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■どんなクルマ?

「650Sより1.5世代ほど先へ進んだ」

マクラーレンは、この720Sでどれほどのレベルに達したのか。それを知るために、開発スタッフたちに訊いた話を、いよいよ公開できるときが来た。

675LT、いや、そのベースである650Sを発表した時点で、この720Sのデビューは決定していた。開発コードP14と呼ばれていたそれは、あらゆる面で650や675を凌いでいる。

マクラーレンの持てる全てを注ぎ込んだというこのクルマは、650Sより1.5世代ほど先へ進んだように感じられる。速く、使いやすく、コントロールしやすい、地球上で最高のスーパーカーとなるに違いない1台だ。

もはや馴染みとなったマクラーレンの命名法だが、それ以外にも馴染みの要素は多い。V8ツイン・ターボはリア・ミドにマウントされ、後輪を駆動する。

シャシーもこれまで通りカーボン・タブを用いるが、720Sのそれは新設計。キャビン頭上までカーボンのパートが拡がり、剛性の向上と重心の低下、18kgの軽量化を実現する。

サスペンションは前後ともダブル・ウィッシュボーン。4本のダンパーが協調するプロアクティブ・シャシー・コントロールは、センサーの増設などを受けた第2世代だが、やはり古い人間としては困惑を覚えるものがある。

これは簡単に言えば、ロールするような状況では硬く、ラフな路面ではしなやかで、スタビライザーを不要にするデバイスだ。

最初に採用したMP4-12C以来、マクラーレンのスーパー・シリーズには共通の装備で、いずれも乗り心地は並外れてよかったが、エンジニアによれば、今回はさらにいいくらいだという。

ホイールはフロントが19インチ、リアが20インチで、カーボン・セラミック・ディスク・ブレーキは標準装備される。

タイヤ/エンジン/ボディを見ていこう

タイヤのメイクスはピレリで、Pゼロが標準装備、オプションでPゼロ・コルサを用意する。ちなみに、650Sはコルサが標準、オプションはさらにソフトなコンパウンドのトロフェオだったが、タイヤの開発は進んでいる。

最新のPゼロは、かつてのコルサよりグリップし、しかも乗り心地もライフも改善されているという。

タイヤに限らず、多くが既存モデルから更新された720Sのコンポーネンツは、91%が新設計となった。対して、エンジン単体で見ると、新設計率は41%。

排気量は3.8ℓから4.0ℓへ拡大された。これは、ボアはそのまま、ストロークを3.6mm延長した結果だ。ピストンやコンロッド、クランクシャフト、ツインスクロール・ターボチャージャーなど主要部分の多くは刷新されている。

改良により、レスポンスは向上し、出力もアップ。最高出力は車名通り720psを7500rpmで発生し、最大トルクは5500rpmで78.5kg-mに達する。

トランスミッションは、シフト・パドルを備える7段DCTで、LSDの代わりにブレーキ・ステア機構を採用した。

ボディ・パネルは大部分がカーボンで、一部にはアルミも使用。スタイリング面の特徴は、サメやスズメバチを思わせるヘッドライト回りの処理だが、これはマクラーレン社内でも賛否両論があったそうだ。

ここにはダクト類も統合するなど、機能面でも意味合いを持たされている。また、サイドでは、ドア部にエア・インテークが備わらないのがかえって目を引く。

エンジンへのエア・フローはドア上部に経路が設けられ、これによりキャビンの幅はやや犠牲になっている。

リアにはボディ幅いっぱいのアクティブ・ウイングが据え付けられ、エア・ブレーキとしても機能するが、これはマクラーレンのスーパー・シリーズに共通のアイテムだ。

効率は30%向上し、Cd値は未発表ながら、ダウンフォースは従来比2倍に高められたという。

■どんな感じ?

実用性はどれほどなのだろう?

新たな空力デザインが、キャビンを圧迫するものだということは先に述べた。たしかに、左右シートの距離は近い。

しかし、低いサイド・シルと、ほぼ垂直方向へ開くドアにより、脚を大きく上げたり頭をぶつけたりすることなく、より容易に乗り降りできるようになった。

シャシーの変更は、視認性の向上にも貢献。Aピラーはきわめて細く、キャビンを取り囲む縦横のビームも細い。その間にガラス・パネルが張り巡らされ、ミッドシップのスーパーカーとは思えないほど、周囲を見通せる。また、キャビンの狭さを感じさせない開放感も生まれている。

ドライビング・ポジションは毎度ながらのストレートアームだが、コラムは電動で調整可能。なお、アシストは油圧式だ。ブレーキ・ペダルはセンターにマウントされ、左右どちらの足でも踏みやすい。

メーター・パネルが開閉式になったのはあまり必要性を感じないが、新たなセンター・スタックのタッチパネル式コントローラーは、従来品より使い勝手が向上。操縦系は見慣れたマクラーレンのそれだが、必要以上に複雑なように思えなくもない。

内装の素材は上質で、アルカンターラに施されたステッチには所々に粗が見えるが、これは先行試作車ゆえのことで、量産車では改善されるに違いない。

公道上でも、サーキットにおいても、720Sは650Sを上回る能力を見せるが、675LTほど過激な性格ではない。月曜の朝にローマの混み合う道で720psのスーパーカーを初試乗するという、ある意味過酷なミッションを与えられたジャーナリストが、自信を持って運転できるクルマだ。

視認性は上々で、乗り心地はしなやか。ダンパーはコンフォート/スポーツ/トラックの3段階調整だが、街なかではほぼコンフォートに入れっぱなしだった。

ちなみに、この乗り心地重視のモードは、これまでノーマルと表記されていたが、マクラーレン的には「乗り心地重視」の状態が決して「ノーマル」な状態ではないということで変更されたようだ。

スーパーカー=じゃじゃ馬は、過去のもの?

エンジンとトランスミッションも3モード式で、サスペンションとは別個に切り替えできる。

試乗車にはスポーツ・エキゾーストやバケットシートを備えるレーシーな仕様だったが、市街地でのエンジン音はそれほど大きくなかった。

いや、市街地に限らず、力強いサウンドではあるものの、AMGのV8のような轟音や、フェラーリのような吹け上がりといった、これ見よがしな演出はない。

また、運転していると、すぐにクルマが小さく感じられるようになる。そのため、これが本当に700psオーバーのスーパースポーツなのかと、馬鹿げた疑問さえ抱いてしまう。

£218,000(3,165万円)もするクルマなのだが、クルマの流れを縫って走り、荒れた田舎道やなだらかなアップダウンを駆け抜けてみると、ミドルサイズのファミリー・セダンに乗っているように運転がイージーであることに気付くはずだ。

とはいえ、望めばとびきりの速さも見せてくれる。トルクは太く、ラグはきわめて小さいため、高いギヤでも走りやすい。中回転域でも、3台くらいは楽にオーバーテークできる。

ロック・トゥ・ロック2.5回転のステアリングはピュアでありながらしっとりと滑らかで、ギヤ比も重さも素晴らしい。コーナリング中にもウエイトが抜けるようなことはなく、路面の感触も損なわずに伝えてくれる。このクラスでは希有なフィーリングだ。

フェラーリ488GTBを上回るパワーの持ち主だが、それより神経質さはない。かつて、900psオーバーのP1がいかにサーキットでドライブしやすかったかを告げたとき、マクラーレンのスタッフが話していたことを思い出した。

「そうでしょう。フル・スロットルにする必要はありませんから」。あえて挑まなければ、自然とそうなるのだ。われわれもそうだった。それを知らしめるべく、マクラーレンはヴァレルンガ・サーキットを試乗会場に選んだのだ。

どれほどパワーがあれば、手に負えなくなるのか。そんな疑問は、このレベルのクルマにとっては愚問だ。

15年前ならありえなかったようなパワーも、シャシーにそれを受け止める能力があれば、フルスロットルさえ可能なのである。ピットアウトの際、4速でトップエンドまで回してそれを思い知った。

ドリフト! ドリフト! ドリフト!

720Sは実に取っつきやすい。途轍もなく速いが、スムースとは言えないサーキットでトラック・モードを選択してさえ、バンプを目覚ましいほどにいなし、懐の深いボディ・コントロールを見せてくれる。

ブレーキングでわずかにノーズがダイブし、コーナーではややボディを傾け、加速するとリアに荷重がしっかりかかる。

ステアリングの重さは一定で雑味が混じることはなく、変速は切れ味がよい。エンジンのレスポンスはどの回転域でも非常に優れ、フラット・スポットやターボの抜けもないまま8000rpmまで回りきる。パワーは豊かに、滑らかに、どこまでも出続けるようだ。

ただしサウンドは、スペシャルな感じが足りないように思える。パワフルかつ魅力的で、時として大音量を発するが、音を楽しむことが、このクルマに乗る理由となる類のものではない。

スロットルでの挙動コントロール性は、650Sのそれとはことなる。ブレーキを用いた電制デバイスでLSDの代用をするのは同じだが、パワーが上がり、ブレーキステアが適切に仕事をこなすことで、スロットルへの反応は高まった。

基本的な特性は安定してわずかなアンダーステア傾向を示すが、しかし、ブレーキングしながらコーナーへ入り、旋回中にブレーキを解くことで、挙動はアジャストできる。

ちょうどドライバーの脇辺りを軸にする感覚でタックインして、アングルを決めてスライドさせることすら楽しめる。

スタビリティ・コントロールがオンならそれはわずかで、ハーフ・オフなら、もう少し深いアングルを付けられる。

バリアブル・ドリフト・コントロールを選べば、ちょっとしたスライドから、本格的に振り回すドリフトまで、思いのままに持ち込めるが、全てをオフにしたときほどには派手にスライドしない。

そのときには、720Sは盛大なタイヤスモークを上げることになる。

■「買い」か?

「世界最高のスーパーカー」

限界領域で、本当に488GTBほど御しやすいクルマであるか確信は持てないが、ドライビングに夢中になれるという点では、間違いなくマラネロ生まれのライバルに匹敵する。

とにかく速さに驚かされる。マクラーレンでは明言しないが、675LTを凌ぐのは確実で、下手をしたらP1すら上回るのではないかとさえ思えるほどだ。

一方で、675LTやポルシェ911GT3ほど猛々しくはない。近寄りがたさはなく、寛容だ。同じように運転しやすく快適で速いクルマがあっても、ここまでの包容力は得られないかもしれない。

言ってみれば、まさに、ありえない領域に達しているクルマだ。ここまで市販車メーカーとして歩んできたマクラーレンの7年間にあって、各モデルが受けてきた全ての批判への、これが答えだと言えるものがある。

720Sは、もちろん世界基準のスーパーカーだ。そして間もなく、来るべき比較テストにおいて、世界最高のスーパーカーであることが証明されるだろう。

マクラーレン720S

■価格 £218,020(3,165万円) 
■全長×全幅×全高 4543x1930x1196mm 
■最高速度 341km/h 
■0-100km/h加速 2.9秒 
■燃費 9.3km/ℓ 
■CO2排出量 249g/km 
■乾燥重量 1283kg 
■エンジン V型8気筒3994ccツイン・ターボ・ガソリン 
■最高出力 720s/7500rpm 
■最大トルク 78.5kg-m/5500rpm 
■ギアボックス 7速デュアル・クラッチ