今季の桐生祥秀は、合宿先のオーストラリアで3月11日のサマー・オブ・アスレティックスGPに出場し、決勝は10秒19だったものの、第1レースでは10秒04を出している。


8月の世界陸上に照準を合わせて調整をしている桐生祥秀 その後、国内初戦だった出雲陸上決勝でも向かい風0.5mで10秒08と2戦続けて10秒0台を連発。待望の9秒台への期待が高まった。

 そして迎えた4月29日、織田記念の決勝は、またしても向かい風0.3mの中のレース。桐生は中盤から抜け出して2位以下を突き放す強い勝ち方をしたものの、記録は10秒04止まりで期待の9秒台には届かなかった。

「また0秒台が出たけれど、走り終わった瞬間には『出なかったな』と思いました。今日はいつもと違ってタイムを狙っていたので悔しいという思いが強かったですね。3試合連続で10秒0台は出しましたが、もう世界選手権の参加標準記録は破っているので0台を何度出しても同じなので……。だから9秒台を出したい、それを出しても終わりじゃないし、そこでやっと世界と戦う位置につけたことになると思っているので。その点では今のところはまだその位置につけていないなと思います」

 今季は、世界選手権(ロンドン)が開催される8月に照準を合わせていて、今はまだ練習でもいろいろなことを試しながらやっている段階だという。その中で出雲、織田と向かい風の条件で10秒0台を出せているのはいい傾向だが、一方でできればこのくらいの条件でも9秒台で走れる力をつけなければダメだという危機感も持っている。

「決勝では50〜60mのところでもっと(スピードを)上げたかったし、上がるかなという感じもあるので。今年は80〜100mの間もそんなに落ちていないので、そこが上がれば今の力でも自己ベストを出せると思っています。それに去年までは、10秒0台を出したあとは少し疲れが出て体も重い感じになっていたんですが、今年は出雲の0台のあともオーストラリアの0台のあとも体が重いというのはそこまではなく、まだ100mを走れるなという感じだったし、次の日も普通に練習ができたので。そこはオフの時に300mなどいろいろやったり、ウエイトトレーニングを入れたりしていた効果だと思います」

 こう話していた桐生は、5月3日の静岡国際陸上では200mに出場して、高校3年で出した20秒41の自己記録更新を狙った。だが今年は静岡もあいにくの向かい風となる条件。予選は21秒01と全体2位の記録で決勝に進出したが、前日から微熱が続いていて、レース後には頭痛が出てしまい、土江コーチに止められて決勝は棄権した。4月16日からの2週間で3試合に出場した上に、30日には別の用事で松江にも行った。土江コーチは「体は大丈夫だが、気疲れや全神経を集中してレースをしたダメージが出たと思う。5月13日のダイヤモンドリーグ上海大会もあるので大事をとった」と説明する。

 その静岡で力を見せたのは、桐生との今季初めての200m対決を楽しみにしていた、リオデジャネイロ五輪4継メンバーの飯塚翔太(ミズノ)だった。予選は「120m過ぎまでしっかり走る予定だったが、足の接地や上体のずれがあってうまくスピードに乗れず、無理やり力を使った前半になってしまった」と、向かい風1.1mの中で21秒02にとどまった。

 今季はアメリカで100mにも挑戦した飯塚。決勝は、追い風0.2mながら気温が低くなった条件の中でもその成果の片鱗をみせ、前半をトップで抜け出すと最後にはショーン・マックリーン(アメリカ)に0秒01競り負けたが、20秒50で2位になった。

 狙っていた世界選手権の参加標準記録20秒44の突破はならなかったが、気温などの条件を考えれば、まずまずの記録。「前半もそこそこでコーナーの抜けもよかったし、後半もけっこう伸びていた感じだった。前半のスピードの貯金がもっとあれば勝てたと思う。そこはこれからの練習や試合をやるごとに入ってくる刺激に加え、暖かくなっていくことで解消できると思う」と手応えを掴んでいる。

 ほかのリオ五輪の4継メンバーも、山縣亮太(セイコー)は織田記念こそ右足首に違和感が出て欠場したが、桐生とともに出場した3月のオーストラリアのサマー・オブ・アスレティックスGPでは、第1レースに追い風1.3mで10秒06を出している。向い風0.1mの第2レースでも桐生を抑えて10秒08で1位と、今季初戦でいきなり10秒0台を連発して好調だった。

 また、シーズン初戦の場所をアメリカにしたケンブリッジ飛鳥(ナイキ)も、レースはすべて追い風参考記録になったものの、4月15日のピュア春季招待で、5.1mの追い風で9秒98、28日のトム・ジョーンズ記念でも追い風3.3mで10秒05を出した。他の2レースも10秒19と10秒14で順調な仕上がりをみせている。

 このあと5月には13日のダイヤモンドリーグ上海で桐生とケンブリッジが100mに出場し、21日のゴールデングランプリ川崎ではケンブリッジと山縣が100mで対決する予定だ。

 土江コーチが「10秒00の壁というのはないと思うし、9秒台は出ます。それをどこでどう出すかという問題は本来なら過ぎているはずのもので、ロンドンの世界選手権では世界の選手とも戦えるレベルにあると思う」というように、これから海外の強豪と競り合う中で9秒台が出る可能性も高い。その力を3人は持っている。

 さらに100m9秒台に注目が集まる陰で、飯塚は「ゴールデングランプリの200mでは優勝を狙う」と宣言する。

「200mの場合は100mと違って、一般の人は速い記録なのか遅い記録なのかわからない部分があると思います。だから僕が日本記録を出したり19秒台を出したりすれば、200mがどういう種目かと興味を持ってくれると思う。話題を集めるためには100mの9秒台より先に、まずは自分が最初に200mで19秒台を出したいという気持ちは変わりません。そうして僕がそこから200mを引っ張っていければいいと考えています」

100mの9秒台はこれまで世界で121人が出しているが、200mの19秒台は63人しかいない。そんなプライドが飯塚にはあるのだ。

 8月の世界選手権ロンドン大会を目指す戦いが本格的に始まろうとしている中で、4継の4人はそれぞれのアプローチで世界への道を歩もうとしている。その中で彼らは、9秒台や19秒台を到達点ではなく、世界と戦うための必須条件と考えて走り続けている。

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