杜斌氏は『長春飢餓戦争』を「真実を知りたいと願う読者のために書いた」「一番大切なことは、餓死した人々を代弁すること、そして、このような惨劇を二度と起こしてはならないということだ」と語っている(スクリーンショット)

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 国民党と中国共産党の内戦下にあった中国で、共産党軍が30万人以上の長春市民を餓死させた「長春包囲戦」が起きてから今年で70年。中国のジャーナリストで作家の杜斌氏がこのほど、10年の歳月をかけて完成させた『長春飢餓戦争(长春饿殍战)』を上梓した。

中国共産党軍の兵糧攻めによる死者は数十万規模

 「長春包囲戦」とは、1947年11月4日から48年10月19日の約1年間にわたり、林彪率いる中国共産党軍が、国民党軍によって守られていた長春を包囲し、物資人員の出入りを封鎖する兵糧攻めを行って、少なくとも十万人以上の餓死者を出した包囲作戦。この作戦は毛沢東らの同意を得たうえで行われた。

 台湾の官営通信社・中央社が報じたところによると、集められた人口統計資料に基づき、杜氏が350日間の包囲作戦における死亡者数を3つの方法で算出したところ、その数は37万から46万人にのぼると推定された。

 

「長春包囲戦」は人道に反する蛮行

 杜斌氏は09年に台湾人女性作家・龍應台氏の『大江大海(白水社『台湾海峡一九四九』天野健太郎訳)』で長春包囲戦を知ったとき、大きな衝撃を受けたという。史実を紐解き、人間によって故意に引き起こされたこの惨劇の責任の所在を明らかにする必要を感じたと語っている。

 杜斌氏は、国民党軍を屈服させるために共産党軍が大規模な飢餓状態を作り出したことを、反人道的で野蛮な行為だと強く非難している。また共産党軍が、長春から緩衝地帯(「卡子」(チャーズ))に出ていた難民を解放せず、そのまま餓死させたことについても責任を取るべきだと主張している。

 だが、国民党軍もまた市民を見殺しにしていた。共産党軍の封鎖より、城外の緩衝地帯に入ってもどこへも逃げられずそこにはすでに大量の餓死者が出ていることを市民に一切知らせず、食糧難にあえぐ長春市内の人口を減らすため、市民を緩衝地帯に分散させていたからだ。そして、空中投下された食料物資は国民党軍が独占し、一般市民には配給しなかった。

 杜氏は、このときの惨劇は今でも長春市民の心に深い影を落としていると指摘している。かつて「卡子」があり、多くの餓死者を出した地域の不動産価格は、今日でも他の地域より低いという。歴史を知る一部の人たちは、やはりやりきれないものを感じているのだろう。

 『長春飢餓戦争』は、時間順に毎日起きたことを記録する形式で記されている。小説として執筆したほうが読者受けがするとアドバイスした人もいたそうだが、杜氏は、実際にたくさんの人が命を落とした歴史的事件に対しては、厳粛な気持ちで臨むべきで、小説風に記すべきではないと感じたという。

 

 真実には人を動かすだけの力があるため、筆者が個人の主観を付け加える必要はなく、読者の判断を信頼すればよいのだと杜氏はいい、執筆の目的を「真実を知りたいと願う読者のために書いた」「一番大切なことは、餓死した人々を代弁すること、そして、このような惨劇を二度と起こしてはならないということだ」と語っている。

 杜氏は、長春包囲戦に関する情報や資料は中国当局が厳しく統制しているため、当時の戦略のかなめとなるような方策についてはどうしても入手できなかったことが悔やまれるというが、その一方で、自分にできることはすべてやりつくしたとも語っている。この本は、これまで長春包囲戦について公開された資料の大全集であると自負しているという。

 杜斌氏略歴:中国のフリージャーナリスト、作家。1972年3月1日山東省郯城県生まれ。ニューヨークタイムズ契約カメラマンとして活躍していた。独立中文ペンクラブの「林昭記念賞」を受賞。『天安門虐殺(天安門大虐殺)』、馬三家女子強制労働収容所の実態を記した『牙刷(歯ブラシ)』や『阴道昏迷 马三家女子劳教所的酷刑幸存者证词(膣喪心 馬三家女子労教所の虐待からの生還者による証言)』、『马三家咆哮(馬三家の咆哮)』、『天安门屠杀(天安門大虐殺)』、『上访者(陳情者)』、『冤鬼(冤罪で死んだ人の亡霊)』などを執筆しているほか、ドキュメンタリー映画『小鬼頭上的女人(獄卒の頭上の女性)』でも、馬三家労教所の実態を暴いた。13年5月31日、中国当局から不当に拘束され、37日間にわたり拘留されるという過酷な獄中体験をへたものの、人道精神を追求し、真実を模索し続ける真摯な姿勢に変わりはなく、このたび中国当局にとって「敏感な事件」である長春包囲戦を題材に取り上げた。

(翻訳編集・島津彰浩)