フィギュアスケートと言えば、氷上を舞う可憐かつダイナミックなパフォーマンスが多くの人の目を釘付けにする人気の高いスポーツ。今季は浅田真央さんや村上佳菜子さんの引退が大きな話題になりました。

選手にとって欠かせないのが衣装。選手の演技を左右すると言っても過言ではなく、その衣装作りにはプロの技が光ります。バレエ・ダンス用品メーカー「チャコット」でフィギュアスケートのデザインを担当する佐桐結鼓(さぎり・ゆうこ)さんに「オンナのプロ仕事」と題し、衣装デザインや仕事観について聞きました。

選手の魅力を引き出すデザインを

--佐桐さんはずっとフィギュア衣装のデザインを担当されているんですか?

フィギュア衣装の専属デザインというわけではなく、社交ダンスやバレエといった各ジャンルの担当者がフィギュアの衣装も担当しているんです。私は社交ダンスのデザインを担当しています。

--フィギュアの衣装はいつからデザインされているんですか?

織田信成(元)選手の衣装を作るところがきっかけでした。当時織田さんが習っているダンスの先生からのご紹介で、ちょうど織田さんが衣装で悩んでいたこともあって。2010年にシーズンが始まってすぐにオーダーが入り、それからずっとデザインを担当しています。

--フィギュアの衣装はどのくらいの期間で完成するんですか?

曲と振付が決まった時点で情報をいただいて大体2、3ヶ月くらいかけて制作します。デザインの後に型紙を引くスタッフ(パタンナー)に指示を出して、縫製を専門にやっているスタッフ、飾り付けをしているスタッフとつど確認しながら作っていきます。

--衣装をデザインするにあたって意識されていることは?

その人の魅力を最大限に引き出すのと、その魅力を邪魔することのないデザインを心がけています。動きを妨げないよう細心の注意を払います。選手によって縫い方も好みがあるんです。織田さんの場合は、柔軟性があり可動域が広いので、肩回りや膝など動きに対応できるよう工夫します。手足も長くスタイルもよいのでボディラインが出るようなデザインに。でも余計な飾りが付いているとせっかくの長い指先やネックラインを隠してしまうので、相談しながらデザインを決めていきます。

--テレビでフィギュアスケートの演技を見るときはやはり衣装に目がいくんですか?

そうですね。細かい装飾が何でできているかもそうですが、遠くから見た時にどう見えるか。衣装がどのくらい軽く薄いか、選手の演技を妨げていないかどうかを見ています。自分が担当していない選手でも技よりもまずは衣装を見てしまいますね。その衣装が選手の個性に合っているかどうかも含めて。

--変わったところでは、2016年10〜12月にテレビ朝日ほかで放送されていた男子フィギュアスケートをテーマにしたテレビアニメ『ユーリ!!! on ICE』の衣装デザインを手がけたことも話題になりましたね。やはり実際に選手がいて衣装を作るというのに比べて苦労はあったんでしょうか?

チャコットに依頼がきた意味は、実際に滑ることができる衣装で動ける衣装を作りたいということだと思い、普段通りにデザインしましたね。ただ、普段と違ったのはキャラクターも曲もオリジナルということ。使用される曲が有名な曲ではなくオリジナルの曲だったので、まずは曲を理解するところからキャラの特徴をつかんでいきました。どのような体格でどのような技が得意なのかを考えた上で、通常のオーダーのようにデザインしました。

外の世界に出て再びチャコットに

--佐桐さんはなぜダンス衣装のデザイナーになろうと思ったんですか?

もともと子どもの頃からダンスをやっていたんです。アパレルも好きで、進学や就職を決める時期になって、ダンスを取るか、衣装を取るかを考えて。都会に出たいという思いもあって、高校を卒業して1年地元で働いたのち、東京の服飾の専門学校に進みました。ダンスは諦めたけれど、衣装を作ることも表現だと思い、チャコットを受けたんです。

最初に配属されたのは社交ダンスのレッスンウェアやパーティーの衣装を作る部署でした。全く社交ダンスの知識がなく、右も左も分からない状態からはじまりました。

--それからは順調にキャリアを積み上げてという感じだったんですか?

実は私、一度チャコットを退社しているんです。ウエディングドレスのデザインをしたいという思いもあって。チャコットもウエディングドレスを手がけていたんですが、事業をやめるという話も出ていて、それだったら今しかできないことをと思って、ウエディングドレスの会社に転職したんです。

--なぜチャコットに戻ったんですか?

3年くらいたった時にたまたまチャコットを退社した同期が「チャコットに遊びに行かない?」って誘ってくれて。入社した時の上司とお昼ご飯を食べた時に「明日からでも戻ってこい」と言っていただき戻ることにしました。ちょうど30歳になった頃でしたね。

--外の世界に飛び出してみて変化はありましたか?
 
ウエディングドレスというと白をイメージすると思うんですが、お色直し用のカラードレスもあるんです。いろいろな色や素材について学べたので、社交ダンスの衣装のデザインをする上で役に立ちましたね。

あとは、ウエディングドレスって花嫁が着るものですよね。花嫁って主役なので動かなくていい存在なんですが、ダンスとなるといかに動いて美しく見せるかが大事になってくる。真逆のことを学んだことでより動くということを意識するようになりました。

嬉しい言葉は「想像以上のものができた」

--仕事の達成感や喜びを感じるのはどんな時ですか?

やはりスケーターやダンサーの方が持っている力以上のものを出せた時ですね。あとは周りの人の評価ですかね。最初は「想像通りのものができた」と言われて嬉しかったけれど、だんだんそれだけじゃ満足できなくなってきたんです。「想像以上のものができた」と言われた時が一番嬉しいですね。

衣装はできあがって完成ではなくて選手が身につけて動いて完成するものだと思うので、着る人のモチベーションを上げたり力を発揮できたりするものづくりを心がけています。

--仕事で大事にしていることは?

社交ダンスをしているのは、競技をしている選手、ダンスパーティーと健康維持が目的の年配の方なんですが、やはり「大切な舞台なのにこの人で大丈夫なの?」と思われないようにまずは信頼してもらうことを第一に考えています。「この人に任せておけば安心して舞台に立てる」という存在になれれば、お客様のパフォーマンスもより引き出せるのではないかと。

ダンスのキャリアが長い方も多く、衣装に関しても目が肥えている方が多いんです。お客様の目はごまかせないので、ひたすら一生懸命やることだなと思っています。若い頃は「こんなに若い子が担当するの?」と言われたこともありましたが、いくつになっても目の前の仕事を誠実にやることが大事なんじゃないかなと思っています。

■チャコットのフィギュアスケート
佐桐さんの他のインタビューを含め、フィギュアスケートに関連する情報をお届けしています。
公式サイト

(写真:宇高尚弘/HEADS)

ウートピ編集部