『台北ストーリー』(c)3H productions ltd. All Rights Reserved

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 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品をプッシュします。

参考:『ゼロ・グラビティ』の経験はどう活かされた? 『ノー・エスケープ』監督インタビュー

■『台北ストーリー』

 リアルサウンド野球部のベイスターズファン歴22年目・石井がオススメするのは、エドワード・ヤン監督作品『台北ストーリー』。

 『メジャー・リーグ』、『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』、『マネーボール』……プロ野球選手およびスタッフの姿を描いた“直球”野球映画の傑作は数多くありますが、“変化球”野球映画の傑作として、記憶に残り続けること間違い無しなのがこの『台北ストーリー』。

 主人公・アリョンは、少年時代にリトルリーグのエースとして将来を嘱望された男。本作の舞台となる80年代は、台湾にはプロ野球が創設されておらず、郭源治、郭泰源、荘勝雄といった選手が日本に場所を移し、日本プロ野球史に名を残す活躍をしていた時代です。アリョンもまた彼らと同じように「自分もこうなるはずだ」という未来を夢見ていたのでしょう。

 しかし、思い描いていた未来に誰もが到達できるわけがないというのもまた現実。アリョンは家業を継ぎ、布地問屋を営みながら平凡に暮らしています。幼馴染の彼女・アジンからのアメリカに移住しようという提案にも、口を濁すばかり。家業と昔からの野球仲間、そして過去の栄光に囚われる自身を変えることができません。「野球少年だったあの頃とは違うの。全ては変わった。あなたは置き去りよ」。アジンの放つ言葉が、ナイフのように突き刺さります。

 変わりたい、でも変われない。それを象徴するかのように、ぼんやりと野球中継(カープ戦?日本のプロ野球映像も)を観続けるアリョンの背中がたまらく切ないのです。そして、このアリョンを演じるのが若かりし頃の巨匠・ホウ・シャオシェン。悲しさと情けなさ、そして色気が同居するアリョンを、自然体そのままに演じています。なりたい自分とそうじゃない自分の間で葛藤するアリョンの姿には、誰もが自分を重ねてしまうと思います。

 移り変わる台湾を背景に、過去と未来に生きる男女の姿を描いた本作は、製作から30年以上経過した今もまったく色褪せることはありません。デジタル修復版で観ることができるいま、『クーリンチェ少年殺人事件』に続き、是非劇場に足を運んでもらいたいです。

  なお、リアルサウンド映画部では、本作の主演を務めたホウ・シャオシェンのインタビューを近日中に掲載予定です。

■『ノー・エスケープ 自由への国境』

 リアルサウンド映画部のロン毛担当・宮川がオススメするのは『ノー・エスケープ 自由への国境』。

 『10 クローバーフィールド・レーン』『ドント・ブリーズ』『グリーンルーム』……。密室を舞台にしたシチュエーションスリラーがふたたび盛り上がりを見せている中、またとんでもないシチュエーションスリラーが登場! 本作『ノー・エスケープ』では、だだっ広い砂漠舞台を舞台に、メキシコからアメリカに不法入国を試みる移民たちが正体不明の襲撃者に命を狙われる模様が描かれていく。

 砂漠という広大な土地を舞台にしたスリラーといえば、マイケル・ダグラスがサイコキラーを熱演した『追撃者』や、1978年に起こった未解決事件をもとにした『ハンティング・パーク』(未体験ゾーンの映画たち2017で上映)などの作品がここ最近日本でも公開されたが、『ノー・エスケープ』がすごいのは、圧倒的な緊迫感とともに、上記のような非常にシンプルなストーリーを88分という尺の短さで見事に描き切っていること。

 しかも監督は、アルフォンソ・キュアロンの息子で、『ゼロ・グラビティ』の脚本を手がけたホナス・キュアロン。ある状況下でトラブルに見舞われた主人公が生き残りをかけて奮闘するという展開は、『ゼロ・グラビティ』にも通じるものがある。それもそのはず、本作の脚本は『ゼロ・グラビティ』の脚本を執筆する前から書き始めていたといい、監督自身も『ゼロ・グラビティ』が本作に影響を与えていることを公言している。

 第45代大統領に就任したドナルド・トランプが、アメリカとメキシコの国境間に壁を建設するという大統領令に署名したことにより、社会問題としてもいま観るべき重要作となった本作。リアルサウンド映画部では、ホナス・キュアロン監督のインタビューを掲載中なので、こちらもあわせて是非読んでいただきたい。