次々と技術革新の波が押し寄せる昨今、IT業界の人材不足が叫ばれており、イノベーティブな開発を目指す企業の場合、人材採用の重要度は非常に高いものとなっている。

しかし、採用実績が少ない技術系ベンチャー企業では、どのような採用をすればよいのか最適な手段が分からず、欲しているスキルを有する人材が見つからないということも多いようだ。東京・秋葉原にあるDMM.make AKIBA。ここにはさまざまなIoTハードウェアスタートアップが集い、イノベーティブな製品を世に送り出すため研究開発を進めている。

今回、研究者・技術者向けの技術情報データベース運営すると共に、技術系ベンチャー企業に特化した人材採用支援を行っているアスタミューゼが、DMM.make AKIBA会員を対象に行っている相談会イベント「技術系ベンチャー人材採用」にお邪魔して、技術系ベンチャー企業側が抱える採用課題とその解決策について話を伺った。

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妥協も大事? 人材採用で起こるリスク

「基本的に、募集条件に完全に当てはまる理想の人はいないって思って頂きたいです」
そう語るのは、アスタミューゼ株式会社 ベンチャー人材紹介チームリーダー 神宮司 茂氏(以下、神宮司氏)だ。

「これは、企業と求職者のどちらにも言えることなのですが、一番求めている部分を軸として、年齢や年収、スキルなど、細かいレイヤーに分けて最終的に妥協できるところは考えておくべきです」

理想の人材にこだわり過ぎて、研究開発が遅れてしまう可能性はもちろん、今いる社員の負担が大きくなったせいで離職を招き、さらなる人材不足に陥るなど、企業は採用に時間をかければかけるほど、さまざまなリスクが生じてくる。

もちろん初めから妥協をする必要があるわけではない。しかし、“この期間までは妥協しない”“ここから先の期間はこの条件を妥協する”というように、タイミングを見計らった上で妥協することが、結果的に企業成長につながっていくのだ。

「あともうひとつ、しっかりと認識してほしいのは、採用する上で社員の人生を預かるリスクについてです。求めていた人材と違うからといって、簡単に辞めさせることができず、互いに苦しむ場合があります。また、離職後の社員から、どこかの採用サイトに悪質な書き込みをされることもありえますよね。その書き込みの影響によって、新たな人材が見つからなくなってしまい、苦しんでいるという企業様もいらっしゃいますよ」

企業に対する悪評は、SNSなどによってすぐに拡散されてしまうため、下手をすると上場する際の申請が通らなかったり、株価に影響が出たりと企業成長の大きな妨げになることもあるのだという。

 

求人するとき、本当に見せるべき企業の魅力とは何か

売り手市場となっているIT人材だが、求職者は事業内容や福利厚生といった以外に、企業のどこに注目しているのだろうか。

「応募する手前の話でいえば、売上高や進行中のプロジェクトなど、中長期的な展望を見て検討されますよね。また、そのような情報以外に求職者に向けて企業が見せていくべきなのは働いている社員のプロフィールです。転職してきた人がいればなおのこといいですね。その人はどういうマインドで転職してきたのか、どういった経歴をもった人なのかが分かると、求職者側でも自分ごと化しやすいんです。会社のビジョンよりも以外とそちらの方が気になるところではないでしょうか。中の人の姿が見えたほうが、企業の魅力も伝わりやすいんですよ」

こだわり過ぎはNG? ベンチャーの報酬問題

企業と求職者、お互いが条件を探り合う中で大きな要素となる給与について話を聞いてみると、報酬設定は企業によってさまざまだという。

「とはいえベンチャーの場合、求職者の方が報酬の条件にこだわり過ぎると、うまくいかない傾向がありますよね。ですが求職者の方も生活がありますし、折り合いがつかなければ互いに無駄な時間を過ごすことになってしまいます。そこはしっかり交渉することが我々エージェントの役割だと思っています」

急成長中の技術系ベンチャーが求める人材

取材中、相談会に参加していたDmet Products CEO 楠 太吾氏(以下、楠氏)にも、話を伺うことができた。Dmet Productsは、体の動きで音を奏でるモーション楽器デバイス「BeatMoovz」の開発、販売を行っている技術系べンチャー企業だ。まだ世の中にないプロダクトを生み出したいと会社を立ち上げた楠氏は、自身のダンス経験をもとに製品のアイデアを思いついたのだそう。

「BeatMoovz」は、BBCやウェブニュースなど、海外のメディアで取り上げられており、日本での発売を待たずにアメリカ、カナダ、オーストラリアなど世界15カ国の順次販売を控えている(『SoundMoovz』の名前でリリース予定)。

現在は、5人のメンバーが1人何役もこなしながら全ての業務を担っているDmet Productsだが、開発が進むにつれ人材の必要性を実感していると楠氏は話す。

「このデバイスが世界中で広がれば、アプリ上のサーバーに関する高いスキルをもったエンジニアリングが必須ですし、量産に向けて知見のある人材も必要です。大きな展開をしていく上でこの先どんな落とし穴があるかわかりませんし、しくじれないという部分もあるため、スキルがある人を求めています」

右:Dmet Products CEO 楠太吾氏 左:チーフ ソフトウェア エンジニア 佐合秀昭氏


事業拡大に向け、意欲とスキルを持っている人であれば基本的にノーボーダーだという楠氏。こういった採用条件は技術系ベンチャー企業の場合よく見られる傾向だ。あらためて、神宮司氏にベンチャーと大手の採用条件の違いについて詳しく聞いてみたところ、年齢の他に、職務経歴についての見方も違うという。

ベンチャーは職務履歴を気にしないって本当?

「大手だと3社以上の経験がある方は、書類審査で落としてしまうなんてところも未だにありますが、ベンチャーの場合、職務経歴の数はあまり気にされていないですね。それよりも、これまでどういった業務に携わり、どんなアウトプットをしてきたのかを重視されています。日本は転職することを良しとしない風潮がありましたけど、その価値観も変わってきています」

また、転職に関する価値観の変化と同じく、何をもって“安定”というのかも、その定義は大きく変化しつつあるという。

「有名大手企業ですら1年後、2年後、どうなっているのか正直よくわからないという今の時代において、大手にいるから大丈夫ってことはありません。いざ、会社が立ち行かなくなって外に放り出された時、個人の能力が高ければ他の企業を渡り歩く選択肢がすぐに取れんです。ですが、ひとつの会社に長年勤めている人の場合、他の企業で活躍できるのか本人も分からないし、採用側の企業もわからないので双方のリスクが大きくなります」

転職の回数が多いほうがいいというわけではないが、ひとつの会社に居続けることが安定ではなく、外の会社での経験があることは、個人のキャリアから見れば将来的な安定につながっていくと言えるだろう。

ダイレクトリクルーティングの成功率は10%だけ

「ベンチャーの場合、求人しているのに、その声が求職者に届かず苦しんでいることが多いんです」

あらゆる企業がスキルを持つ人材を求めている中で、 “小さいけど尖ったことやっています”というベンチャーと、“大企業で安定感がある”という二者択一の場合、当然のごとく、多くの人は安定を求めて大手を選ぶのではないだろうか。また、求人広告を出した場合でも、そのほとんどは膨大な広告量の中に埋もれがちとなる。

求人広告で満足いく結果が得られない場合、ダイレクトリクルーティングという手段もあるが、それですら知名度の低いベンチャーの多くにとっては候補者に対して興味を惹かせることができず、必ずしも有効な手段ではないと神宮司氏は言う。

ダイレクトリクルーティングの場合、企業側が人材データバンクから、自社が求めている人材をピックアップして直接スカウトできるものの、大手と違って知名度が低い技術系ベンチャーの場合、事業の理解度が低いため候補者から興味を持ってもらえないということもある。優秀な人材にとって、福利厚生はさることながら事業内容の魅力も企業を選ぶ際の大きな要素となるのだ。

実際のところ、ダイレクトリクルーティングで、求める人材を見つけられている企業は、10%程度ではないかという神宮司氏。以前担当した案件での出来事を教えてくれた。

「企業からダイレクトリクルーティングされた方は、その企業の事業内容がイマイチわからなくて応募しなかったそうです。そこで我々が間に入り、事業内容の詳細や強みについて、今回はこういう募集背景で、こういうところが弱いから人を募集しているんですけどどうですか? という話をして、“だったら受けます”と言っていただいたことがありました」

企業が個人に直接的なアプローチをするのではなく、あえてエージェントを間に置くことによって、求職者の気持ちが動くこともあるということだ。

取材の最後、神宮司氏は「さまざまな課題があるものの、エージェントの立場としてアスタミューゼでは、両者のバランスをしっかりと調整しつつ、双方が納得した求人採用を実践しています」と語ってくれた。

優秀な人材採用は、技術系ベンチャーだけに関わらず、あらゆる企業の将来を左右する重要課題。これからますます加速していくテクノロジーの進化に向けて、企業間での熾烈な獲得競争は続いていきそうだ。

アスタミューゼ株式会社
http://www.astamuse.co.jp/
DMM.make AKIBA
https://akiba.dmm-make.com/
Dmet Products
http://dmetproducts.co.jp/

筆者:Sayaka Shimizu (IoT Today)