機まで、受給者はさまざまなポジティブな経験をしている。

 受給者の一人、バレリー・ルップさんは独公共放送ARDの最近のインタビューで「一日一日を暮らすプレッシャーがなくなれば、人はもっとクリエーティブになり、いろいろなことを試すことができる」と語った。ルップさんはまだ幼い子どもの世話を自分でできるようになった上、ショーウインドーの装飾を担当するデコレーターとして仕事を始めることもできた。その間、アフリカのマリ出身の夫がドイツ語の授業を受けることさえできている。

 受給者たちは、毎日の食卓に乗せるパン代を稼ぐのがやっとだったような賃金の職を離れて教師になったり、慢性になってしまっていた病気の治療を行ったり、アルコール依存症から脱却したり、家族を世話したり子どもの学費を払ったりできるようになった。

「即効性があって(変化を)後押ししてくれる贈り物だ」と受給者のアストリッド・ローベイヤーさんは言う。彼女は受け取った資金を使って、葬儀の際に追悼の言葉を送ったり、筋肉の緊張をほぐす療法「アレクサンダーテクニーク」を学んだりした。

 ボーマイヤー氏のスタートアップ企業による実験はソーシャルメディアで注目を浴び、ドイツでUBIに関する議論が盛んになった。

■怠惰への報酬?

 2009年、ドイツ議会は全国民向け所得保障を求めるドイツ国民約5万人の署名を断固はねつけた。だが世論調査会社エムニド(Emnid)が昨年6月に行った調査では、世論の40%が依然、全国民向け所得保障は良い構想だと考えていた。

 UBIの支持者らは9月の議会選を視野に入れ、「ベーシックインカム同盟(Buendnis Grundeinkommen)」という運動組織を立ち上げたが、これまでのところその主張を取り上げようとする主流政党はない。

 左派、右派、カトリック組織、企業リーダーなどに、UBIの支持派は散っている。支持の理由は貧困の克服から、お役所仕事の簡素化、デジタル時代への移行の円滑化などさまざまだ。

 一方、UBIに抵抗する考えの方により焦点が当たっている。こちらは特にUBIがもたらす人と仕事の関係の変化を指摘している。右派はUBIは「怠惰への報酬」だとして取り合わず、社会民主党(SPD)も2006年、失業者が受給すれば職探しをしない「役立たずのレッテル」を貼ることになると懸念を示した。

「仕事の未来のためのボン・センター(IZA)」のベルナー・アイヒホルスト(Werner Eichhorst)氏は2013年、「ごみを収集したり、高齢者の世話をしたりといった、大変で時にあまり魅力のない仕事を誰がやるようになるのか?」と問いかけた。

 UBI賛成派は、そうした仕事は将来ロボットが担うか、UBIが政策として導入されれば名誉のある仕事として社会の中で新たな位置付けが与えられるだろうと主張する。

 アイフホルスト氏や反対派は「私たちの代わりに働いてくれ、同時に税金も払ってくれる機械などないだろう」と反論する。
【翻訳編集】AFPBB News