「老人があふれ、成長なき衰退一途の日本から海外に脱出せよ!」――。

 移住の成功例やメリットを紹介した海外脱出関連の出版物や、最近では、タレントのGACKTがマレーシアでの金満な移住生活をメディアで暴露するなど、海外移住がいつになく脚光を浴びている。

 そんな人気を反映するかのように、外務省発表の「海外在留邦人数調査統計」(2015年末現在)では、在留邦人の約4割の約46万人(前年比約2万600人増、同約5%増)が海外「永住者」という。

 さらに、過去5年間で、諸外国での永住者数は「約15%増」と、日本人の海外脱出は”活況 ”のようだ。

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日本人に大人気のニュージーランド移住

 日本人永住者の中でも、ニュージーランドは、米国をトップとしてランクインする上位10位中、前年比で最高の約10%増を記録。アジアで人気のシンガポール(約2400人、前年比約7%増)やマレーシア(約1500人、同約5%増)をはるかに超える「約9700人」を数え、知る人ぞ知る「日本人の大人気永住先」である。

 しかし、ここ最近、異変が起きている。

 米国人の米国離れが加速化し、米国人のニュージーランドへの移住が急増。英語を母国語とし、資金力も潤沢な米国人富裕層の流入で、不動産や家賃の高騰、さらに日本人など非英語圏移住希望者や現地の同出身者に対する雇用環境が厳しくなるとの予測から、移住先を他国に変更したり、日本へ帰国する動きが出てきている。

 ニュージーランド内務省によると、米国のトランプ政権誕生後のここ100日間の米国人のニュージーランドでの市民権申請数が、前年同期比の約70%増と記録的な拡大となっている。

 さらに就労ビザ申請も約20%増で、ニュージーランド政府の移民関連公式サイトは、米大統領選後、米国からのアクセスが約10倍増の4000件を超える記録だという。

 もともとニュージーランドは英語圏からの移住先で大人気の国。最も知られる移住者は、世界最大のヘッジファンドとされた「タイガー・マネージメント」創業者、米国人の投資家、ジュリアン・ロバートソン氏だが、2016年に米国人が購入した不動産案件では、ニュージーランドがオーストラリアに次いで多かった。

 それではなぜ、外国人はニュージーランドへの移住を目指すのか?

 それは永住権など各種ビザが他国より取りやすく、特に隣国のオーストラリアでの移住を目指す場合は、それより先にニュージーランドで取得する傾向にある。

 オーストラリアは経済も堅調で、人口も多く、給与もニュージーランドよりはるかに高く、物価はニュージーランドより安いが、永住権どころか数年の労働ビザ取得もかなり困難だ。

 しかし、ニュージーランドの市民権を持っていればオーストラリアでも居住、労働可能なため、「急がば回れ」、ニュージーランド移住はオーストラリア移住への「登竜門 」になっている。

 さらに、ニュージーランドは、オーストラリア、英国、カナダなどと違い、一度、永住権を取得すると更新は一切不要で、居住の滞在日数要件もない。

原発がなく、贈与税・相続税もない

 取得後、長年ニュージーランドを離れていても、永住権が失効しないことから、世界でも有数の「永遠の永住権国家」として移住先の人気国だ。

 また、原発がない豊かな自然が売りで、贈与税や相続税課税もなく、「租税回避」の楽園として英国や米国、さらには日本、中国などからの富裕層に注目され始めている。

 隣国のオーストラリアへの移民の半数はニュージーランド人だが、そのニュージーランド人の7人に1人が外国出身者と言われるゆえんだ。

 日本人の中にも、そのため、ニュージーランドを「トランジット(中継地点)移住」の移住先として目指す人が多いが、ここに来て新たな障壁が浮上している。

 ニュージーランド政府は、4月19日、移民法の改正を発表し、永住権取得の資格条件の大幅変更を決定(8月14日施行)。これにより、外国人の永住権取得は、厳格化されることとなり、永住権を見込む日本人の多くが大きなショックを受けている。

 今回、資格変更される永住権の1つが、日本人が多く取得している技能移民部門「Skilled Migrant Category」。

 今後、技能・技術職の場合、年収約4万9000NZドル以下(時給換算23.5NZドル。1NZドル=約80円)であれば、永住権申請ができなくなるというもの。

 同政府などによると、技能職で現在、永住権申請者のうち、年収4万9000NZドル以上の人は43%ほどで、永住権の門戸が今後、かなり狭まることが予想される。

 さらに、同技術職においては、今回の改正前にも昨年末、「永住権ポイントの最低ラインが140から160」に上げられ、英国圏で採用の「英語能力テスト(IELTS)で6.5ポイント、あるいはこれに相当の英語力の証明」が初めて義務付けられた。

 「年収4万9000ドル、英語能力の6.5」とは一体、どのくらいのレベルなのか。

日本人には厳しくなった移民条件

 ニュージーランドの最低時給は「15.75NZドル」で、もし1年間、労働時間8時間(週休2日制)で働いた場合、年収は約3万3000NZドル。英語能力の6.5とは、「英検準一級以上、TOEIC800点以上」と言われている。なかなか、厳しい条件設定だ。

 さらに、日本人の場合、ワークビザで働いている若者で、和食レストランなどで最低賃金で就労している人も多く、そうでない日本人でも今後、永住権取得には「時給23.5NZドル以上」でないと資格も得られなくなる。

 永住を目指すには、専門職に限定されてしまうという厳しい現実が目の前に立ちはだかり始めている。

 また、技能職以外の永住権で、家族を呼び寄せる家族ビザ「Family Category」でも大幅な改正を発表。受け入れ体制を、現行の年間約6000人から、3分の1の2000人までに激減させることを決定。

 前回の「好調経済の裏でニュージーランドを蝕む"中国病"」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49725でお伝えしたばかりだが、中国人の移民者が高齢者の両親を呼び寄せている現状の中、 今後、市民権や永住者の両親に発給されているビザも一時、発給休止となることが同時に盛り込まれた。

 ニュージーランドの人口は約460万人。毎年5万人の移民を受けいれている世界でも有数の移民国家で、移民の数は減らしたくないが、永住権となると、むやみやたらに増やしたくないのが実情だ。

 特に、2006年以降、前述のように急増する技能職の中国人が呼び寄せる高齢者の親の増加で、社会保障が将来的に破綻するのでは、との危惧があるほどだ。今年3月には、ビル・イングリッシュ首相がこれまでの65歳の年金受給年齢を将来的に67歳に引き上げる歴史的な社会保障の方針転換を示したのも、そうした苦しいお家事情を反映している。

 国策であるがゆえに移民担当大臣までいるニュージーランドでは「今回の改正は、小規模なもの。今後、このまま据え置きはしないだろう」(マイケル・ウッドハウス移民担当大臣)と今回の改正は「2年間の有効期限付」で、将来的に条件が再び緩和するか、どうかは明言していない。

 今回、永住資格の条件を厳正化したけれど、ニュージーランドの永住権審査はもともと"生ぬるい"。厳正といっても、厳正になっていない。他の国で滞在許可が下りなかったが、ニュージーランドで下りた、という欧州やアジア系の移民にもよく出会った。

 ビザや永住権が変更になるのは諸外国でもあることだが、ニュージーランドほど、コロコロ、変わる国も少ない。

地価高騰でマイホームを持てない人が増加

 移民国家は、常に国策によって左右される。ニュージーランドも最たるもので、総選挙の年は、規制が厳しくなる。一方、選挙さえ終われば、再び、規制が緩くなるという次第だ。

 ご他聞にもれず、今年は選挙年。9月23日の総選挙日まで半年を切った中、目下の選挙戦の争点の1つが、拡大する移民対策。このまま増加すると2019年には人口が500万人に達する。

 前回のコラム記事http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49725でも指摘したように、すでに中国人などの投機に絡み不動産が高騰し、オセアニア最大都市・シドニーの平均住宅価格を超え、ニュージーランド人が自国でマイホームを持てない、異常事態に陥っている。

 物価上昇を目的に金利を記録的に低水準に引き下げた一方で、住宅価格の高騰を招き、金融不安への懸念も拡大している。

 5年ほど前までは1NZドルが60円台だったのが、今では80円までに上がり、物価高はオーストラリアを超えた上、交通渋滞の深刻化、また、永住権を取得した中国人移民のうち、50歳以上の熟年が増加し、その多くが両親を呼び寄せ、外国人移民の高齢化の波が押し寄せている。

 ニュージーランドでは、10年間居住すれば、65歳から満額年金を受理することが可能で、ニュージーランド生まれの国民と同じ待遇だ。

 高齢者移民急増は、年金支出の拡大要因で、国民から懸念や批判が続出している。こういった状況から、今までとは違い、外国人の永住権取得は今後、さらに難しくなるだろうということだ。

 一方、今回の移民法改正で、新たに年収7万3000NZドル以上(時給35NZドル以上)の外国人に永住権を申請する資格を初めて与えることにし、富裕層優遇政策は進める。

 もともと、ニュージーランドはタックスヘイブン(租税回避地)に関する内部文書「パナマ文書」で、中南米富裕層の課税逃れの有力拠点として利用されていたことが明らかになっており、OECD(経済協力開発機構)の文書でも、明記されている。

 実際、ニュージーランドは相続税や贈与税だけでなく、外国信託も非課税であることから、同国がオフショア信託事業に有利なシステムを提供していると指摘されてきた。

 日本では、ベネッセホールディングスの創業家2代目、福武總一郎氏(同社名誉顧問)が2008年末、保有する自社の株式を、同氏が代表に就任するニュージーランドの資産管理会社に譲渡。その後、總一郎氏一家は自らの住所を岡山市→ニュージーランドへと変更、移住している。

「永遠の永住権国家」に黄信号灯る

 しかし、今後、ニュージーランドが「永遠の永住権国家」であるかの保障はない。

 実際、オーストラリアでは、国籍と永住権では社会保障や選挙権などで「同等」に扱われない。旅券を見せれば、無期限で滞在が可能だったニュージーランド人が、税金未払いで、失業手当や生活保護を受けていたことで厳格化された。

 ニュージーランドなど英国連邦、さらに欧州、北米の国では、多重国籍を認めているが、日本は多重国籍を認めていない。

 ニュージーランドでは高齢者負担が増えることが予想され、前述のように、年金支給年齢も延長する方針だ。そうなれば、外国人、特に高齢者の締め出しを強化するだろう。

 当然、こういった動きは将来的な話だが、物価や住宅価格が日本をはるかに超えた今、さらに、「高齢になって英語が話せなくなった」「痴呆になれば日本語はともかく当然、英語は忘れてしまう」、多くの不安を抱え、日本に帰国する日本人も増えている。

 手放しで海外礼賛をするわけではないが、海外にすべての人が適しているわけでもない。また、日本だけが住む場所でもないが、世界の中ではまだまだ安全で“心豊か”で美しい国は日本である。

 ニュージーランドを含め海外移住を考える人には、「世界が憧れる母国・日本」を脱出した先には、厳しい現実が待ち構えていることを理解してもらえれば幸いだ――。

筆者:末永 恵