私には、師と仰ぐ日本人がいる。22年前、私の勤務する深圳の会社に、会社のマネジメント方法を改善するため、三辺成雄さんという人がやってきた。社会通念や習慣の違いから、三辺さんと会社の上層部は衝突を繰り返し、毎日のように激しいやりとりが繰り返されていた。議論が白熱してくると三辺さんは机をたたき激高することもあって、たいていの管理職や従業員から嫌われていた。だが、三辺さんが強力に指導したため、たった3カ月で業績は黒字転換し、会社は黄金時代に突入した。

 三辺さんが会社にいたのはたった6カ月だった。三辺さんが在職していた時には、早く日本に帰ればいいのになどと言っていた従業員たちも、彼が去った後、「三辺さんがいればなあ」といって、当時を懐かしんでいた。これは管理職の面々も同じだった。私の人生も三辺さんから大きな影響を受けたと言える。三辺さんから教えられたことは今でもよく思い出す。そして私を育ててくれたことに感謝の念を禁じ得ない。

議論倒れの中国人と行動重視の日本人

 当時、三辺さんが私に語ったテーマで最も多かったのが、中国人と日本人の考え方や習慣の違いから生じる問題についてだった。

 彼は、中国人はなにか起きた時にいつも議論から入ると指摘していた。これはする必要があるのか? どうやってするのか? 成功できるのか? 十分に勝算があるのか? などとひとしきり並べ立てると、それから、人がいない、金がない、時間がない、条件がそろってないなどと、できない理由を探し始める。そして時間だけが過ぎ去って、最終的には事態は何も進展していないといった具合だと。

 日本人はそうではないと三辺さんから聞かされた。日本人はいったんやるべきだと思ったら、勝算が6割か7割あればすぐに着手するという。最初は余り状況が芳しくなくても、何か方法を考えて少しずつ改善し、少しずつ進歩してゆき、最後には上々の結果が得られるのだと言っていた。こうした過程では、日本人はまず着手して、それから改善を重ね、淡々と焦らず努力を続けるのだ。少しずつ進歩させることで達成感や喜びを感じるようになり、彼らにとってそのことが改善を継続させるための動力源となるというのだ。

 だが我々中国人は違う。言ってもやらないか、やっている最中に困難にぶつかるとそれを口実に止めてしまう。そして最後に「議論がたくさんしたが、実際の行動がほとんどなし、大抵結果が出ないで有耶無耶になってしまいます」という。そして、人が驚くような成果を上げること、大きなことを成すことばかりをやりたがり、小さなことは軽んじてやろうとしない。その結果、なにも成し遂げることができない。

思わぬ結果をもたらした倉庫の片づけ

 三辺さんが中国に来て間もなく、会社に新しい倉庫が必要だという話が持ち上がった。三辺さんが理由を尋ねると、倉庫が狭すぎて、新しい倉庫を建てなければ製品を雨ざらしにするしかないからという答えが返ってきた。それを聞いた三辺さんは倉庫を確認するとこう言った。「倉庫の中にはこれまでのプロジェクトで残った建材やケーブル、ゴミが山積みになっています。それらを整理すれば空きスペースができますから、新たな倉庫など必要ありません」そして会社の上層部に対し、関連部門から人を出させて倉庫を片付けるよう求めた。私は工場の副責任者にありのまま報告したが、副責任者はできない理由を山のように並べたて、「あなたもご存知の通り工場は今、生産で手一杯で人手も足りません。倉庫を片付ける余裕などありませんよ」と一蹴した。

 私は三辺さんのところに戻ると正直に報告した。話を聞き終えた三辺さんは何も言わなかった。次の日になると、三辺さんは私に、社長以下全ての管理職員に昼食をとったら倉庫に集まるように伝えてほしいと言った。何か重要なことでもあるのですかと尋ねたが、三辺さんは何も答えなかった。昼食を食べ終えて倉庫に集合した管理職たちは、指示に従い整列した。そして三辺さんはいったい何を考えているのだろうといぶかしく思いながら、彼が口を開くのを待っていた。

 

 三辺さんは管理職たちが整列し終えたのを見ると前に進み出て、「今日みなさんに来ていただいたのは、みなさんのお力をお借りしたいと考えたからです。私と一緒に倉庫の片づけをしていただけますか」と言った。三辺さんの指示を仰ぎながら、私たちは1時間半をかけて倉庫に山積みになっていた半年分のゴミを全部片付け、不要な材料や廃棄物をすべて外に運び出し、まだ使えるケーブルなどを倉庫の一角に整頓した。すると、倉庫の1/3が空になったのだった。

中国人は聡明なはず 

 片付けが終わると、三辺さんはもう一度全員を整列させてこんな話を始めた。皆が昼休みを返上して働いたおかげで、半年近くため込まれたゴミを片付けることができた上、会社に倉庫を新築するための多額の資金も節約できた。だがそのことは重要なことではないのだと言った。「本気に何かをやり遂げたいなら、時間も作れるし、人も集められるし、資金も調達できるものです。倉庫が手狭だから新築が必要だと言ったけれども、なぜ誰にも倉庫を片付けるという発想がないのか。なぜ誰にも、在庫を減らそうという発想がないのか。なぜ誰も、倉庫を自分の目で確かめようとしないのか。それは、責任感がないからです。知恵を絞って解決方法を探したくないからです」

 「あなた方は人手が足りない、そんなひまはないと言いました。 時間がないと言ったのは、あなた方が責任転嫁に慣れ親しんでいるからでしょう。身に付けた『言い訳を探す』という悪しき習慣を断ち切らなければなりません。理屈を並べるのではなく、行動する必要があるのです。絶えず気を付けていれば古い習慣を捨て去り、新たな習慣を身に付けることは可能です。もう一度言います。習慣とは、教室で授業を聞いていれば習得できるものではありません。そうではなく、常にやり続けることで身に付くのです。ですから、これからはどんなことに遭遇してもまずはやってみることをみなさんにお願いしたい。その最中にも常に改善を続け、より完璧を目指していただきたい。そのようにして初めて、物事を成し遂げるという良い習慣が身に付くのです」

 最後に三辺さんはこう結んだ。「中国人は口ばかりで実行しない。私たち日本人は口に出したら実行する。だが一番賢いのはドイツ人です。彼らは実行してから「やった」という。中国人は聡明なはずです。私は、中国人がドイツ人のように、あらゆることをまずやってから口に出すという習慣を身に付けることができると信じています」

 このことは、会社の上層部や管理職の心を打ち、私自身の心にも深く刻み込まれるできごととなった。あれから22年の歳月が過ぎたが、今でも鮮やかに思い出すことができる。

 今日私がこのことを記したのは、すべての人々とこの話を分かち合いたいと思ったからだ。私は全ての同胞が、小さな賢さを備えるだけでなく、大きな知恵を身に付けることを念じてやまない。憎しみから相手をさげすむことは止めて、相手の長所を学ぼうではないか。

(翻訳編集・島津彰浩)