“のん”のLINEモバイルCM曲「エイリアンズ」に、なぜ心を掴まれるのか

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 3月の放送開始以来、好評を博しているLINEモバイルのCM。先月8日からは雑踏で振り返る第2弾が公開され、またまた「のん」の存在感が際立っています。

⇒【YouTube】はコチラ 【公式】LINEモバイル: TVCM 〜 愛と革新。(交差点)篇 〜 https://youtu.be/R_t-jAUHphA

 話題を呼んでいるのは彼女だけではありません。引き続き音楽で重要な役割を担っているキリンジの「エイリアンズ」も、じわじわと注目を集めているようです。もともと音楽好きの間では実力派として知られていましたが、初めてその存在を知った人も多いのでは?

⇒【YouTube】はコチラ キリンジ - エイリアンズ https://youtu.be/w05Q_aZKkFw

◆杏、星野源、ハナレグミ…にもカバーされた「エイリアンズ」

 改めて簡単にキリンジのご紹介を。堀込高樹と泰行の兄弟で結成され、97年にインディーズデビューをした後、98年アルバム『ペイパードライヴァーズミュージック』でメジャーデビューを果たしました。何度目かの“シティポップ”ブームの中心的グループで、いまブレイクしているSuchmosやceroなどの先駆けといったところでしょうか。

 13年に弟の泰行が脱退したため、現在は兄の高樹が「キリンジ」名義でバンド活動をしているそうです。

 さて、このCMをきっかけに「エイリアンズ」を検索して驚いた人もいるかと思いますが、多くのミュージシャンからカバーされているのです。モデルで女優の杏や、「ひまわりの約束」が大ヒットした秦基博。さらにオリジナルラブの田島貴男に、笑福亭鶴瓶も好きなハナレグミ。最近ではラジオ番組で星野源もカラオケで歌ったそうですね。

 いずれにせよ、強く人を惹きつける楽曲のようです。

 「エイリアンズ」のリリースは17年前。ですが何十万枚と大ヒットしたわけでもなく、“知る人ぞ知る名曲”という扱いでした。なのに、こうしてCMのわずか数十秒だけでふつうの視聴者もとりこにしてしまうのですから、彼らの実力は相当なはず。というわけで、「エイリアンズ」以外にもいくつかご紹介していきましょう。

◆「双子座グラフィティ」、ポップス好きのハートをくすぐる

 まずはデビューアルバムからのシングルカット「双子座グラフィティ」。パッと聞いて誰かの声に似ているなと思いませんか? そう、小田和正ですよね。当時も音楽雑誌で、オフコースを引き合いに出されていたのを覚えています。

⇒【YouTube】はコチラ キリンジ - 双子座グラフィティ https://youtu.be/0-996MGdBM4

 そして歌い出しのコード進行が、いかにもポップスマニアのハートをくすぐるのですね。

 特に、<あぁ 君は>の“は”で使われる、マイナーセブンフラットファイブというコード。これが、“あぁ、ポップスですわ”と気分を盛り上げてくれる。たとえば、ELOの「Moment in Paradise」とか、コリーヌ・ベイリー・レイの「Put Your Records On」などでも使われていて、ストレートなルートからちょっと寄り道する具合で、あいまいに響く和音なのですね。

 とはいえ、そんなものは彼らにとっては枝葉も枝葉。どれだけコードをいっぱい使おうが、ハーモニーが実に自然で、メロディと言葉の組み合わせに“いかにも頑張りました”といった工夫の痕跡を残さないから素晴らしい。

 野球の名選手が猛練習を見せびらかさないのと一緒で、キリンジの曲にも“たったいま鼻歌で作りましたけど”みたいな風情を感じるわけです。(もちろん、そんなことは絶対にないのですが)

◆「Drifter」、さりげない機能美

「Drifter」を聴くと、ランディ・ニューマンが「時の流れに」(ポール・サイモンの代表曲)について語った言葉を思い出します。

<「時の流れに」を聴いてごらんよ。あっちこっちに曲が飛び交っている。あれだけのものを作るには、相当のスタミナとタフさが必要になる。ハンパじゃなく、相当に。>
 (『インスピレーション』 著 ポール・ゾロ 訳 丸山京子 アミューズブックス p.353)

⇒【YouTube】はコチラ キリンジ - Drifter https://youtu.be/LHF_mFLeEJc

 この曲のMVを見ると、アコースティックギターを弾く高樹の左手がコードチェンジに追われているのが分かります。その一方で、曲は全く慌ただしくないのです。歌詞カードを見なくても、何を歌っているかよく分かる。ファンの間では詞の解釈を楽しむ人たちが多いようですが、筆者がより強く感じるのは、語句の持つ音が曲中で無理なく響く機能美です。

「エイリアンズ」には、こうしたエッセンスがより濃縮されて詰まっているのだと思います。しかも、表現の方法がとことんさりげない。ご紹介した「双子座グラフィティ」や「Drifter」が足し算だとすれば、「エイリアンズ」の豊かさは引き算によって導き出されている。

 時を経てもなお新鮮なゆえんかもしれません。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>