63分、決勝ゴールを決めた茨田陽生(大宮アルディージャ)「今日はダービーだったんで」

 勝利を収めた大宮アルディージャの選手たちは、思いを噛みしめるような声でそう洩らしている。浦和レッズとのゲームは特別だったのだろう。同じ埼玉の宿敵に、本拠地NACK5で負けられない、と。

 しかしそれ以上に、大宮陣営は彼ら自身の命運をこの日に賭けていたのだろう。開幕以来、1分け7敗で最下位。これ以上の不振は、監督更迭などチーム解体につながる可能性もあった。劇的に軌道を修正し、浮上するためには、またとない一戦だったのだ。

 大宮は昨シーズン、Jリーグ年間5位のチームである。なぜ彼らが今シーズン、8試合勝ち星なしと大きく出遅れたのか?

 その理由はシンプルだ。チームの飛車角だったMF家長昭博、泉澤仁がそれぞれ移籍。単純にその穴が埋まっていない。補強はしたものの、同じキャラクターの同じレベルの選手は獲得することができなかった。

 しかし、ここまで負けが込んだ理由は別にあるだろう。

「勝てない→自信がなくなる→昨季に戻そうとするが、主力はいない→プレーに逡巡(しゅんじゅん)が出る→勝てない」

 そんな”弱者の連鎖”に取り込まれてしまった。

「練習でできているのに、試合でできない」

 渋谷洋樹監督はそう洩らしていたが、心理面の影響は大きかった。守備で相手に寄せる距離が少し遠く、走るべき選手のランニングが少し遅れる。ディテールのズレがあった。

 そこで浦和戦、渋谷監督は通常のシステムをかなぐり捨て、割り切って挑んだ。主に使ってきた4-4-2ではなく、変則の5-3-2(攻撃では金澤慎が右ボランチに入って4-4-2)を採用。浦和の攻撃を耐え抜く戦いを、最初から選択した。

「予想したように、大宮は守備を基調にしてきましたね。走り、戦うというやり方。我々は疲労の問題(ACLも戦う日程)があって、いつもの連動性や切れを欠いていましたが」

 浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は語ったが、守る大宮に対し、序盤はワンサイドで試合を進めている。しかし決定力を欠き、シュートが枠を捉えられない。前半5分に興梠慎三がヘディングで合わせたが、GK塩田仁史に難なくキャッチされた。

「前線が(プレスで)限定してくれたし、5バックも安定していたんで。ボールを持たれていたわりには、落ち着いて対応できていました」(塩田)

 大宮はGK塩田を中心にした守りの安定によって、効果的な攻撃を何度か繰り出せるようになった。前半22分には敵陣でつないだ後、FW瀬川祐輔が日本代表DF遠藤航との競り合いから見事に入れ替わり、GK西川周作と1対1に。これはストップされたが、決定機の数だけなら、大宮のほうが多いほどだった。

 後半、ピッチに出てきた大宮の選手は手応えを感じていた。自信がプレーに確信を与える。浦和が柏木陽介に代え、青木拓矢を投入するが、これでビルドアップが鈍くなる。一方、大宮は長谷川アーリアジャスールを引っ込め、大山啓輔を投入し、ポゼッションが安定。これで流れは大宮に傾いた。

 勝機を得た大宮において、群を抜いた技量を見せたのが、江坂任だろう。

 江坂はポストワークがしたたかで、相手に流れが行きかけた場面でそれを断ち切っている。また、ボールを前に運ぶ推進力も強く、シュートポイントに入る強度やタイミングも卓抜。そして後半63分の得点シーンは、センスが際立っていた。後方からのフィードを2列目に落ちながら迎え入れ、ターンして周りを確認しながら、一度もボールに触っていない。コンマ何秒のタメで敵DFを集め、右脇でフリーの茨田陽生(ばらだあきみ)にお膳立てした。

 結局、茨田がこれをニアの上に叩き込んで決勝点となった。

 浦和はこれ以降、猛反撃に出た。66分に投入された駒井善成が関根貴大と両サイドから絞り上げるように躍動。いくつもチャンスを作ったが、大宮の身体を張った守備に遭う。相手の気迫に焦ったのか、得点王を争うラファエル・シルバまでがシュートをバーの上にふかすなど、ゴールの枠を捉えられなかった。

 大宮はディフェンスラインがクロスの雨をはじき返した。中盤もスライドを繰り返しながら、自由にクロスを入れさせなかった。たとえ1人抜かれても、2人目がカバーした。まさに、一丸となった戦い方だった。

「(大宮は)瀬戸際に立っている中で、力が出せたのかもしれません。ダービーということで、フィジカルパワーを持って試合に入れました。今までは失点を先にしたり、選手がリズムを出せなかった。ただ、4月に入ってからはルヴァンカップや清水エスパルス戦など、よくはなってきていた」

 安堵したように語った渋谷監督だが、勝って兜の緒を締めている。

「チャンスはもっとあったので、”決めきる力”の部分は、課題としてあると思います。集中力を高め、鋭さを見せる……上のチームにはそれがありますから。今日は選手が本当によく頑張りましたが、ここでひと息つかずに、戦えるように」

 埼玉ダービーの勝利は、選手たちに自信を与えるだろう。その自信で、大宮は旋回できるか――。指揮官はすでにルヴァンカップ、ベガルタ仙台戦(5月3日)を見据えていた。
  
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