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「工学に関する基礎的な知識だけでなく、それらを用いて新しい課題を探求する能力、社会・地域とのコミュニケーション能力、国際社会とのコミュニケーション能力などの素養を備えた技術者を養成する」をテーマとし、産学官連携を通して地域社会への貢献を目指した取り組みを進める、国立大学法人 香川大学 工学部。電子・情報工学科八重樫研究室では、単なる研究発表にとどまらず、研究成果やその有用性を産学官で連携し、実運用を通して評価したうえで、それらの成果を広く発信しています。

2016年に発表した観光日記生成/印刷システム「KaDiary(カダイアリー)」もまた、産学官が連携することで、 100万人が訪れる現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭 2016」の会期期間で実証実験を実施しました。Microsoft Azureを提供基盤に採用したKaDiaryは、わずか1か月半という短期間でその構築を完了し、有用な研究成果を生み出しています。

こうした「産学官で連携した取り組み」の継続を支援する柔軟なICT環境を整備すべく、今後同大学では、クラウドを活用することで教育研究力の向上を目指しています。

プロファイル

「地域社会をリードするとともに共生社会の実現に貢献する」という理念達成へ向け、創造的で人間性豊かな人材の育成に取り組む、国立大学法人 香川大学。文化、産業、医療、生涯学習などの振興に寄与すべく、同大学では近年、クラウドをはじめとする最新ICTを教育や研究現場で活用。それをもって、大学の教育研究力を向上し地域貢献を加速しています。

○導入の背景とねらい
研究を通じ「社会と地域が抱える課題解決」を目指すためには、柔軟性をもったICT環境が必要だった

県内唯一の国立大学として6学部7研究科を擁する、国立大学法人 香川大学(以下、香川大学)。1949年の設置後、約70年にわたり創造的で人間性豊かな専門職業人、研究者の養成を実践してきた同大学では、現在、地域社会の課題解決や共生社会の実現に向けた取り組みが積極的に行われています。

中でも工学部では、「工学に関する基礎的な知識だけでなく、それらを用いて新しい課題を探求する能力、社会・地域とのコミュニケーション能力、国際社会とのコミュニケーション能力などの素養を備えた技術者を養成する」をテーマとすることで、産学官連携による地域社会への貢献を目指しています。

この産学官連携の重要性について、国立大学法人 香川大学 工学部 電子・情報工学科 准教授(併)総合情報センター 教育システム部門 部門長 博士(工学)八重樫 理人氏は、次のように説明します。

「大学にとって論文や発表を通して研究成果を広く発信することは重要ですが、それだけでは地域や社会への貢献につながりません。八重樫研究室では、単なる研究発表にとどまらず、産学官が連携し、実運用を通して評価したうえで、それらの成果を広く発信しています」(八重樫氏)。

産学官が連携し実運用を通して評価を行うには、学外へのシステムやサービスの提供が必要不可欠となります。しかし、学内にあるICT環境だけでそれを実現する場合、どうしても柔軟性の面で課題が生まれます。こうした背景から、近年、大学での研究における「クラウド活用の重要度」が高まっていると、八重樫氏は続けます。

「学外へシステムやサービスを提供する場合、クラウド活用はきわめて有用です。また、マシン ラーニングやディープ ラーニングなどAI技術も研究で利用されることが期待されます。医学部、農学部といった工学部以外の学部においても、クラウド活用の有用性は高いといえるでしょう。私自身、研究者としての立場に加えて、学内情報基盤を担う『総合情報センター 教育システム部門』の長も兼任していますが、クラウド活用は香川大学の教育研究力の向上に大きく貢献するのではないかと期待しています」(八重樫氏)。

研究室でのクラウド活用を進めるべく、八重樫氏は積極的にクラウドを導入。現在、研究で利用できるサービスを見定めるフェーズとしています。その取り組みの一環として2015年には、香川大学の学生が普段利用するコピー機やプリンターの印刷物裏面へ地域商店街のイベント情報などを掲載する広告表示プリンタシステム「KadaPos(カダポス)」の提供基盤に、クラウドサービスを採用。そして2016年には、 100万人が訪れる「瀬戸内国際芸術祭 2016」の会期期間に実証実験が行われた、観光日記生成/印刷システム「KaDiary(カダイアリー)」の提供基盤にAzureを採用しています。

KaDiaryの研究開発を進めた、国立大学法人 香川大学 工学研究科・信頼性情報システム工学専攻 2年生 熊野 圭馬氏は、同システムの概要について次のように説明します。

「これまで観光支援に関する取り組みは、観光の実施、行動の効率化にかかわる『事前情報』と観光地において入手する『現地情報』という2種類の提供がメインでした。しかし、それでは観光客の記憶へ『また来たい!』という想いを残す印象付けに弱く、リピート化のチャンスを逃す可能性があるのです。KaDiaryは、観光客が撮影した写真を Webページからアップロードすることにより、観光の記録を日記形式で出力するというシステムですが、その目的は、観光客が実際にどのような経路で観光し、どのような感情を抱いたのか、という『事後情報』を紙媒体で観光客へ提供することにあります。紙の情報は電子媒体と比べ、強く記憶に残ることが示されており、リピート化への大きなきっかけとなります。同時に、KaDiaryのデータベース上には観光客の観光行動の情報が蓄積されるため、そのデータをマーケティング活動に利用することも可能です」(熊野氏)。

この研究開発は、香川大学と小豆島町が官学連携する形式で2015年にスタート。初年度はフィールド ワークとシステムの企画化までが進められ、2016年3月からは、研究室内の基盤でシステム構築を実施しました。同年夏には、複数の企業との産官学連携となり、10月に開催を控えた「瀬戸内国際芸術祭 2016」の会期中に小豆島町で実証実験を行うことが決定し、そこへ向けた提供基盤の検討が開始されました。

○システム概要と導入の経緯、構築
教職員だけでなく、学生の利用も見据え、ユーザビリティに優れた Azure に期待

開発基盤の検討から瀬戸内国際芸術祭 2016開催までのリード タイムは、わずか1か月半。この限られた期間内で、研究室内に構築したKaDiaryを学外向けサービスとしてサービス インする必要がありました。

物理リソースの拡張を行う場合、調達、納品、構築に時間を要します。また、小豆島での実証実験を行うためのアクセスルートを構築するにも、学内にシステムがある場合、セキュリティ面などを考慮したしくみの構築が必要です。同研究室ではこれらを1か月半という短期間で実装するのは不可能だと判断し、クラウドサービスの利用を検討。結果、Azure の採用を決定します。

全学ICT基盤の整備と高度化に取り組んでいる、国立大学法人 香川大学 学術・地域連携推進室 情報グループ 末廣 紀史氏は、Azureに決定した理由について次のように説明します。

「2015年のKadaPosの研究開発基盤には、他社製クラウドサービスを採用しましたが、それとの比較検証をする意図もあって、KaDiaryではAzureの利用を提案しました。また日本マイクロソフトの文教市場への積極的な関与や提案に対する信頼性や、豊富化するAzure サービスに将来性を感じたことも理由に挙げられます。比較検証において注視したかった点は、学生だけでも構築が進められるか、また収集したデータを分析や評価など他の用途へ容易に展開できるか、という2点です。後者においては、Azure Machine LearningなどPaaSを豊富に揃える『Azureならではの特徴』への期待も大きかったですね。また、本学では2014年より日本マイクロソフトと包括ライセンス契約を結んでクラウド サービスを使用していたため、技術的にも事務手続き的にも、すぐにAzureを利用開始できる環境にあった点が魅力でした」(末廣氏)。

大学が保有するICTは、教職員だけでなく、学生もユーザーとなりえます。それゆえに、末廣 氏の語る構築や作業の容易性は重要な比較項目となるのです。また、機械学習をはじめとした高度な技術についても、同様に簡単な操作で扱えなければなりません。実証比較も兼ねたこの取り組みにおいては、あくまでも学生が自らの力だけで構築からサービスインまで行えることを示す必要がありました。

同研究室ではAzureの採用を決定した2016年8月末に、末廣氏から熊野氏へAzure管理画面のURLが送付され、簡単な操作レクチャーを実施。以降はすべて熊野氏によって、AzureでのKaDiaryの構築が進められました。

○導入の効果
各種機能の設計思想も含め、香川大学が求めるユーザー像に合致

わずか1か月半でサービスインまで到達することが求められた本プロジェクトですが、同研究室は無事、実証実験開始日までに構築を終え、会期中での実証実験を完了しています。

熊野氏にとっては初のクラウド利用でしたが、それでもAzure上での構築は混乱なく進行できたと語ります。

「オンプレミスと同じ使い勝手でシステムの構築ができたため、特に詰まる部分もなく進めることができました。これはAzureの優れたUIや、Web上に日本語ドキュメントが充実していたおかげだと感じています。実際にハードウェアがある場所まで赴いて作業する必要がなく、構築からポートの解放、IPアドレスの制御に至るまですべての作業がWebブラウザー経由で行えるのも便利ですね。研究室内はもちろん、自宅や実証実験の現地でも構築作業やチューニングが行えるため、Azureの大きなメリットを実感しました」(熊野氏)。

続けて八重樫氏は、クラウドサービスの実証比較という観点から、Azureの利点を次のように評価します。

「Azureの使い勝手は非常に良かったと感じます。教員の多くは、こうしたICT基盤は『自分の専門外』のものであり、なるべくそこへはリソースを割きたくないはずです。クラウドサービスの多くは、できることや実現するための部品が多いものの、コンポーネント設計やインターフェイスの観点で、そのようなユーザーへの配慮が足りない印象でした。AzureはUIが優れているだけでなく、PaaSやAPIで提供される各種機能の設計思想も含め、本学が求めるユーザー像に合致すると感じました」(八重樫氏)。

○今後の展望
大学の教育研究力の向上のためにクラウド化を推進していく

実証実験では500点の写真が収集され、70冊もの観光日記が生成されました。生成された観光日記から、観光者が注目しているスポットや、観光者の観光行動などこれまで得られなかった有用なデータが抽出されました。

この結果を踏まえ、八重樫氏はシステムを拡張し、他の観光地でも利用してもらいたいと語ります。

「KaDiary開発の際、『小豆島用にできるだけ作り込まない』というコンセプトを掲げました。できるだけ汎用性を高めたいと考えたからです。さらにクラウド基盤を用いたことで、ほぼ何もせず他の観光地への水平展開することができます。その点でクラウドは優位性があります。KaDiaryでは、すべてのデータがクラウドに集まります。集まったデータの分析の面でも、クラウドで提供される各種機能が使える点も優位性として挙げられます」(八重樫氏)。

大学の教育研究力の向上のためには、研究で利用するICT環境についてこれまで以上の柔軟性を確保することが求められます。末廣氏と八重樫氏は、スピード感を高めて大学の教育研究力の向上のためにクラウド化を推進していくと語ります。

「現在は、各研究室が個別で販売業者からICT機器を調達している状況です。管理も各自が行っているため、研究データのバックアップやセキュリティへのリスクは高い状況といえます。こうした大学全体のリスクを回避するうえでも、クラウドを用いたICT環境の基盤は不可欠といえるでしょう。ただし、インフラを単純にクラウド化する時代から、クラウドでしかできないサービスを大学が利用する時代が来るかもしれません。IT技術と接点の少ない分野の研究者や学生が、それを使うようになるでしょう。OSや情報系システム、各種デバイスからクラウドサービスまで提供するマイクロソフトは、その総合力と包括ライセンスの存在感によって、他社サービスよりも高い優位性を持つと感じています」(末廣氏)。

「本学ではクラウド活用の事例がまだほとんどありません。セキィリティインシデントの対策など危機管理の観点から、未知の技術の導入に神経質にならざるを得ません。しかし、教員にとって研究に有効なリソースやコンポーネントが活用できればよいのであって、それがクラウドをはじめとするICTで支援されることによって自身の研究力が向上すれば、きっと喜んで使ってくれるはずです。そのためには『利便性の高いツール』としてクラウドを整備し、なおかつそれを各研究室へ、コンサルティングのように技術支援しながら提供する必要があります。Azureはその利便性の高さに加え、多彩なコンポーネントを持ち、ツールとしてきわめて有効です。あとはいかにして、適切な技術支援のもとで各研究室が利用できる体制を構築するかだと考えています」(八重樫氏)。

Azureを採用した実証実験により、社会や地域貢献につながる有用な研究成果を生み出した香川大学。この実績を踏まえ、香川大学では、大学の教育研究力の向上のためにクラウド化を推進していていきます。香川大学の研究成果から生み出される「人々の暮らしを豊かにする技術」に、今後も期待が高まります。

「Azureの使い勝手は非常に良かったと感じます。教員の多くは、こうしたICT基盤は『自分の専門外』のものであり、なるべくそこへはリソースを割きたくないはずです。クラウドサービスの多くは、できることや実現するための部品が多いものの、コンポーネント設計やインターフェイスの観点で、そのようなユーザーへの配慮が足りない印象でした。AzureはUIが優れているだけでなく、PaaSやAPIで提供される各種機能の設計思想も含め、本学が求めるユーザー像に合致すると感じました」

国立大学法人 香川大学
工学部
電子・情報工学科
准教授
(併)総合情報センター
教育システム部門 部門長
博士(工学)
八重樫 理人氏

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