「キレ」る寸前か!?(金正恩) AP/AFLO

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 昨年12月、北朝鮮の金正恩・労働党委員長は最高幹部を前にして、「南朝鮮(韓国)世論に北南和解ムードを拡散せよ」と檄を飛ばしたことがわかった。この指示は、韓国社会にどのような影響を及ぼしたのか、ジャーナリストの城内康伸氏が報告する。

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 今年1月1日、正恩氏は国政方針を語る「新年の辞」で「南朝鮮では昨年、大衆的な反政府闘争が強力に繰り広げられた。保守当局への恨み、怒りの爆発だ」と韓国世論をあおった。 「北南関係改善を望む者なら、誰とでも喜んで手を取り合っていく」

 韓国次期政権を念頭に、南北対話の用意がある、と揺さぶりをかけた。韓国情勢は当初、正恩氏の期待通りに運んだ。

 韓国国会は大統領の弾劾訴追案を可決し、朴氏は職務停止に追い込まれた。憲法裁判所が弾劾審理を続ける中、国民の関心は次期大統領選挙に移った。韓国の世論調査によれば、革新系最大野党「共に民主党」の文在寅前代表が圧倒的な支持率でトップを走った。

 文氏は南北交流を進めた故盧武鉉政権で秘書室長まで務めた盧氏の最側近。1月に行った韓国メディアとのインタビューで「大統領に当選すれば、まず北に行く」と言ってのけ、北朝鮮南西部・開城工業団地の南北共同事業再開に積極的だ。

 保守系で唯一の有力候補と目されていた、潘基文前国連総長は2月1日、不出馬を表明。「人格殺害に近い攻撃を受けた」と理由を挙げた。北朝鮮の対南工作機関・党統一戦線部がインターネットを通じ、潘氏の不都合な情報を流布していた、との情報もある。

 朴槿恵氏の弾劾訴追を審理していた憲法裁判所は3月10日、韓国憲政史上、初めてとなる現職大統領の罷免を決定。続く31日には、検察特別捜査本部が、最大財閥サムスングループからの巨額収賄などの容疑で、大統領としての不訴追特権を失った朴氏を逮捕した。

 革新系の韓国次期政権が実現すれば、南北対話を進めて関係を修復し、国際制裁による孤立からの脱却を図る。頭の中で描いていたストーリーがいよいよ現実味を帯び、正恩氏は欣喜雀躍したはずだ。

●しろうち・やすのぶ/北朝鮮事情に精通するジャーナリスト。主な著書に『猛牛(ファンソ)と呼ばれた男』『昭和二十五年 最後の戦死者』『朝鮮半島で迎えた敗戦』など。

※SAPIO2017年6月号