東大を辞退して九大を選ぶ貧困家庭の事情

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■親孝行なローカルに徹した進学と就職

家庭の貧困のため、東京や大阪の大学には進めず、地元にとどまることを強いられる子どもたちがいる。

親の経済的な負担だけを考えれば、公立小・中・高、そして地元の国公立大に進学するのが一番安上がりだ。しかも塾、予備校に通わず、学校の勉強だけで進学してくれたら、親の経済的負担は最小限で済む。国立大出身となれば、学歴から考えても申し分ないことだ。

親も子どもを手元に置いておきたい気持ちは強い。これは昔から変わらない。長子は家を継ぎ、第二子以降は都会に出てもいいという時代があり、今は少子化から一人っ子も少なくなく、そのまま手元に置いておくことになっているとも考えられよう。就職を考えると地元で公務員になってくれるのが一番かもしれない。グローバル時代といわれるが、ローカルに徹した進学、就職ということになる。大企業でも破綻する時代だ。地方の高校生には、それが最高のエリートコースと考える向きもあるという。

ただし塾、予備校に通わず難関の国立大学に合格するのは簡単ではない。経済的に苦しい家庭であれば、受験指導に熱心な私立の高校に特待生で進学するという方法がある。こうした私立校では、塾、予備校と提携して、受験に特化した授業が行われている。自習室などの設備も整っている。塾に通う必要はなくなるため、経済的な負担は小さい。

この場合、成績が優秀だと、大学受験に際して、地元の国立大だけでなく、東京大学や京都大学などのトップ校の受験を、学校から依頼されることもある。「東大合格者」は生徒募集に絶大な力を発揮する。学校としては1人でも多くの合格実績を積み上げたい。しかし、経済的な問題があるために「特待生」となったわけだから、合格したとしても、親には子どもを4年間、東京に送り出す経済的余裕はない。

こんな実例がある。本人も親も地元の国立大に進学を考えていたが、あまりにも優秀な特待生がいて、その能力を惜しんだ教員が旅費を工面して前期試験で東大を受験させた。その結果、見事に合格したのだが、親は経済的な面から東大への進学に難色を示し、結局、後期試験で地元の九州大工学部に合格し進学したという。ただ、やりくりを工夫すれば進学できる場合もある。同じように地元の国立大進学を希望する特待生は、教員がありとあらゆる奨学金を紹介したことで学費や生活費のめどが立ち、親を説得して東大に進学することができたケースもある。

これまでも東大に合格しても、進学しない生徒はいた。東大を蹴って、私立大の医学部に進学するケースだ。しかし、それらとは全く違う。東大進学をあきらめた特待生のケースを聞いて、苦学生の増加を実感させられた。まさに「学歴をお金で買う時代」といえるだろう。

■子どもが優秀ならさまざまなメリットも

経済的な問題をクリアするためには、どんな方法があるのだろうか。

ひとつは地元の国公立大に進学することだ。しかし受験生の負担は大きい。国公立大の受験では、5教科7科目をしっかり学ばなければならない。特に首都圏では国公立大の入試は難関だ。そのため首都圏では、受験準備の途中で国公立大から私立大志望に変更する高校生も多い。私立大ならば3教科を勉強するだけで済むからだ。

私立大であっても、成績優秀であれば、給付制奨学金や授業料免除などの仕組みを利用できるため、経済的な負担をおさえることはできる。なかには、国立大医学部を蹴って、特待生として私立大医学部に進学し、しかも6年間特待生を維持することで、国立大に進学するより安上がりに私立大医学部を卒業した学生もいるという。

成績優秀であれば、学費が無料の大学が選択肢になる。準大学といわれる防衛大学校、海上保安大学校、気象大学校などだ。文科省の管轄ではない、省庁が設置した大学校だ。入学と同時に国家公務員になり給料や賞与も出るが、寮生活を強いられるなど制約も少なくない。卒業すると、将来の職業も決まってしまう。しかも受験は難関だ。防衛医科大学校の倍率は昨年17.4倍だった。

成績優秀でない場合、通信制や夜間部に進学して学費をおさえるという方法もある。夜間部はすでに多くの大学が学生募集を停止してしまったが、東京理科大、日本大、東洋大などでは募集している。昼間働き、夜間大学に通う、いわゆる勤労学生だ。ところが、最近は人気が上がってきているようだ。東洋大の2部・イブニングコースは今年3475人が志願し、倍率は2.6倍だった。5年前の志願者は1322人だったから、かなりの急増だ。大学によると、3000人超になったのは21年ぶりだという。また東京電機大は、来年から二部の学生を対象に、昼間は学生職員として大学で働き、夜学ぶ「はたらく学生入試」を工学部第二部に新設する。

短大に進学し、その間にお金を貯めて卒業時に4年制大学に編入する方法もある。また、就職すれば貸与奨学金を肩代わりして返済してくれる企業も出てきた。国の給付奨学金制度も来年から本格的にスタートする。

給付奨学金をもらえるのなら、それを活用すべきだ。しかし、それが厳しいのであれば、やはり貸与奨学金に頼らざるを得ない。いくつもの奨学金を借りて進学することは可能だが、返済が卒業後に待っていることを忘れてはならない。経済的な面から進学を諦めずにすむように、どうするのが最善なのか。それを考えるのは親の役目ではないだろうか。

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安田賢治(やすだ・けんじ)
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。大学通信入社。30数年にわたって、大学をはじめとするさまざまな教育関連の情報を、書籍・情報誌を通じて発信してきた。現在、常務取締役、情報調査・編集部ゼネラルマネージャー。大正大学講師。著書に『中学受験のひみつ』『笑うに笑えない大学の惨状』など。近著に『教育費破産』がある。

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(大学通信 安田賢治=文)