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ネット上で命は永遠に彷徨う!? だから、意識せよ!

約1年前、連載第2回の「ネットと儀式は同居できるのか?」で、”サイバー墓地”について軽く触れた。今回はこの聞き慣れない組み合わせの言葉について、ワールドワイドな視点で掘り下げてみたい。

無料から定額制まで2000年前後から存在している



「サイバー墓地」とは、ネット上に存在するお墓のことをいう。お墓といっても遺灰や遺体が収納できるわけではないので、遺影や位牌のほうが近いかもしれない。いわば、追悼追憶のための装置だ。多くの場合、アカウントを取得したら亡くなった家族や友人を偲ぶための個別の”お墓ページ”があてがわれる。そこに故人の写真や生前の業績、言葉などを保管したり、記帳ページを作ったりして、メモリアルな空間を広げていく感じだ。現実のお墓の雰囲気を出すため、トップに墓石や供花の画像を置くところも多い。故人に所縁のある人は、スマホやパソコンで該当ページにアクセスして、いつでも手を合わせたり思い思いにメッセージを書き込んだりできる。

利用料はまちまちで、ボランティアとしてほとんど無料としているところや、現実のお墓のオプションとして無料〜年数千円程度で提供するところも少なくない。初期費用で1万円前後を支払えば、以後は無料というタイプも複数ある。一部には初期費用で数万円という強気の設定のところもあるが、現実のお墓のように石代と区画使用料で初期費用数百万円、みたいなスケール感のサービスはさすがにない。

さて、このサイバー墓地。どれくらい浸透しているのだろうか。個人的に5年前から追っているが、日本ではまだじわじわも来ていないというのが正直な感想だ。2000年前後から「サイバー飛天」(すがも平和霊苑)や「ネットお墓参り」(アイキャン)など、墓園や宗教団体、私企業が提供している老舗サービスはいくつかある。しかし、数万単位のユーザーを抱えていたり、独立採算で動いていたりする事例は聞かない。蒔いた種から芽が出るのを待っている段階がずっと続いているという感じがしている。

芽は出ている米国中国はこれから伸びていく?



だが、米国では事情が異なるようだ――。たとえば、1996年開設の「Virtual Memorials」は登録者数が3万人を越え、2017年以降も3月末時点で20人近くの墓が新設されている。55ドルの初期費用が必要になった2010年以降も、無料だった初期と変わらずに全米で利用されている様子だ。サイバー墓地の元祖をうたう、1995年開設の「The World Wide Cemetary」も、登録数は非公開ながら頻繁な更新やページの新設が窺える。故人の人となりにネットで触れて思い出す、そういう行為が老若男女問わずわりと受け入れられている印象だ。そういえば、2009年に故人のページを保護する「追悼アカウント」を導入したフェイスブックも米国の企業だ。


▲3万人超のメモリあるページを抱える「Virtual Memorials」。日本語圏の利用者も1〜2%いるという。

共通するのは、お墓(Cemetary)をうたってはいても、現実のお墓に寄せずに、追悼(Memorial)の場として空気をイチから構築しているところだ。故人の足跡を自由に配置してどこからでもアクセスできるというデジタルの強みを生かし、既存の追悼の空気を借りずに厳粛さを生み出しているように思う。国民性の違いもあるだろうが、このスタンスは日本でも受け入れられる可能性を秘めているように思う。

ちなみに、中国では2008年に「中国稜网(ちゅうごくりょうもう)」というサイバー墓地が登場している。オンライン上に区画を設けて、バーチャル空間の墓地内を訪ねる「3D稜园(3D霊園)」や、好みの墓石や飾りなどを選べる「网上稜园(オンライン墓)」など、現実の墓を強く意識したコンテンツがメインだが、「网纪念馆」という追悼中心のメニューも揃えている。しかし、手動更新が2015年3月で止まっており、これからの道筋は不透明だ。


▲「中国稜网」のサイバー墓メニュー。伝統的な中華圏のお墓から、最近のすっきりしたフォルムのお墓まで選べる。

現実のお墓のスタイルも変わる。日本も「墓じまい」が目立つ



いま、世界中で墓地の有り様が変わってきている。韓国では墓地が国土の1%を占めるといわれており、1998年のアジア通貨危機をきっかけに土葬から省スペースな火葬に舵を切った。また、欧州では環境配慮の観点も手伝い、全般的に火葬率が上昇している。スウェーデンでは、個別の墓石を立てない「ミンネスルンド」という共同散骨エリアに納めるスタイルも一般的だ。

日本でも、近年は実家の墓を処分する「墓じまい」という言葉が聞かれたりもする。そういう時代のなかで、ネットが果たせる役割もあるのかもしれない。サイバー墓地が芽吹くか否か。今後も注目していきたい。

文/古田雄介

古田雄介/利用者没後のインターネットの動きや、社会におけるデジタル遺品の扱われ方などを追うライター。著書に『故人サイト』(社会評論社)などがある。デジタル遺品研究会ルクシー(LxxE)理事。

※『デジモノステーション』2017年6月号より抜粋

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