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ガソリンをがぶ飲みするV12

燃料計の針が「E」に貼り付いていたが、われわれは世界でも最も雄大な道路のひとつである40号線を通りパタゴニアの西部を注意深く北上していた。滑らかで透明感のある絶景が続く。だが、このすばらしい南北縦断ルートには、ある重大な欠点が存在した。それは、ガソリン・スタンドがないことだった。

フェラーリ365GTCは燃料をやたらと必要とするクルマだ。どう上手く運転したところで、4.3km/ℓというハイ・ペースでガソリンをがぶ飲みする。

ただ、例えトリプル・ツイン・チョークのウェバー製キャブレターに供給される燃料が底を尽き、シングル・オーバー・ヘッド・カムの324psを発揮する壮大な4.4ℓのV12ユニットが停止したとしても、決して取り乱すことはなかっただろう。

というのも、偉人ジョアッキーノ・コロンボが設計し、4本マフラーからエキゾースト・ノイズを奏でるV12エンジンとともに走破した160kmの距離は、既に筆者の人生において最高の体験のひとつになっていたし、土手に座ってガス欠のクルマを眺めなければならなくなったとしても、鋭さの中に繊細さを残したセクシーなフォルムのクーペを見飽きることはなかったからだ。

理想的な重量配分のおかげもあって、魅惑的なまでにニュートラルなステアリング。

アンデス山脈の麓で365GTCを堪能する

グティエレス湖の近くでクルマを停めるために365GTCを減速させていたちょうどその時、林の中の空き地にたたずむ旧式のガソリン・スタンドが見えた。その上、アットホームな感じのカフェまで付いている。おかげで、幸いにしてガス欠で立ち往生するという情けない事態は避けることができた。

フェラーリはどのヒストリック・モデルであろうと、イグニッション・キーを受け取る時にはやはり心が躍るものだ。それらヒストリック・フェラーリの中でも、ポール・フレールやフィル・ヒルなどが1960年代における最も完成度の高いオール・ラウンドなGTのひとつだと評価し、250GTルッソの洗練されたスタイリングを受け継ぐこの365GTCをドライブしてみたいと、常日頃から思っていた。

この人里離れたアルゼンチンの国道は、330GTCをさらに進化させた上に、ピニンファリーナがスタイリングを手がけたこの2シーター・モデルの戦慄すべきパフォーマンスと絶妙なバランスを探求する上では最高の舞台のひとつである。

道幅は広く、高速走行にはもってこいだ。フラットな路面がアンデス山脈の麓や美しい湖の周りをうねうねと走り、警察はもちろん、通行するクルマにもめったに遭遇する心配がないからだ。

フェラーリの伝説的ドライバー、ポール・フレールは、365GTCが「コントロール可能な形でスムーズにドリフトする」と語った。

クラシック・イタリアンのインテリア

最適な角度を持つナルディ製3本スポーク・ステアリング・ホイールと、腰の収まりが良いシートの間に滑り込むと、木目のパネルと端正な黒色のヴェリア製のメーターが目に入る。ボディ・ワークと同様、インテリアも控えめな印象だ。

「フェラーリ」ブランドが徹底して強調されている現代のフェラーリの華やかなムードとはあくまでも対照的に、クラシックなイタリアンらしく細部に渡るまで実に渋い。ステアリング・ホイールのボスにスクーデリア・フェラーリの跳ね馬が刻印され、パネル中央にある灰皿のカバーにピニンファリーナのマークである交差したフラッグが付いているだけだ。

シボ加工した黒革と、けば立ったトリム。そんな365GTCは、大切にされ、使い込まれたオーラを放ちつつも、お気に入りのサントーニのローファーのような快適でいながら高級な感じがした。細身のピラーは、四方の視界が異例に良く、前方の息をのむような絶景をベストな構図で見せてくれる。

心地好いシフト

広いセンター・コンソールの前にある、ドッグレグ・パターンの1速は少し入れづらいものの、左ハンドル・モデルであるため、ギア・レバーに大きく腕を伸ばす必要はない。低速でのシフト操作は重く感じるものの、この魅惑的なクーペが紛れもなくフェラーリであることを思い出させるのにはちょうど良い。

パワーアシストのないZF製ウォーム&ローラーのステアリングは、最初は重く、切れ角も小さいものの、スピードが出てきて、シフト・ゲートの本体である「H」型の部分にギアが気持よく入るようになる頃には、嘘のように軽くなる。クラッチのレスポンスはとても気持ち良く、トランスアクスルのオイルが暖まると、ポルシェ・シンクロが見事に機能する。

しかし、エンジンの高らかな咆吼を聞きたいばかりにシフト・ダウンの際に不要とは知りつつも、ついダブル・クラッチを踏みたくなってしまう。ふたつの巨大なサーボ(ひとつはフロント用、もうひとつはリア用)がガーリング製のディスク・ブレーキをアシストしており、低速では些かオーバーサーボ気味に感じられるものの、それが高速ではかえって心強い。

良質な乗り心地

ブレーキは160km/h超からでも確実にスピードを殺してくれると共に、フェード現象が起きる気配もない。コニ製ショック・アブソーバーのおかげで乗り心地はしっかりしていながらも衝撃をうまく吸収している。275GTBから継承したオールラウンドのダブル・ウィッシュボーン独立懸架サスペンションが対応し切れなかった衝撃については、スプリングのきいたシートがそれを吸収してくれる。

そのような劇的な性能から予想されるように、高度の高い山岳路のタイトなコーナーを抜ける際もロールをほとんど感じさせない。

理想的な重量バランス

ホイールベースの短い365GTCは、ガソリンを満タンにした状態で50:50という理想的な前後重量配分のおかげもあってか、アンダーステアにセッティングされていたそれ以前のGTとは異なり、魅惑的なまでにニュートラルな感じだ。かつて、ポール・フレールは、365GTCが、限界点でも完璧なバランスを保ち、そこで「コントロール可能な形でスムーズにドリフトし始める」とレポートしている。

このクルマの目の玉の飛び出る値段を考え、そのようなコーナリング性能の限界を試すことは自制したものの、V12を轟かせながら高めのギアで高速コーナーを抜ける際のレスポンスはすばらしく、やみつきになりそうだった。

エンジンは巨大なトルクと柔軟性を備えているが、本領を発揮するのは高回転域だ。0-100km/h加速がわずか6.3秒という365GTCは、どんな基準をしても充分に速いクルマだが、1451kgという重量を前にすると、この数字がますます印象的なものとなる。

魚を連想させるフロントエンドよりも粋なリアの方がしっくりくるものの、細部に至るまで均整のとれた外見。

4.4ℓV12ならではの強烈なパワー

ターマック舗装の滑らかな40号線は、まるで365GTCのために存在するようだった。どのギアでも、洗練され、余裕のあるパワーが回転数をすばやく引き上げ、無限に加速し続けるようにさえ感じられる。

ある長い直線区間で190km/hを保って走ってみたが、この強大なマシンは、1969年当時にAUTOCAR誌で計測した242km/h(6600rpm)まで楽々と加速していきそうだった。長い走行距離をこなすのは非常に容易であり、そのことは365GTCが長距離をリラックスして走れるグランツーリスモであることを証明している。ただし、90ℓ入りの燃料タンクに絶えずガソリンが補給され続ける限りはではあるが……。

旅の最後の方になって、V12の伝える強烈なパワーを楽しむ代わりに、燃料計とにらめっこする羽目になったのは非常にストレスになった。

いささか価格は急騰してしまったが

今回、筆者の特別な旅が実現したのは、パトリシオ・マグラネ氏の好意によるものだ。彼は、2007年にロンドンのカーズ・インターナショナルからこのメタリック・クリア・ブルー(Blu Chiaro Metallizzato──クルマの色はいつだってイタリア語の方がエキゾチックに聞こえる)の365GTCを買い、フェラーリの世界を知った。

365GTCは、2007年5月にモデナで行われたRMのフェラーリ・レジェンダエパッシオーネでオークションにかけられ、16万5000ポンド(およそ2,100万円)で落札されている。過去7年間で価格がさらに高騰しているものの、だからと言ってマグラネ氏がフェラーリを運転するのを控えることはない。

330/365GTCの価格が高騰しているためにこのスタイリッシュなクーペのオーナーたちが自分のクルマに乗るのを控えているとすればお気の毒な話だ。ガレージ・フランコルシャンのサービス・マネージャーがオーナーたちに常々説いてきたことだが、「クルマというものは、定期的に動かした方がはるかに信頼性が高まるし、その見返りもあります」 ということだ。

コロンボの設計したV12エンジンは高回転域で伸びる。


値段が急騰していることも、アルゼンチンのカントリー・ロードでの走行体験をますます得難いものにしている。AUTOCARは当時365GTCの本格的な試乗レポートを初めて行うため、説得に説得を重ねた末にコースリにあるロブ・ウォーカーのガレージから365GTCを貸してもらう約束を取り付けた。

その時のレポートも同意見だった。「普通の家が1軒買えてしまう値段。それに、800マイル走るごとにグリーン・シールド・スタンプ帳が切手でいっぱいになる燃料消費量。このクルマは恵まれた人々のためにある」レポートはそう締めくくっている。

「しかし、365GTCは、そうした人々の基準でも、ドライバー、パッセンジャー、傍観者、企業の経営者、そして何よりもスペシャリスト達に感動を与え続けるに違いない」

決して忘れることのない貴重な体験

365GTCはやはり超高級車だった。しかし、このセンセーショナルなフェラーリ本来の姿をなお失わずに済んでいるのは、マグラネ氏をはじめとするエンスージァストの努力の賜だ。

この幻想的な40号線を365GTCで疾走した記憶が失われることは決してない。偉大なクルマを、自分にとって真に特別な存在にしてくれたのは、そのクルマで走った場所の記憶だ。4.4ℓV12エンジンのフェラーリ独特のエンジン音を響かせ、アンデスの山影に沿って疾走したのは夢のような体験だった。

その夜、365GTCでのアンデス走行を記念して飲んだアルゼンチン産のマルベックの味は格別だったことは言うまでもない。

フェラーリ365GTC

■生産期間 1968〜1970年 
■生産台数 168台 
■車体構造 チューブラー・スティール・フレーム/スティール・ボディ 
■エンジン形式 V12 SOHC4390cc + 3ツイン・チョーク・ウェーバー40DFIキャブレター 
■エンジン配置 フロント縦置き 
■駆動方式 後輪駆動 
■最高出力 324ps/6600rpm 
■トランスミッション 5段M/T 
■全長 4496mm 
■全幅 1676mm 
■全高 1283mm 
■ホイールベース 2400mm 
■車両重量 1451kg 
■サスペンション (前後)ダブル・ウィッシュボーン + コイル  
■ステアリング ZFウォーム&ローラー 
■ブレーキ ディスク 
■0-97km 6.3秒 
■最高速度 242km/h 
■現在中古車価格 1億1000〜1億2500万円