武藤嘉紀が“兆し”を見せた。4月22日に行われたブンデスリーガ第30節、FSVマインツ05がアウェイでバイエルン・ミュンヘンに挑んだ時のことだ。

41分。ロビン・クアイソンからペナルティエリア内でパスを受けた武藤は、ヨシュア・キミッヒに足を掛けられて倒された。主審がペナルティスポットを指す。武藤はさりげなくガッツポーツ。武藤が獲得した値千金のPKをブロジンスキがきっちり決めて、マインツは王者を相手に2-1と勝ち越した。

先の場面で、武藤は巧くキミッヒのファウルを誘発した。そうしたFWとしてのずる賢さは、後半戦に入って復帰した武藤が掲げているテーマの1つだ。バイエルン戦ではワントップで先発した武藤。もちろんセンターフォワードには、屈強なDFに囲まれながら、体を張ってボールを収め、次の攻撃に繋げていくことが求められる。しかしボールキープに固辞するばかりでなく、ファウルを貰えるところで貰うことも重要だ。対戦相手のレベルや時間帯によっては、それが仲間たちにとって恵みの雨となる。

例えばバイエルンのFWロベルト・レバンドフスキは、そうした狡猾さを得意としている。エリア内でPKを獲得するだけでなく、敵陣中央でFKを獲得し、味方に呼吸を整える間を与える。それは苦しいゲーム展開の中で、試合の流れを引き寄せることにも繋がるだろう。現在ブンデスリーガで得点ランク2位のポーランド代表FWは、ただゴールを量産するばかりではなく、そういった深みのあるプレーが持ち味でもあるのだ。

だからバイエルン戦の41分に武藤がPKを獲得したことには、2つの意味がある。1つは、マインツに希望を与えたことだ。後半戦に入ってから、抜けた大黒柱ユヌス・マリの穴をなかなか埋められず、現在マインツは残留争いに巻き込まれている。そうした中で、相手が直前にチャンピオンズリーグで敗退し疲弊していたとは言え、首位のチームからの勝ち越しを“アシスト”した。最終的に試合は2-2のドローに持ち込まれたが、1部残留に向けて、マルティン・シュミット監督、チームメートたちの胸中にも勇気が生まれたはずだ。

もう1つは、他ならぬ武藤自身が、FWとして幅の広さを示し始めている、ということ。バイエルン戦では、マッツ・フンメルスやダヴィド・アラバら屈強なDFが陣取る前線で体を張るだけでなく、中盤にも下がってボールに触るなど、積極的なプレーに終始した。何より、件のPK獲得である。それを狡猾と表現すると、良い印象はないかもしれない。しかし、レバンドフスキのように武藤が見せたルールを利用する巧さは、23日のクラシコで見られたマルセロのメッシに対する肘打ちとは、方向性の違うものだ。決して誰かを傷つけるものではない。

バイエルン戦で王者を相手に武藤が見せた“兆し”。今季残された数試合、マインツが生き残るための戦い中で、その兆候はより確かなものになっていくのだろうか。(文/本田千尋、写真/tsutomu kishimoto kinggear)