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■どんなクルマ?

カスタマーの意見を反映した「MT」

2013年、991世代のGT3にはパドルシフト付きのPDKしか用意されないと知ったとき、純粋主義者は怒りに腕を振り上げた。

「根本的に改善されたが、魅力の根源を失った」とまで非難した彼らは、MTの復活を求め続けてきた。マニュアル変速で操れるハイパフォーマンス911、という点にこそ、GT3の価値があるというのが彼らの主張だ。

あれから4年。検討を重ねたポルシェは、911Rの売れ行きなども考慮して、十分な商機があると判断したのだろう。フェイスリフトに際して、2種類のトランスミッションを設定する決定を下した。

一方は、7速デュアル・クラッチのPDKで、既存モデルに搭載されていたものの改良版だ。そしてもう一方が、今回試乗する6速MTで、こちらは新規開発されたものだという。

「多分、わたしたちは独りよがりが過ぎたんですよ」とは、市販車開発を率いるアンドレアス・プレウニンガーは、このクルマを発表した際に語った。

「開発はとにかくサーキットのラップタイム第一に進めたので、デュアル・クラッチの方が好ましい選択だと考えたわけです」

しかし、彼らの予想に反して湧き上がった批判を、このクルマで鎮めたいとプレウニンガーは望んでいて、変更点はトランスミッションだけではなく、LSDをPDKと組み合わせる電制ものではなく機械式とすることも含んでいる。刷新でありながら、伝統的な路線へ回帰したわけだ。

だが、われわれが知りたいのは、そんなポルシェの思惑やビジネス・プランではなく、完成品のデキがいいのか悪いのか、それだけだ。それも、誰もがサーキット走行のためだけにこのクルマを買うわけではない、ということも踏まえたうえで、である。

ここで、911 GT3のおさらいを。

GT3、ほかとどう違う?

これはホモロゲーション取得を意図したコンポーネンツと、モータースポーツを想定した空力パッケージを備えたサーキット向けモデルでありながら、自宅とサーキットの往復もこなすクルマ。911のラインナップではカレラSの上位に当たり、アルミのボディはそれと部分的に共用している。

アグレッシブなポリウレタン製フロント・バンパーは、旧型より軽量で、空気をより効率的に切り裂くべく張り出しを増したスプリッターが備わる。形状が見直されたダクトは、フロントに置かれたラジエーターとブレーキへ冷却するためのフレッシュエアを導く。

リア・バンパーも、機能性に則ってモディファイされた専用品。左右には、エンジン・ルームの熱気を吸い出す縦長のスリットが穿たれる。また、エンジンリッドに設置されるラムエアダクトと冷却ベントも新形状だ。

それらにも増して目を引くのは、やはりリア・ウイングだろう。シュトゥットガルト近郊のR&Dセンターで新たに稼働した風洞でデータを収集し、これに基づいてデザインを修正。また、旧型より20mm高く、10mm後方へ設置することで、ダウンフォースを強化した。

アンダーボディは旧GT3ではなく、911Rがベース。これに改良版のリア・ディフューザーとボルテックス・ジェネレーターを組み合わせ、リア・アクスルに掛かるダウンフォースを20%高めた。320km/h走行時のダウンフォース量は、これまでより155kg増加しているという。

最低地上高は、通常の911より25mmダウン。20インチのホイールには、前が245/35、後が305/30のミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2を履く。

トレッドが広く、キャンバーはきつい。低くうずくまったようなルックスは、そのままル・マンのピットレーンに置かれていても違和感がなさそうだ。

試乗車に装着されていたオプションのカーボン製レーシング・シートは、旧型からのキャリーオーバー品だ。サイドサポートが高く、身体が硬いと乗り込むのに苦労するようなシロモノだ。

しかし一旦そこに収まれば、ドライビング・ポジションは魅惑的で、フェンダーの峰越しに見える前方視界は上々だ。

そのほか、GT3ならではのアイテムとしては、918スパーダー用と似た形状のアルカンターラ巻きステアリング・ホイールがある。

スイッチ類は排され、クラシカルな円形リムで、コクピットとの調和はみごとだ。軽量化のため、リアシートは備えられず、一方でボディには補強が加えられる。車両重量は、旧型を上回ることはないという。

■どんな感じ?

いよいよ試乗!

水平対向6気筒は4.0ℓ自然吸気で、社内コードでは9R1.5と呼ばれる。

911Rに搭載されたユニットとの関連性が強いが、各部を新設計し、フリクションを軽減するプラズマ加工シリンダーライナーや、高剛性クランク・ケース、設定変更されたカム周りなどを採用。掃気システムもドライサンプ用に改修され、オイルの再循環を40%以上削減した。

鍛造ピストンとチタン・コンロッド、「ヴァリオカム」可変バルブ制御機構や200barの直噴燃料供給装置などは、デイトナ24時間を制した911RSRの技術を応用。

旧GT3の3.8ℓユニットに対し24ps/2.1kg-mアップの、500ps/8250rpmと46.9kg-m/6000pmを発生する。911Rではシングルマスだったフライホイールは、デュアルマスに変更された。

ダイナミック・エンジンマウントは、回転向上に伴って硬度を増し荷重変化を吸収する。それに載る新型エンジンは、9000rpmでイグニッション・カットが作動する。MT仕様の0-100km/h加速は3.9秒で、これはPDK仕様の0.5秒落ち。0-200km/hは11.4秒だ。

エンジンをかけると、エグゾーストからはハードな破裂音が、エンジンからはおなじみの打ち付けるような金属音が聞こえ始める。

アイドリングから、エンジンの脈動がドライバーの身体を震わせる。サーキット向けのロードカーというより、公道を走れるレースカーといった趣だ。

コンフォート・モードでは、旧モデルより落ち着いた乗り心地を示す。特に小さいバンプは、しなやかに乗り越える。公道での長距離移動に堪えるために、コンフォートとスポーツの2段階切替式ダンパーを、より広い範囲をカバーできるよう改修したとプレウニンガーは語る。

しかし、タイヤ・ノイズは出がちだ。旧モデルと同程度に重量を抑えるべく、リアのバルクヘッド周りの遮音材を削減したこともあり、タイヤの発する唸りがキャビンに侵入してくるのだ。同時に、低音の効いたエグゾーストノートもよく聞こえるようになったのは、歓迎すべきポイントだ。

新型の4.0ℓユニットは、3.8ℓユニットとやや違った性格の持ち主だ。最大トルクは絶対値が上がるとともに発生回転数が250rpm下がり、2〜4速でスロットルペダルを踏み込めば、中回転域でより強力に加速する。

また、トップ・エンドまでの2000rpmが旧型より激しく回るが、プレウニンガーによれば、その領域でクランクケースやブロックの剛性アップが効いてくるのだという。

それらはわずかな差ではあるが、確かな進歩が感じられ、新型GT3を過去のモデル以上に実戦的なマシンに仕立てているのだ。

高速で全開を試みる

高速道路に合流し、エンジンも温まったところで全開を試すと、1段シフトアップしただけでたちまち制限速度に達する。

4000rpm辺りでフラップが開いたエグゾーストは、排気音の激しさをさらに増す。新型ユニットのレスポンスと回転は息を呑むほどだ。道が空いたところで右足に力を込めれば、瞬く間にピークトルク発生点を超え、7000rpmにまで到達する。

素晴らしいエグゾースト・ノートだけでなく、吸気音もまたスペシャルだ。

ドライバーの肩の辺りから、リア・フェンダーを経てエンジン・ルームへ吸い込まれるエアフローは明らかに、3800rpmと6800rpmの2点で明確に切り替わる。回転の上昇は不気味なほどにリニアで、それがトップエンドまで続くのである。

ただし、全開性能に心から驚かされるには、十分なストレートが必要だ。「十分」とは、ある程度長くスロットル全開を保てて、少なくとも2つのギアでレッドゾーンまで回せることを意味する。

それに、心の準備と注意力も必要。いうまでもなく、GT3はストレートで手を焼くクルマだ。空力のアップグレードで直進性はかなりマシになったが、9000rpmの世界が見えてくる頃には、風やエンジン、路面とタイヤ、吸排気系が巻き起こす狂気のような音の奔流がキャビンに充満する。

いよいよ、お待ちかねの領域だ。

2011年に997GT3の生産が終了して以来のマニュアル・ギアボックスだが、これまでのGT3でベストのMTだといえる。

このゲトラグ製の6段は911Rにも搭載されたトランスミッションで、PDKより17kg軽く、車両重量は1413kgとなった。

それらは1〜4速のギア比こそ同一だが、1段少ないMTでは、5〜6速がPDKよりオーバードライブ気味の設定となる。ファイナルレシオは、共通の3.76:1だ。

クルマのもっと奥深い部分もコントロールしている感覚

第一印象は、きわめてポジティブ。

ツイン・プレートのクラッチは思った通り重く、ミートのポジションが明確だ。短く扱いやすい位置にあるシフトレバーは、動きが非常に良好で、前後左右ともスプリングが強い。

いずれのギアも鋭く噛み合うが、操作にはやや重く、最適なポイントで変速するには、特にシフトアップの際に決断力が求められる。ギアを抜く際はややだるいが、次のギアへの入りは高い精度が感じられる。ギア鳴りを怖れずに、素速く操作するのが得策だ。

スポーツ・モードでは、クルマが完璧にブリッピングをこなしてくれる。見方を変えれば、自分の思い通りに走るなら、コンフォート・モードのままの方が楽しめる。

比較的ワイド・レシオなギアボックスは、明確なブリッピングを必要とするが、ヒール&トウが決まれば十分な見返りが得られる。

それを理解することは、クルマのポテンシャルを引き出して攻め甲斐のある道を走る上で重要だ。しかも、うわべの挙動だけでなく、クルマのもっと奥深い部分もコントロールしている感覚を味わえる。

ともかく、指先でパドルを弾くだけでは知ることのできない充足感が、3ペダル仕様にあることは確かだ。

2013年発売の旧991GT3は、GT3としては初めての電動パワーステアリングと、991ターボで初導入された後輪アクティブステアが採用された。

後者は、80km/h未満では前輪と逆位相に切れて旋回性を高め、それ以上では同位相に動いてスタビリティを強化するデバイスだ。

これらは新型にももちろん装備されるが、ファインチューニングが施され、ハンドリングのレベルが向上しているとポルシェでは主張している。

ハンドリングを徹底評価

ステアリングは思った通り重めの手応えで、太いリムは素晴らしいフィードバックを常に伝えてくる。中立からの切り始めはダイレクトで、セルフセンタリングは強力だ。

今回の新型GT3初試乗は、公道に加えサーキットも走行した。

ハンドリングはタイヤの温度に敏感で、アウトラップでは低速コーナーでのアンダーステアに悩まされる。これがタイヤが温まると、前輪のグリップは目覚ましい改善をみせ、このサーキット向け911に期待していた通りのフィールとニュートラルなコーナリング特性もまたもたらしてくれる。

それはリアも同様で、タイヤに熱が入ると、凄まじいトラクションを得られるようになる。スタビリティ・コントロールをオンにしていてさえ、電制デバイスに頼る機会はほとんどなく、太いタイヤと機械式LSDの能力だけでほぼ事足りる。

それ以上に素晴らしいのが、異常なまでのボディコントロールだ。どれほどの金額を支払っても、この新型GT3ほどの驚くべき安定感は得られないだろう。ハードなブレーキングも、路面のアンジュレーションも、このバランスを乱すことはできない。

ブレーキは、キャリパーがフロント6ポット/リア4ポット。ディスクは、フロント400mm/リア380mmのカーボン・セラミックがオプション設定されるが、標準装備の380mmスティールでも不満はない。

並ぶもののないペダル・フィールと、公道ではまず限界を経験することのない制動力を発揮してくれる。サーキットでラップを重ねても、フェードの兆候すらなかった。

MT? PDK? 究極の選択

■「買い」か?

911 GT3に、すっかり夢中になってしまった。しかもこのMT仕様には、ドライバーを心から熱中させるものがある。PDK仕様では、最終的にそれを得られない。

このクルマは、この上ないほどのポルシェの流儀で、クリアで精密に噛み合うドライブトレインを通じて、パフォーマンスの深層を模索することができる。

そして、それを成し遂げたドライバーに、至上の走りで応えてくれる。それは、公道であろうと、サーキットであろうと変わらない。

ただし、サーキット走行を第一義に考えるなら、MT仕様は必ずしもおすすめできるものではない。

その理由はただひとつ、PDK仕様の方が速いからだ。

加速性能のアドバンテージは、ラップタイムに間違いなく表れる。どんなドライバーが操作しても、MTではPDKに太刀打ちできないのは、揺るぎようのない事実だ。

結局、GT3に限らず、どちらをチョイスするかは、ポルシェであればいつでも直面する問題だ。

エモーショナルな魅力を重視するなら、迷わずMTである。しかし、最高のパフォーマンスを求めるなら、PDKを選ぶほかはない。

もちろん、両方買うことができるなら、この究極の選択に悩む必要はなく、また文句なしに満足できることはわかっている。わかってはいるのだが……。

ポルシェ911 GT3 マニュアル

■価格 £111,802(1,606万円) 
■全長×全幅×全高 4562×1852×1271mm 
■最高速度 320km/h 
■0-100km/h加速 3.9秒 
■燃費 7.8km/ℓ 
■CO2排出量 290g/km 
■乾燥重量 1413kg 
■エンジン 水平対向6気筒3996ccガソリン 
■最高出力 500ps/8250rpm 
■最大トルク 46.9kg-m/6000rpm 
■ギアボックス 6速マニュアル