まずは、謝罪(言い訳)から。

 開幕前の順位予想で、筆者はサンフレッチェ広島を1位に推した。ACLがないことでコンディションを保てること、成熟したメンバーによる安定した守備組織を備えていること、そして適材適所の新戦力を補えたことが大まかな理由だったが(本当は感情論も含まれるが)、まさかこのような展開になるとは思いもよらなかった。自分の目利きの不確かさを恥じるとともに、過去5年で3度の優勝を誇るチームがわずかの期間で転落してしまう――そんなサッカーというスポーツの恐ろしさを、身をもって感じている次第である。


広島の元同僚と試合後に握手をかわすFC東京の郄萩洋次郎(背番号8) 開幕から8試合を終えて、広島は1勝2分5敗で16位に沈んでいた。まだ序盤戦とはいえ、「優勝」どころか「降格」の二文字がちらつく事態に陥っているのだ。それでも、自らの先見性をいまだ信じる筆者は、広島のサッカーから光明を見出すため、4月30日の第9節・FC東京戦を取材すべく味の素スタジアムに赴いた。

 しかし、結果は0-1の敗戦。内容の伴わない、敗れるべくして敗れた試合を目の当たりにし、もはや予想なんてするまいと、心から誓ったのであった。

 点が獲れない、守り切れない……。広島の現状を表すなら、こういうことになる。

 ちょっと前の強かったころの広島の戦いは、最終ラインからしっかりとつなぎ、相手に揺さぶりをかけながらバイタルエリアでの連動やサイドを巧みに突いて、面白いようにゴールを量産してきた。

 勝ちパターンは「先行逃げ切り」。前半は0-0で進め、後半にギアを上げて先制点を奪い取り、追いつこうと前がかりとなった相手の裏を鋭く突いて、カウンターから2点、3点を上乗せし、勝利を積み重ねていったのだ。

 その先行逃げ切りの戦いのベースにあるのは、有機的なパス回しと、崩れることのない堅守だった。しかし「点が獲れない、守り切れない」今季の戦いでは、それを実現するのは不可能だ。

 守り切れない守備に関しては、改善の余地はある。今季の広島は9試合で12失点を喫しているが、そのうち8失点がPKを含むセットプレーによるもの。FC東京戦でも、粘り強く守りながらもコーナーキックからの一撃に泣いた。もちろん、セットプレーの対応の甘さを指摘せざるを得ないが、決して崩されているわけではなく、守備の安定性はまだ保たれている。

 課題はやはり、点が獲れないことに尽きる。9試合で6得点。5度の完封負けという貧打では、勝てないのも当然だ。

 今季の広島は、昨季得点王のFWピーター・ウタカ(→FC東京)とFW佐藤寿人(→名古屋グランパス)が移籍した一方で、前線にはMLSでプレーしていたFW工藤壮人と、テクニカルなブラジル人アタッカーMFフェリペ・シウバを補強。ここにMF柴崎晃誠(あるいはFWアンデルソン・ロペス)を含めた1トップ2シャドーが攻撃の軸となるはずだった。

 工藤は3得点と及第点の結果を出しているものの、まだまだその能力を生かし切れているとは言いがたく、10番を託されたフェリペ・シウバはまるでフィットしていないのが現状。3枚のうち2枚が新戦力であることが影響し、前線が機能不全に陥っているのだ。

 FC東京戦ではフェリペ・シウバがスタメン落ちし、1トップに工藤、2シャドーに柴崎とアンデルソン・ロペスが入ったが、お互いの距離感が悪く、3人による連係はまるで見られなかった。

 気になったのは、ビルドアップのぎこちなさだ。FC東京のプレッシャーはさほど強くなかったが、後方でのパス回しにスムーズさが欠けていた。

 いいときの広島は、ゆったりと回しながらも隙を見つけるや一気にテンポアップし、鋭いくさびやダイレクトパス、あるいは大きなサイドチェンジを駆使して相手の最終ラインを攻略していたものである。しかし、この日の広島はFC東京がブロックを作っていたこともあるが、なかなかギアが上がらず、チャンスのほとんどは左サイドのMF柏好文の単独突破から生まれるだけだった。

 DF千葉和彦は最終ラインから持ち上がり、鋭いくさびでスイッチを入れるプレーに定評のあるセンターバックだ。しかし、この試合ではそうしたプレーはほとんど見られなかった。

「出さないというか、相手にけっこう読まれていますしね。前半は0-0で行きたい気持ちもあったので、無理をしない部分もありました。くさびは意識してないことはないですけど、こうなったらこうというような、ポンポンとダイレクトでつなぐというプレーは前よりも少ないと思います」(千葉)

 それは前の選手が入れ代わった影響? そう向けると千葉は「選手が代わっても、つなげることはつなげると思います」とこれを否定したが、「確かにパス回しがスムーズじゃないですね。リズムがいいときの感じではないです」と、違和感を口にしている。

 MF青山敏弘は正確なロングフィードが武器のボランチだ。しかし、この司令塔もその持ち味をほとんど発揮する場面がなかった。

「サイドチェンジとか裏へのフィードとか、確かに今は少ないですよね。まあ、個人としての課題ではありますし、チームとしての課題でもあると思います」と、現状に対する問題点を指摘した。

 これは推測の域を出ないが、出し手側とすれば出しどころがない、ということなのだろう。前線の動き出しによって生まれていたスペースが、今は存在しない。パス回しにリズムが生まれないのも、それが原因ではなかったか。

 強かったころの広島と今の広島を比較するうえで、うってつけの人材がFC東京にいた。2014年まで広島に所属していた郄萩洋次郎である。かつての司令塔は対戦相手として感じた広島の現状を、次のように語っている。

「まあ、ひとつだけ言えるとしたら、ボールをつなぐところで単純なミスが多いかな、という気がしました。連動性とか、僕がやっていたときはもうちょっと楽しんでいたと思う」

 楽しんでいた――。郄萩のその言葉を聞いたとき、広島のサッカーを見ながら感じていた違和感の正体がわかった気がした。

 そう、強かったころの広島は常に能動的にボールを動かしながら、「さあ、どうやって崩していきましょうか」という野心と余裕があった。しかし、この日の広島は失点を恐れるあまりか、ゴールを奪うためのチャレンジに欠けていた。そこにサッカーを楽しもうという姿勢は感じられず、無難なプレーに終始していたのだ。

 もちろん、結果を出せていないチームに対し、楽しめというのは酷だろう。それでも、本来持っていたはずの遊び心が、今の広島には欠けている気がしてならない。その姿勢が蘇れば、おそらく追い風は吹くはずだ。それを信じて、順位予想はこのままにしておきたい。

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