したり顔で「人による」を連発するバカ

写真拡大

■何事も「人による」のは大前提

前回、「なぜ大阪人は東京人より親しみやすいのか(http://president.jp/articles/-/21933)」というコラムを当サイトで書いた。内容としては、講演やイベントでは大阪の人が実に親切であり、感情をあらわにしてくれ、気軽に話しかけてくれる、というもので、大阪の人に対する私の感謝の念を示したものだ。

この文章はヤフーにも配信されたのだが、「そう思う」の数が多いコメント(=評価が高いコメント)の3位は、「(大阪人が一概に親しみやすいわけではなく)人による」という内容の書き込みだった。

多くの場合、コラムというものは書き手が実際に体験した出来事などをもとに、「絶対化はできないかもしれないが、私の体験した限りでは」といったスタンスで、書き手の視点や指摘が語られる。前回のコラムも同様に「大阪人は東京人より親しみやすい」という私なりの結論を述べた。細かいことを言えば、「初対面の場合」「イベントで講師をした場合」といった前置きをしておくほうが、より正確ではある。ただ、そこまでの厳密さは不要だと判断した。

今回の「人による」という反応だが、このコメントが上位にいるというのは、この分析というか感想というか、脊髄反射的な書き込みが「優れた論評である」との評価を、多くの人がしたということである。或いは共感した人が多かったのだろう。

だが、「○○による」を連発するとバカだと思われるので注意が必要だ。

「人による」のは大前提であり、私だって「全ての大阪人は全ての東京人よりも親しみやすい」なんて、まったく思っていない。「イベントに登壇し、それが終わった後に来場者と初対面で接した場合、なぜ大阪人は東京人よりも親しみやすいのか? 私が出会った約120人の、土曜の午後にイベントに足を運ぶような、それなりにアクティブな大阪人の場合」とより詳細なタイトルをつけたとしても、「場合による」「これは特殊な状況。人による」という感想は来るだろう。

■「人による」は配慮なのか、思考停止なのか

「○○による」という感想は、何も述べていないに等しい。しかも、会話を終了させる。こういった会話を想像してみよう。

【会話A】
「ウチの会社って面白い人多いよね」
「人による」
「……」

【会話B】
「ホント、○○社のクリエイティブってぶっ飛んでいて面白いよね」
「人による」
「……」

本人は冷静な論者のごとく「人による」砲をぶっ放しているのかもしれないが、この魔法の言葉を返されてしまうと、意見を言った人間は自分がバカになったような気分になる。そして、「『人による』男にはもう質問をしないぞ」と決めてしまうのだ。

意見を表明する側は、もちろん「人による」のは分かりつつも、同意か反論をしてもらいたいし、そこから何らかの新しいネタを相手から引き出したいと考えている。だから、【会話B】についての回答としては、「人による」と言いたい気持ちを抑えて「ただし、××という商品のCMはすげーつまらなかったよな」と返せば、「あぁ、確かに! あれは商品情報を詰め込み過ぎていたよな」といったやり取りに発展する。

基本的に人は、誰かに喋りかける場合「会話のキャッチボール」(死語だな)をしたいと考える。「人による」を乱発すると、いつしか声をかけてもらえない人物になってしまうだろう。「牛肉はうまい」と言うだけでも「牛による」と返されるかもしれないし、「トンコツラーメンはうまい」と言っても「店による」と返されてしまうのではないか、と警戒されるようになる。

「人による」というコメントが高評価を得るこの状況は、もしかしたら過去の経験が影響しているのかもしれない。自らの意見を明確に言い切って、それを猛烈に批判されたが故に、以後、言葉に配慮しようと考えたのか。もしくは、そもそも考えることを放棄したということなのかもしれない。

■自己防衛としての「人による」

今回「人による」とコメントを書いた人が言いたかったのは、「とんでもなく感じの悪い大阪人は数多くいるぜ。オレの職場なんてクソったればかりだ」みたいな話なのだろう。或いは、大阪に行ってぼったくりバーで大金をスッた経験があるのかもしれない。そうしたことに対する個人的な不満や憤りを、「人による」という一見「大人な対応」で述べているにすぎない。ネットの匿名書き込みなんだから、最低限のマナーを守って自由に発言すりゃいいのに。

とはいえ、「大阪でぼったくりバーに遭遇したことがあるし、その店の連中は全員感じ悪かった。大阪人は信用ならない」などと書いたら、「店による」「大阪全体を悪く言わないで欲しい」と、その人もまた反論されてしまうので、自己防衛策としての「○○による」は、ネットでは優れているのかも。あくまでもネットでは。

----------

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
誰かの意見に対して「○○による」と、したり顔で返してばかりでは、発展的、建設的なコミュニケーションなんて成立するわけがない!

----------

----------

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

----------

(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎 ネットニュース編集者/PRプランナー 中川淳一郎=文)