文学研究者としての西村賢太

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西村賢太といえば、若きころの、自身のうらぶれた生活を描いた「苦役列車」で芥川賞を受賞した小説家として知られています。恋人へのDVや酒に酔っての暴言や暴行などの破天荒な暮らしをそのまま私小説(わたくししょうせつ)として描く作風が知られています。その時に発せられるきっぷの良い江戸っ子の罵倒語や、感情をおさえられない姿などを、面白おかしく読む読者も多いでしょう。

静かな作品

しかし「芝公園六角堂跡」にはそうした、読みごたえのようなものは見られません。冒頭の表題作は、大ファンを公言する稲垣潤一のコンサートに招かれたあと、会場のそばにあった没後弟子を名乗る作家藤澤清造が凍死した場所を訪れ、これまでの作家生活をふりかえる静かな作品です。そこで、ミュージシャンに対し、少し気を使ったような記述をしてしまったことから、延々と悩み続ける作品がこのあとに続きます。

古本ファンとしての西村賢太

それと同時に、藤澤清造の書簡が古本市場に出ると、確実に入手すべく、高額の値付けをするさまなどが描かれています。そこにあるものは作家に対する敬愛はもちろんのこと、資料はすべて手元にそろえておこうとする文学研究者としての西村賢太の姿が浮かび上がってくるかもしれません。藤澤清造の前に愛読していた田中英光に関する記述も出てきます。西村賢太の本質を知ることのできる作品集となっています。