大統領に就任する前のトランプ氏は中国に対して非難を浴びせ続け、対決を辞さない姿勢を打ち出していた。ところがここに来て北朝鮮の核問題が深刻化するとともに、中国に協力を求める態度に変わったようにみえる。米国は今後、中国に対してどのような政策をとっていくのか――。

 私は長年、米中関係の取材・報道に取り組んできたが、その成果の1つとしてこの4月中旬にトランプ政権の対中政策に関する緊急報告の書籍『トランプは中国の膨張を許さない! 「強いアメリカ」と上手につき合う日本』(PHP研究所)を上梓した。

 本書では、「東アジアに安定をもたらす安倍・トランプ関係」「中国、北朝鮮と対決するトランプ政権」「アメリカ国民はなぜトランプを選んだか」「トランプの抵抗勢力メディア、民主党との抗戦」など、対中政策にとどまらず対日政策、国内政策、メディアとの戦いなどトランプ政権の全体像について広く論じた。

 こうした内容を踏まえて、ここでは米中関係の現状と将来について報告してみたい。トランプ氏がずっと明示してきた中国への厳しい対決姿勢はどうなったのだろうか。

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米中首脳会談に関心がなかったトランプ大統領

 結論を先に述べるならば、トランプ大統領は中国の軍事力を背景とする領土拡張には今なお強く反対する態度を保っている。現在の柔軟にみえる対中姿勢は北朝鮮の脅威を抑えるための一時的な方途にすぎない、というのが真実だと言える。

 トランプ政権の対中政策に変化が生じたように見えたのは4月上旬だった。トランプ大統領と習近平国家主席は4月6〜7日に、フロリダ州の同大統領の別邸で会談した。会談の最大の議題は北朝鮮問題だった。北朝鮮の核兵器とICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を阻むため、トランプ大統領が習主席に北朝鮮への経済制裁を徹底してほしいと強く要請したのだ。習主席はその要請に応じるかのような態度をみせた。会談は、米国と中国が急に協調路線を歩むようになったことを印象付けた。

 では、トランプ大統領がそれまで中国にぶつけてきた不満の数々はどうなったのか。中国の軍事的な膨張に断固として反対するという基本政策はどうなったのか。

 拙著の内容を踏まえて、米中首脳会談前後のトランプ政権の対中政策の微妙な変化を解説すると、次のようになる。

 トランプ大統領は日本の安倍首相ら同盟国首脳との一連の会談を済ませた後の2月後半から3月以降も、習主席との会談にはまったく関心がないようにみえた。新政権として会談を設定する動きもみられなかった。だが水面下では、中国側がトランプ政権へのアプローチを試みていた。中国政府の外交担当国務委員の楊潔篪氏や駐米大使の崔天凱氏がキッシンジャー氏のコネなどを利用し、トランプ氏の女婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問に必死で接触していた。それは、首脳会談に応じてほしいという、まさに“懇願”だった。

 すると、トランプ大統領側にも習主席に会うことの必要性が生まれてきた。北朝鮮の金正恩委員長の米国への挑戦的な宣言や、ミサイル発射実験など危険な動きが相次いできたからだ。金委員長の「米国本土にICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃ちこむ準備を着々と進めている」という挑発に、対応せざるをえなくなったのだ。

 北朝鮮の核武装やICBM開発を阻むためには、軍事攻撃も含めて多岐な手段がある。中でも当面は、北朝鮮のエネルギーや食糧の供給で死活的な権限を持つ中国に圧力をかけて、北朝鮮を動かすことがベストだとトランプ政権は判断した。そこで、トランプ大統領自身が「いまの米中両国にとって北朝鮮への対処が最大の共通課題だ」と言明し、中国に強い圧力をかけることを内外に宣言した。

強固な対中姿勢は会談でも明らか

 トランプ大統領からすれば、本来は会談を中国側に一連の抗議や非難をぶつける場にしたかったはずだ。中国側の不公正貿易慣行、為替レートの操作、対米貿易黒字の巨額の累積、南シナ海での無法な領土拡張、米国官民へのサイバー攻撃などに関する非難である。

 ところが状況が大きく変わり、中国に対北制裁の徹底強化を要請することとなった。暫定的な政策であるにせよ、中国に全面協力を迫ることが必要となったのだ。

 そうなると、他の案件での中国への抗議や非難がどうしても後退することになる。ではトランプ政権は今後、中国と協調する姿勢を取り続けるのだろうか。

 ここで間違いなく言えるのは、現在の北朝鮮に絡むアメリカの対中要請は、あくまでも緊急の措置であるということだ。トランプ政権にとって、中国を糾弾しなければならない要因は相変わらず厳存する。

 実はこの米中首脳会談でトランプ大統領の強固な対中姿勢ははっきりと示されていた。まず、会談の途中でトランプ大統領がシリアの空軍基地への爆撃の通知を習主席に事後連絡の形で伝えたことである。これは、外交の慣例からみればまったくの非礼な対応だと言える。中国が米国の軍事力行使に反対することは明白だったが、習主席はその場で反対を表明せず受け入れたような対応をとった。トランプ大統領の強圧的な攻勢にすっかり押し切られた格好だった。

 また、トランプ大統領は習近平主席を招きながらも、自分の別荘「マール・ア・ラーゴ」には宿泊させなかった。習氏の滞在先はホテルだった。この点は安倍晋三首相へのもてなしとは決定的に異なっていた。

 米中関係は、北朝鮮問題という緊急課題の登場によって、いったん脇道にそれた形となった。だがトランプ政権が中国側の無法な膨張や利己的な経済、貿易政策への本来の不満をなくしてしまったわけではない。中国の国際規範に反する行動は必ず強固な方法で抑えていくという基本姿勢は揺らいでいないのである。

トランプ氏とこれまでの大統領の違い

 習主席がフロリダでの首脳会談以降にみせた対米協調姿勢は、米中関係の長い歴史のなかで初めてと呼べるほどの軟化である。その軟化は端的に言えば、トランプ大統領が中国に対して態度を硬化させたことの結果だった。トランプ大統領の中国への姿勢は、米国の歴代大統領の対中姿勢とどこがどう異なるのか。

 私はワシントンを拠点として、ここ十数年、米中関係の流れを追ってきた。とくに米国歴代政権の対中政策の変化を注視してきた。

 1999年から2年間は産経新聞の初代中国総局長として北京に駐在した。そして北京からワシントンに戻ってからは、米国側から米中関係を取材した。私がワシントンで見てきたジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマの両政権の対中政策は、それなりに違いはあったものの、共通項も多かった。つまり、中国と対立したり衝突する領域を十二分に意識しながらも、協調や関与を重視するという点が共通していた。

 とくにオバマ大統領は、中国に対してきわめてソフトな協調姿勢を保った。対立点を軽視する態度だったと言ってもよい。中国側は、表面的にはそれに応じて「新型大国関係」や「平和的な発展」「互恵の戦略関係」といった標語を掲げ、米国への協調の意図を示す態度をとった。

 だが現実には、中国は衣の下に鎧を隠していた。かつてない規模で軍事力の増強を続け、南シナ海や東シナ海での支配圏、影響圏の拡大を進めた。米国の政府機関や民間大企業などへのサイバー攻撃も行い、国際社会の規範に挑戦するかのように国民の人権や自由も侵害する。中国は今や、米国の主導で築かれた戦後の国際秩序を突き崩し、中国の主導による新たな国際秩序を構築しようという野望を露わにしている。

 そのような中国に対して、トランプ大統領はオバマ政権とはまったく異なる強固な姿勢をとることを宣言していた。そして、その姿勢は今も続いている。中国の軍事力を武器とする膨張は断固として許さないという基本姿勢は、決して変わっていないのである。

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筆者:古森 義久