ミャンマー・ヤンゴンの桟橋で肩を寄せ合うカップル(2017年4月26日撮影、資料写真)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】2年前、ミャンマーのヤンゴン(Yangon)のホテルでティリ(仮名)さん(28)は、心臓を激しく鼓動させながら全身を震わせていた。望まない妊娠を終わらせるために中絶薬の最後の1錠を飲み込んだときのことだ。

 恋人は妊娠を知ると、ティリさんを捨てた。だが、婚前交渉を持った女性が「堕落している」と見なされることが多いミャンマーでは珍しい話ではない。他に選択肢がなかったティリさんは、大勢の女性たちと同じ道を選んだ。命を危険にさらしながら闇の違法中絶に頼ったのだ。

 AFPの取材に応じたティリさんは当時を振り返った。「(薬を飲み終えると)心臓がものすごい速さでドキドキし始め、全身が震え始めました。それから出血し、腹部に痛みが起きたのです」

 ミャンマーでは、母体に生命の危険がある場合を除いて妊娠中絶は禁止されており、法律に違反した医師は最高10年の禁錮刑を科される恐れがある。

 仏教徒が多数を占めるこの国では、セックスについて話すこと自体がタブーとされ、公用語のビルマ語には「膣(ちつ)」に相当する単語もない。避妊具の入手は実質的には可能だが、使用方法を知っている女性はほとんどおらず、多くの若者は恥ずかしくて買えずにいる。

「女性たちはセックスの話をしません」と話すティリさんは、現在の婚約者には中絶経験があることをまだ打ち明けていない。「(セックスや中絶の問題は)言ってみれば秘密なんです」

 セックスにまつわる問題について語ることを避け、恥ずべきものと見なすミャンマーの文化では、違法で危険が多い妊娠中絶をやむなく選ぶ女性は年間25万人以上いるはずだと専門家は指摘する。

 妊産婦10万人中死亡例282人というミャンマーの妊産婦死亡率は東南アジア諸国では2番目に高く、同域平均の2倍に相当する。当局の発表では、ミャンマーでは人工妊娠中絶は死因の約10%を占めているが、感染症による死亡例を含めれば実際の割合はもっと多いと専門家はみている。

■傘の柄や竹で中絶手術を行う偽医者に頼るしかない

 ティリさん同様、絶望した多くの女性たちは、闇市場で販売されている怪しげな薬にすがる。もぐり営業の医院を訪れる女性たちもいるが、そうした医院を経営しているのは、医療知識を持たず、傘の柄から小枝、竹などありとあらゆるものを使って胎児をかき出そうとする偽医者だ。

 専門家らによると、商業の中心地ヤンゴンだけでも医師免許のない外科医が数十人おり、3万〜10万チャット(約2500〜8300円)で中絶手術を請け負っている。そうした医者に手術を受けた場合、出血多量であっという間に亡くなるか、いずれ命取りとなるような感染症をうつされるケースもある。

 人権活動家らによると、既婚女性の場合は、夫の求めを断るか、夫に避妊具を使用させることができずに妊娠してしまうことが多いという。

 女性の権利団体、アクハヤ・ウィメン(Akhaya Women)の創設者ター・ター(Htar Htar)さんは、女性たちは夫との性交渉に合意しないと脅されるのだと語る。

 ミャンマーの前軍事政権は避妊に反対していたが、2011年に準文民政権が発足すると、こうした傾向に変化が訪れた。同政権は、既婚女性がより手軽に避妊具を入手できるようにする計画を実施した。

 国連人口基金(UNFPA)は、2年間で約1000万ドル(約11億円)を妊産婦の健康と家族計画の改善に充ててきた。だが、世の中の認識を変えていくのは一筋縄ではいかない。

 中絶に関する法律を改正するのは、強硬路線を取る仏教集団もいるミャンマーでは非常に慎重さを求められる問題だと指摘する声もある。

 だがティリさんのような女性たちにとっては、中絶は生死に関わる問題だ。ティリさんはこう語った。「(中絶が)合法なら、多くの命が救えるのに」
【翻訳編集】AFPBB News