絵にかいたような二極化。バンコクモーターショーの中心で考えた、クルマから見えるタイ社会:工藤貴宏
 何を隠そう、タイランドは東南アジア最大の自動車輸出国だ。タイ工業連盟(FTI: Federation of Thai Industries)の統計によると2016年通年でタイ国内において生産された乗用車&SUV+ピックアップトラックの台数は194万4417台。そのうち国内で販売されたのは76万8788台。残りの118万8515台は輸出されたことになる。
 
日本には関係ないと思うかもしれないが、実はそうでもない。2001年の「スバル・トラヴィック」にはじまり「三菱・トライトン」「フォード・フォーカス」「シボレー・ソニック」そして現行モデルでは「日産・マーチ」や「三菱・ミラージュ」などがタイから日本への輸入車。特にマーチやミラージュは日本でも身近な車種だし、そもそもタイに生産拠点を持つ自動車メーカーはほとんどが日本メーカー。日本と縁が深いのだ。
ちなみにタイは右ハンドル左側通行で、ウインカーレバーも日本同様に右側。意外に親しみやすい道路環境である。

 そんなタイの首都バンコクで毎年春に開催されるのが、バンコク国際のモーターショー。2017年は第38回目となり、ここ数年の来場者は170万人オーバーで東京モーターショーの2倍以上と聞けば、会場の盛り上がりが想像できるだろう。
そんなバンコクモーターショーを、日本人目線でみたレポートをお届けしよう。

●ホンダCR-Vの新型が売っていた

 驚くことに、ホンダブースには日本では発売していない(そもそも市場に投入されるのかも分からない)新型CR-Vが展示されていた。バンコクモーターショーが開幕する数日前に正式デビューしたばかりで、日本人としてはうらやましい限りだ。


 エンジンは2.4Lの自然吸気ガソリンと1.6Lディーゼルターボで、後者はボタンスイッチ式のシフトセレクターを組み込むなど特に先進イメージ。現地生産だが価格が日本円にして約450〜550万円と安くはないことは、深く触れないでおこう。


 ちなみに、ホンダはタイにおいて新型CR-VのほかにBR-Vというひとまわり小さな3列シートのSUVもラインナップしている。もちろん日本でいうヴェゼル(現地名HR-V)を用意するうえでだ。
タイのホンダファンは、その環境を喜ぶべきである。ちょっとうらやましい。

●新型シビックは日本よりも先に発売

 日本では今年の夏から発売とアナウンスされている新型シビック。タイではセダンは昨年春から、ハッチバックは今年の春から発売されている。バンコクの街で新型シビックを見かける頻度の高さを考えれば日本よりも先に発売するのは仕方がないとも思えるが、本国である日本のほうが遅れて発売するとは時代が大きく変わっていることを実感する。
けっこううらやましい。

●三菱自動車は100周年を祝っていた

 三菱自動車はルーツを辿ると三菱造船(三菱重工)であるが、三菱造船が「日本発の量産自動車」とも言われる「三菱A型」を製作したのが1917年。つまり今年は三菱自動車の100周年にあたる年だ。
 「そんなこと知らない」という人も少なくないだろう。理由は明確で、日本では三菱自動車がとある事情からそれに関してのPRをまったくおこなっていないからである。いっておくがその事情を聞くのは野暮というものだ。


 いっぽうタイでは違った。三菱自動車のブースは三菱A型のレプリカ(スケールダウンもされている)を展示し、100周年をアピール。なんともお祭りムードなのだ。


 ちなみにタイでの三菱自動車はピックアップトラックのトライトンやそれをベースとしたSUVのパジェロスポーツが大ブレイク中。パジェロスポーツのカッコよさはなかなかのものである。

 また、2016年度タイにおけるもっとも輸出台数の多い自動車メーカーはトヨタ......ではなく三菱だった。三菱自動車のタイ工場はその生産台数のうち80%を超える30万9915台を輸出したという。もちろん日本で販売されているミラージュもそこに含まれる。

●日本で見かけない日本車が盛りだくさん

 日本で売っていない日本車をたくさんみかけるのもバンコクモーターショーの特徴。その代表的ジャンルは各社とも日本では販売していないでピックアップトラックで、トヨタ「ハイラックス」、日産「ナバラ」、三菱「トライトン」、マツダ「BT50」、そしていすゞ「D-MAX」と壮大なラインナップを誇る。

 ベーシックなタイプから快適性能を多く盛り込んだ上級仕様はもちろんのころ、スポーティドレスアップ仕様なども多くメーカーブースに並ぶから壮観だ。おそらくバンコクモーターショーは世界中のモーターショーの中でもピックアップトラックの比率がもっとも高いだろう。なんともワイルドだ。


いっぽうで、東南アジアなどの新興国をターゲットにしたモデルも興味深い。ピックアップトラックを持たないホンダは「ブリオ」、コンパクトながら3列シートの「モビリオ」、そしてSUV化した「BR-V」とリーズナブルなモデルのラインナップを多く誇る。BR-Vなんて日本でも売れそうな気がするが、話はそう簡単でもないのだろう。
こうして日本人視点にたってバンコクモーターショーの会場を歩いていると、感じることがある。それはタイ社会の二極化がクルマのラインナップにもしっかりと表れていることだ。


メルセデス・ベンツやBMWは広くて豪華なブースを構えてタイの富裕層に猛烈アピール。物価が日本の1/3とも言われるタイで、販売価格が日本の倍ちかくもするドイツのプレミアムブランドを買うのはそう容易ではない。しかし現実としては、それらを買う人は多いのだ。


日本メーカーもしかり。ホンダの新型CR-Vは約450万円からだし、トヨタは正規輸入のアルファード/ヴェルファイアを約1200〜1500万円という価格で売っている。もちろん一般庶民には手が出ないのだが、バンコクの街で高額車を見かけるのは珍しいことではない。


いっぽうで、税金の安さで好まれるピックアップトラック、そして安く売ることを前提に開発された日産・マーチやホンダ・ブリオなどもタイでは欠かせない存在。それらはマイカー購入者のボトム層に対応することになるのだ。


「金持ちのクルマ」と「庶民のクルマ」(といってもクルマを買える状況はまだ生活にゆとりがあるといえるが)の間には明確な境界がある。それが日本人としてバンコクモーターショーで感じたタイの自動車市場だし、言い換えればタイの現実なのだろう。

【ギャラリー】Bangkok motorshow 201726


■ホンダ 公式サイト
http://www.honda.co.jp/
■三菱自動車 公式サイト
http://www.mitsubishi-motors.co.jp/