東芝の綱川智社長(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

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 経営危機に陥っている東芝が、会計基準と監査法人を変更することを検討していると報道されている。事業年度終了後に会計基準と監査法人の両方を変更するというのは前代未聞だ。各方面からは批判的な声が相次いでいる。

 しかし一方で、「東芝悪し」という一方的な報道のあり方も考えるべきところがある。そもそも、前提となる事実が正確に報道されていない。

●会計基準と監査法人変更の背景

 東芝は、第3四半期報告を2度にわたって延期した。理由は、監査を担当するPwCあらた監査法人との見解の相違が埋められなかったからだ。

 あらたが問題視したのは、2015年に行われた米原発子会社ウェスチングハウス(WH)による買収の際の内部統制の不備だ。買収時の取得価格の配分に関して上層部からの不当なプレッシャーがあったとする内部告発が、WH内であったのだ。

 東芝は、第三者委員会による調査などをして「問題なし」と回答したが、あらたはそれを不十分と考えたらしい。両者の溝は埋まらず、結局、監査法人からの四半期レビューに対する結論は不表明という、これまた上場企業としては異例の結果となった。

 このまま年度末監査を迎えても、あらたとの溝は埋まらないと判断したのだろう。東芝は、監査法人を変更することを検討し始めた。新しい監査法人は準大手クラスを考えているらしい。

 準大手クラスに変更する布石として、会計基準も米国基準から日本基準に変更するということのようだ。実は東芝は、IFRS(国際会計基準)に変更することを表明していたが、準大手クラスの監査法人にとっては、米国基準やIFRSは馴染みが薄く荷が重い。そこで、IFRSへの変更は取りやめ、日本基準に変更するということなのだろう。

 事業年度がすでに終了しているこのタイミングで、会計基準と監査法人を同時に変更するというのは、さすがに異例中の異例だ。時間的・能力的に十分な監査が可能なのか、大いに疑問だ。

 仮に変更できたとしても、果たしてそれによって東芝が得るものはあるのだろうか。開示制度の根底にあるのは、情報に対する信頼性だ。事業年度が終了しているこのタイミングで会計基準と監査法人の両方を変えるというのは、フィギュアスケート選手が演技を終えてから採点基準と審査員を選手の意向で変えるようなものだ。それで高得点が出たところで、誰がそれを信用するだろうか。

 東芝は、適正意見を手にすること引き換えに信頼性というもっとも重要なものを失うという、本末転倒な結果になりかねない。

●監査法人側には問題はないのか

 一方で、東芝側だけに非があるわけではない可能性もある。その前提として、各メディアの報道の誤りについて言及しておきたい。

 NHKも日本経済新聞も、先の第3四半期報告に関して「監査意見不表明」と報じているが、四半期報告に対して行うのは「監査」でもなければ「意見」でもない。行うのは「レビュー」であり、不表明となったのは「結論」だ。レビューは監査より数段保証レベルが下がるものであり、短期間に行うことを前提としているので、積極的に「意見」を表明できるような代物ではない。それを多くのメディアが「監査意見不表明」というのは、無頓着なのか無知なのか意図的なのかはわからないが、ここを正確に理解しておかないと、今回の件も偏った見方になってしまう。

 四半期報告は、そもそもタイムリーディスクロージャーのために始まったものなので、四半期終了日から45日以内の開示を求めている。だから、積極的な証拠集めを想定しないレビューにあえてしているわけだ。東芝の第3四半期報告で直接の問題となった内部統制も、四半期レビューにおいては積極的な評価対象とはされていない。そこを詳細に突っ込んだら、報告書の提出期限に間に合わないのは当然だ。そう考えると、監査法人の四半期レビューが過剰だったのではないかという見方もあり得るのだ。

 さらにこれが監査だとしても、監査法人は何を望んでいるのかよくわからない部分がある。報道によれば、東芝は第三者委員会を設置し、米国の弁護士にも調査を依頼している。そのいずれも調査結果は「問題なし」だ。前任の新日本監査法人の見解も「問題なし」である(不適正会計を見逃して行政処分を受けた新日本監査法人の見解がどこまで信用できるかという疑問は残るが)。

 それでも監査法人側が認めないとすると、東芝としては「一体、あと何をすればいいの?」という気持ちだろう。こうなってくると、あらたは「クロ」という結論ありきの監査になっていたのではないかという疑問さえ出てくる。行政処分を受けた新日本監査法人の後を継いで、肩に力が入り過ぎている気もする。

 一連の騒動の原因をつくったのは東芝であり、東芝に対する批判は逃れられないが、「東芝悪し」という一方的な見方だけではない見方もあり得るという視点は、持っておく必要がある。そして、そういう冷静かつ客観的な目を持つためには、報道を鵜呑みにしないことが重要だ。少しでも専門的な話に関して、メディアは驚くほど無知である。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)