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●フェイスブックもAR参入へ
フェイスブックがAR(拡張現実)のプラットフォームを推し進めることを発表するなど、ここ最近ARに対する取り組みが急速に活性化している。2010年前後に一度大きく盛り上がったものの、その後沈静化してしまったARだが、なぜここに来てARへの注目度が再び高まりつつあるのだろうか。

○「ポケモンGO」「SNOW」などの人気で関心が高まるAR

スマートフォンなどを通じて現実世界を見ることで、現実にはない情報を付加して拡張する「拡張現実」(AR)。そのARが、ここ最近再び大きな注目を集めつつある。

そのきっかけとなったのは、米ナイアンティックが昨年提供を開始したゲーム「ポケモンGO」だろう。ポケモンGOは現実の位置情報とリンクし、特定の場所に行くことでアイテムを手に入れたり、モンスターを捕獲したりできることが人気となり、レアモンスターが出現する場所に人が殺到するなど、世界的な大ブームをもたらしたことは記憶に新しい。AR要素を多く取り込んだゲームとしてポケモンGOが大成功したことが、ARに対する注目度を高める要因となったことは確かだ。

もう1つ、ARへの注目を高めたのが、昨年から今年にかけて日本でも人気となっている「Snapchat」や「SNOW」などのアプリだ。これらはいずれも、リアルタイムで顔を認識して犬や猫の耳や舌などを付加したり、隣り合った人同士の顔を入れ替えたりと、実際の顔をユニークに加工して撮影できる備えている。これもAR技術をより分かりやすい形で取り入れ、ユーザーにサービスを提供して成功した大きな事例といえるだろう。

だがARの注目度を高めているのはポケモンGOやSNOWだけではない。ARの活用に向けて積極的に取り組む姿勢を見せる企業が増えていることも、AR人気を高める要因になっているのだ。例えばSNS大手の米フェイスブックは、4月に実施した開発者会議「F8」で、スマートフォンのカメラを用いたARプラットフォームを提供することを発表している。

このARプラットフォームでは、スマートフォンのカメラを通して現実世界を見ることで、さまざまなオブジェクトを表示したり、モノや場所の詳しい情報を表示したり、SNOWのように顔に装飾をかけたりといったことができるようになる。しかも今回打ち出した施策はあくまでフェイスブックのARに向けた取り組みの第一歩であり、将来的にはより高度なARの実現を目指す考えのようだ。

○本格的なARを実現するデバイスも登場

またハード面でも、より本格的なARを実現できるデバイスが登場してきている。実際、昨年にはレノボの「Phab2Pro」、今年にはASUSの「ZenFone AR」と、グーグルのAR技術「Tango」に対応したスマートフォンが相次いで発売・発表されている。

Tangoに対応したスマートフォンでは、3つのカメラと赤外線を活用することで、現実空間を正確に捉えることができ、従来のスマートフォンよりも一層リアルなARの表現が可能になることから、今後の展開が期待されているAR技術だ。Tango対応デバイスは今後大幅に増えることが予想され、ARの利用拡大にも影響を及ぼす可能性が高い。

●ARブームを起こした「セカイカメラ」
○「セカイカメラ」終了で一度は去ったARブーム

こうした具体的な動きだけでなく、アップルがAR関連の技術やデバイスの開発を進めているという報道が一部でなされているなど、ARに対しては現在多くの企業が興味や関心を示しており、今後一層大きな広がりを見せる可能性がある。

だが、ARといえば以前にも大きなブームが巻き起こり、多くの企業がAR関連サービスを手掛けて注目を集めていた時期があった。そのけん引役となったのが、頓智ドットが2009年より提供していた「セカイカメラ」である。

セカイカメラは、スマートフォンのカメラを用いて現実の風景を見ると、「エアタグ」と呼ばれる情報が重ねて表示され、それをタップすることでエアタグ内のテキストや画像などを見ることができるというもの。エアタグは現実世界の建物やオブジェクトなどに付与されているだけでなく、自分で投稿することもできたことから、コミュニケーション用途に活用することも可能であった。

従来のARは、基本的に「マーカー」と呼ばれる専用の画像データを印刷するなどして設置し、それをアプリ側が認識することで、オブジェクトを表示する仕組みとなっていた。だがセカイカメラはGPSやジャイロセンサーなどを用い、マーカー不要でARを体験できることから評判となり、類似するアプリも多く現れた。しかも当時はスマートフォンやアプリが大きなブームとなっていたことから、ARはスマートフォンで未来を体験できる技術として、大きな盛り上がりを見せることとなったのである。

しかしながら当初こそ高い関心を集めたARだったが、ソフト・ハード共に技術面でまだ発展途上だったこともあって表現がリアリティに欠け、物珍しさ以上の価値を提供することができなかった。それゆえARが定着したのはゲームなどの娯楽やプロモーションなどの分野に限られ、セカイカメラが2014年には全てのサービスを終了するなど、ブームは急速に鎮静化してしまったのである。

●ARが再び注目されている理由
○技術の進化でより現実的なARの実現が可能に

にもかかわらず、なぜ現在、ARが再び注目されるようになってきたのだろうか。その理由はやはり、技術的な進展によってより高度なARの表現が可能になったことにあると考えられる。ARは一過性のブームこそ過ぎ去ったものの、そのポテンシャルが高いことに変わりはない。それゆえブーム後も、ARの研究開発に取り組む企業自体は多く存在していたのである。

しかもARがブームとなった2009〜2010年頃と比べると、現在のスマートフォンのハードウェア性能は劇的な進化を遂げ、高度な処理が可能となっている。また搭載されるセンサー類も大幅に増えたことから、あらゆる手法を用いて現実空間の位置や物体を捉えられるようになったのだ。

先に触れたTangoのように、ハードウェア的に機能を拡張するという手法だけでなく、SNOWなどのように映像から顔や物体を認識し、その位置をトラッキングするソフトウェア技術なども、現在では確立されている。従来用いられていたマーカーやGPS、ジャイロセンサーなどだけでなく、そうした新しい要素技術を組み合わせることによって、より高度なARが実現できるようになったわけだ。

加えて言うならば、VR(仮想現実)の人気が高まっていることも、ARが注目されるようになった要因の1つといえるだろう。ARとVRの組み合わせによって、現実空間と仮想空間を融合した複合現実(MR)の実現が期待されていることから、VRと並行してAR関連の技術進化も注目されるようになった部分も大きいのだ。

当初のARブームが、ARの存在そのものを伝える上で大きな役割を果たしたとすれば、現在のARに対する注目の高まりは、ARが本格的に普及するための第一歩だといえる。ARに対する技術やプラットフォームの開発はより加速していくと考えられるだけに、今後の普及に向けてはARを活用したサービスやコンテンツをいかに増やしていけるかが、大きなポイントとなりそうだ。

(佐野正弘)