GTC4ルッソとGTC4ルッソTはエンジンも駆動も異なる

昨年3月のジュネーブ・ショーでワールドプレミアされた、フェラーリの新しい4シーターモデルがGTC4ルッソ(GTC4 Lusso)である。これは、それまでの4シーターモデル、FFの後継となるモデルで、V12+4WD(四輪駆動)という成り立ちはそのままに、内外装を大幅にブラッシュアップ。もちろん、エンジンもFFプラス30馬力となる最高出力690馬力というパワフルな自然吸気V12エンジンに進化。

フェラーリ伝統のV12と4WDを武器にするGTC4ルッソは、フェラーリにとって優先順位のトップクラスに位置する日本市場でも予想以上に売れているらしい。そのGTC4ルッソに追加されたニューモデルが、GTCルッソTだ。車名末尾に付くTの文字は、カリフォルニアTなどと同様に、このモデルがターボエンジン搭載車であることを明快に示す。

おまけにGTC4ルッソが4WDであったのに対して、こちらはオーソドックスな後輪駆動モデル。自然吸気V12のGTC4ルッソから見ると、V8ターボのGTC4ルッソTは、シリンダーが4つ減り、駆動輪が2つ減り(もちろん車輪はある)、500万円安いと紹介すればいいだろうか。

GTC4ルッソとGTC4ルッソTのようにフェラーリが同一モデルに気筒数の違うエンジンバリエーションを搭載するのはこれまであまり例がなく(遠い昔に308GTBと208GTBの排気量違い+ターボの有無があったぐらいだろうか)、その点でも注目のモデルといえそうだ。

GTC4ルッソTのリポートを行う前に、もう少しベースとなったGTC4ルッソの話をしたい。4WDなのにFF(実際はフェラーリ・フォーの意味)という前身となったFFの車名もユニークだが、何よりも驚くべきは、GTC4ルッソでも継承されたその個性的な4WDシステムである。

フェラーリのFRは前後重量配分にこだわり、重いエンジンをエンジンルームのできるだけ後部に配置するフロントミッドシップを伝統的に採用する。そしてエンジンの次に重いギヤボックスは、リヤアクスルに配置している。いわゆるトランスアクスルだ。そのために、フロントの荷重は48%前後と一般的なFR車に比べてずいぶん軽い設定となる。

このトランスアクスルのパワートレインでは(ギヤボックスがリヤ配置のため)フロントタイヤを左右に結ぶライン上に空間がある。そこに目をつけたのは、さすがフェラーリのエンジニア。このスペースにデフと4速のギヤボックスを配置すれば、FR+トランスアクスルのパッケージをそのままに、トラクションに優れた4WDが完成する。

こうしてV12エンジンを前後のデフで挟むという、これまでにないユニークなレイアウトを持つ4WDが誕生したのだ。

一般的にフロントエンジン、リヤ駆動のFR車を4WDにするのは大変だ。たとえばスカイラインGT-Rのように、フロントデフをオフセットして配置し、フロントタイヤに繋がるドライブシャフトはエンジンの下側(オイルパンの中)を貫通させるなど、限りあるクルマのスペースのなかでFRを4WDにする設計作業はそう簡単ではない。それをフェラーリは既存のプラットフォームの利点を活かしながら、発想の転換で4WDに仕立てあげたのだ。

そんなユニークな4WD機構を持つGTC4ルッソのステアリングを初めて握ったのは、昨年のイタリアの北、ドロミテ(スキーリゾートとして有名な場所)での試乗会だった。

GTC4ルッソの魅力は強大なトルクによる獰猛な加速!

GTC4ルッソのパッケージは大人が4人乗ることができるグランドツアラー。アルプスの山々を臨みながら、何の制約も何の我慢も必要なく、好きなときに好きなところに行ける魅力を確認した。それは歴代のフェラーリにはなかった新しい価値である。パワーアップしたフェラーリ唯一の4WD、GTC4ルッソは、自然吸気のV12気筒と世界でも例がないユニークなAWDシステムを持つスーパー4WDとして私を魅了した。

本稿の主役となるV8ターボを積むGTC4ルッソTはといえば、GTカーとしては理想的な4WDから後輪駆動に変わったことからもわかるように、スポーティなキャラクターが想像できる。

しかもエンジンは、最高出力こそGTC4ルッソよりも80馬力下まわるが、最大トルクは63N・mも上まわるのだ。これが楽しくないわけはない。早速トスカーナ地方のワインディングに連れ出して、4WDと後輪駆動、V12とV8ターボの違いを確認してみることにした。

注目すべき駆動方式の違いは、タイヤのグリップ限界内ならさほど感じられない。もともとこの4WDは、アンダーステアを嫌ってRWD風の操縦性を実現した駆動システムなので、フィールでの大きな差はない。しかし、やはりというべきかエンジンのキャラクターと走り味はまるで異なる。

スペック的には0-100m/h加速はV12もV8も3.5秒、100Km/h-0ブレーキは33〜34mとほぼ同じだ。いずれもGTスポーツカーとしては、打倒フェラーリを合い言葉に開発を続けるライバルたちの実力を考えても、負けず劣らずの第一級のパフォーマンスを持っていることは間違いない。

ギヤボックスにDCT(ツインクラッチ)を採用するのもGTC4ルッソ、GTC4ルッソTともに同じだ。しかし、モノをいうのはやはりトルクである。シフトアップ&ダウンする常用域ともいえる4000〜5000回転のトルクは、自然吸気V12とV8ターボでは2倍ほど異なる。

6.3リッター自然吸気V12の最大トルクは697N・m/5750rpmだが、常用域ともいえる4000〜5000回転では400N・m前後。いっぽう3000回転から760N・mという最大トルクを発生するV8ターボは、この常用域たる4000〜5000回転では常に760N・mの最大トルクを発揮し続けるのだ。

つまり、我々がパドルシフトを使用してギヤチェンジを楽しむ常用回転では2倍近いトルクの差があるということである。

たとえば、V8ターボの実力を試そうとスロットルを踏んだままシフトアップされると、助手席にいると脳震盪をおこしてしまいそうなほど強烈な加速が体を襲うのだ。助手席の人が口から泡を吹いていても、ドライバーは気にせずスロットルを踏み続ける。アドレナリンによって理性を失っているからだ。

そんなドライバーを夢中にさせるダイレクトで獰猛な加速感こそが、GTC4ルッソTの魅力。2016年インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞したV8エンジンの最新進化版たるパワーユニットのパフォーマンスだ。

ライバルの911ターボSやDB11よりも過激な走り

GTC4ルッソTが、V12のGTC4ルッソと異なっているのは、そんな加速性能だけではない。シャーシもそのままサーキットに持ち込めるほど、レーシーだった。もちろんV8ターボの巨大なトルクは、たった2本のリヤタイヤでは受け止められない。

そこで登場するのがステアリングホールに配置されたマネッティーノと呼ばれる走行モードスイッチだ。ウエットモードではラフなアクセルの踏み方でも車両が自動で出力とトラクションをコントロール。雪上での発進もサポートするほど猛獣はおとなしくなり、コンフォートモードでは変速ショックがマイルドになる。

しかし、スポーツモードは危険な香りがする。ESCの作動こそ残されてはいるが、アクセルを踏み込んだまま加速してパドルを操れば、件の脳みそがぐらつくほど暴力的な素性が顔を出す。

それに加え、V8ターボのハンドリングは驚くほど限界が高い。良く練られたプログラムを持つESCが作動し、リヤアクスルをただちに落ち着かせてくれる。ESCが作動している限りはたとえV8ターボエンジンが素顔を覗かせても、クルマが自らをある程度はコントロールしてくれるのでドライバーは安心してステアリングを握れる。

気になったのは、バンピーな路面ではかなりサスペンションが固く感じられたことだ。V12モデルよりもスポーティに仕立てたキャラクターだと理解すれば良いのかも知れない。フェラーリによれば、V8ターボを搭載するGTC4ルッソTのユーザーターゲットは、比較的若く設定されているのだという。それはそうだろう。V8ターボの加速力は年寄りには辛すぎるはずだ。

確かに価格的もV12に比べ約500万円も安価な設定なので、これまでフェラーリを価格面で敬遠していた層にもアピールしそうだ。ずばり、ライバルはポルシェ911ターボSや、こちらも初のターボエンジンを搭載したアストンマーティンのDB11あたりか。だが、この両者と比べても、走りっぷりはV8ターボのGTC4ルッソTが、シューティングブレイクのスタイリングにもかかわらず、もっとも過激だろう。

フェラーリが言うように、はやりV12の高級GTとはひと味もふた味も異なっていることが理解できた。クルマと対話しながらグランドツーリングを楽しみたいなら、V12のGTC4ルッソがいい。それに対してスタイリングは同じでも、V8ターボはリアルスポーツカーと呼んでも差し支えないパワーと走りを持っていた。

V12とV8ターボは確実に異なる個性を持っているのだ。廉価版でもなくダウンサイジングターボでもない、V8ターボ+後輪駆動の魅力は、体内をアドレナリンで溢れさせるようなパフォーマンスであることは間違いない。

【画像ギャラリー】