それは、一瞬、子どものころに戻ったかのようだった――。

 インサイドに攻め込んできた弟マーク・ガソルを、兄パウ・ガソルが迎え撃つ。パウの身体にぶつかったマークは、バランスを崩して床に倒れた。別のときには、パウのシュートを一度はマークがブロックで叩き返したが、そのボールをふたたび手にしたパウは、ドリブルからスピンムーブでマークをかわしてフックシュートを沈めた。


プレーオフでパウ・ガソル(左)とマーク・ガソル(右)の兄弟対決が実現 子どものころ、ふたりはよく、バルセロナ郊外にある祖母の家の裏庭で1対1の勝負をしていた。子どものころの4歳半の違いは大きい。今でこそほとんど同じ体格のふたりだが、子どものころのパウはいつもマークより身体が大きく、裏庭の勝負でもいつも勝っていた。

 8年半前にマークがNBA入りして、NBAで初めて対戦することになったとき、パウは「これまでの人生でマークが僕に勝ったのは、1度ぐらいじゃないかな」と、冗談混じりに笑っていた。

 かつて、21歳でパウがNBAにドラフトされてメンフィス・グリズリーズに入ったとき、ガソル一家は彼をサポートするために揃ってメンフィス郊外に引っ越してきた。当時、まだ高校生だったマークは地元の高校に入り、バスケットボールチームにも所属。アメリカの食生活で体重を増やし、身体こそ大きくなっていたが、まだ兄には勝てなかった。

 当時、グリズリーズの練習場で繰り広げられた兄弟の1対1の戦いは勝負になっていなかったと、周囲の関係者は振り返る。NBA入りする前から才能を認められ、ドラフト3位で指名されたパウに対して、マークは遅咲きだったのだ。結局、高校を卒業した後、マークは一度スペインに戻り、FCバルセロナなどリーガACB(スペインのトップリーグ)のチームで5シーズンを過ごしてからグリズリーズ入りした。

 パウが移籍したため、それからふたりは何度もNBAの試合で対戦してきた。お互いに勝ったり負けたりしながら、切磋琢磨し合った。これまで9シーズンの間、レギュラーシーズンでの対戦は24試合。チームの勝敗はパウのチーム(レイカーズ、ブルズ、スパーズ)が14勝、マークのチーム(グリズリーズ)が10勝。スタッツではパウが13.5得点・10リバウンド、マークが11.9得点・8.5リバウンドとほぼ互角。昨シーズンはオールスターで、パウがイーストのセンター、マークがウェストのセンターとして対戦している。

 兄のパウは言う。

「弟にはいつも、僕を倒せとハッパをかけてきた。子どものころはなかなかそういうわけにもいかなかったけれど、彼も大人になって、前よりはそのチャンスも出てきた」

 この言葉だけ聞くと、余裕の発言のように聞こえるかもしれないが、マークの成長を誰よりも早くから認め、誰よりも誇りに思っていたのもパウだった。

「兄として、弟のことをとても誇りに思っている。彼はすごく努力して、称賛に値するだけのことをやってきた。彼はすばらしい選手になった」

 そんなふたりが今年、ついにプレーオフの舞台で対戦することになった。パウはウェストの第2シード、サンアントニオ・スパーズの控えセンターとして、マークはウェストの第7シード、グリズリーズのスターティングセンターとして、ウェスタン・カンファレンス1回戦で対戦したのだ。

 シリーズを前に、マークはこう言っていた。

「祖母の家の裏庭の勝負はいつも思い出している。今のほうがずっと多くの人たちが見て、ずっと大きなことをかけて戦っているけれどね。これが終わったとき、僕らのうち、どちらかひとりはみじめな気分になる。彼(パウ)のほうが年上で、子どものころはいつも僕より背が高かった。今度は僕の番だと思いたい」

 36歳とキャリア終盤に入ったパウは、昨年夏にフリーエージェントとなったとき、控えの役割を受け入れて優勝を狙えるスパーズに加入した。マークも、「スパーズならパウに合うんじゃないか」と勧めたという。

 一方、32歳のマークは選手として全盛期。まぎれもなくグリズリーズの中心選手のひとりとしてチームを率いている。かつて兄が7年近く所属していたグリズリーズは、マークにとってもNBAへの入り口であり、そしてNBAキャリアのすべてだった。今季でチーム在籍期間9シーズン目と、いつの間にかパウより長くグリズリーズのユニフォームを着ている。

 それでも、まだマークがパウに追いつけないものがある。NBA優勝だ。パウはロサンゼルス・レイカーズ時代に2度の優勝を経験しているが、マークはもっとも勝ち進んだ4年前でもカンファレンス・ファイナル止まり。NBA優勝という目標を果たすためには、まずは目の前にいる兄のチームを倒さなくてはいけなかった。

 シリーズ第4戦。オーバータイムの熱戦を決し、2勝2敗のタイへと持ち込んだのは、残り0.7秒でマークが沈めたシュートだった。

 このときベンチに下がっていたパウは、試合後に弟のシュートについて聞かれると、あまり表情を変えることなく、冷静に「すごいシュートだった。難しいシュートをよく決めた。それは彼を誉めるしかない」と称賛した。弟が活躍して誇らしい一方で、それが自分たちの負けにつながるのは悔しい。複雑な思いだった。

 その5日後の4月27日、シリーズは終わりを迎えた。勝負が終わった後、ふたりはコート上で、お互いを労わるハグを交わした。兄弟のうち、より活躍したのはマークだったが、シリーズを制し、勝ち進んだのは兄のチームだった。

 こうして、嬉しさと悔しさと、お互いに対する誇らしさが入り混じった初めてのプレーオフ対決は終わった。敗れた弟は、少し身体を休めたら、ふたたび来シーズンに向けての準備を始めることだろう。優勝を目指し、兄に挑み続けるためにも――。

■バスケットボール 記事一覧>>