志尊 淳「自分の本質を隠したり、飾ったりする必要はない」――『春のめざめ』で魅せる新たな姿

2017年の志尊 淳は、これまで以上に突っ走っている印象だ。ドラマでは『きみはペット』(フジテレビ系)、映画では『帝一の國』と、それぞれのジャンルで話題作に抜擢され、さらに今回、舞台『春のめざめ』で初のストレートプレイに挑戦する。そんな“今、大注目の若手俳優”に話を聞くイメージで対面したものの、目の前に座る彼は、凪のように静かで平静だった。そしてなによりも印象的な、強さと信念。「絶対に負けたくない。筋を通したい」――志尊の強い想いに触れた。

撮影/鈴木愛子 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.
企画/ライブドアニュース編集部

感情や表現が“媚びていない”作品に「感慨深い」

1891年にドイツの劇作家、フランク・ヴェデキントが書いた名作戯曲『春のめざめ』。思春期の少年たちの性へのめざめ、生きることの葛藤、それに対する大人たちの抑圧などが描かれたセンセーショナルな内容に、当時は上演禁止の処分を受けた問題作といわれています。志尊さんはシナリオをお読みになられて、どのように感じましたか?
ひとつひとつの感情や表現が、媚びていない印象を受けました。
“媚びていない”というのは?
思ったことと違うことを言ったり、本心を表現しない人って多いじゃないですか? もちろん、僕にもそういうところが今でもあるとは思いますが。でもこの作品の登場人物たちは、各々、正直な感情を一番最初に出しているんですよね。
だからこその衝突があったり…。
ええ。大人に抑圧されたり、暴走してしまったりっていうのが、鮮明に描かれていると思いました。登場人物が各々、出す感情のベクトルは違っているんですが、まっすぐなところは共通しているんですよね。それは、現代の作品にはあまり見られないところだと思いました。
というのは?
現代の作品は、屈折した形で感情を表現したり、屈折した感情を持っている役柄が多いイメージが僕のなかにはあって。それに対して、この『春のめざめ』は……これが書かれた百何十年前って、今みたいに世界も発達していないなかで、一番最初に人が思うような感情や考えを、媚びずにしっかりと提示した作品だったので、感慨深いなあと思いました。
観客がどのように感じるのか、興味深いですね。
戯曲なので、セリフとしてはちょっと遠まわしになっていますが、感情がまっすぐ表現されているので、観ていただくお客様それぞれに、感じ方が違うような作品ができるんじゃないかなと思っています。
志尊さんが演じられる主人公・メルヒオールは、ドイツの中等教育機関で学ぶ優等生ということですが、彼についてどんな印象を持ちましたか?
優等生とありますが、やっぱり14歳の男の子なわけで……育った環境や、家庭内の問題などの、優等生になるまでのいきさつもあると思うんですよね。そのなかで、大人に対する関わり方、女性に対する関わり方、友人に対する関わり方が、それぞれ変わってきている。それで、うまくいかない葛藤があるんだと思います。
なるほど。
本当に、等身大の子なんだなあって僕は思っていますし、彼の行動に対して、否定的な感情は抱かないですね。彼みたいな子って、現実にもいるんじゃないかなと思います。
「自分にもこんなことがあったなあ、似てるなあ」と思った部分はありましたか?
相手によって、関わり方を変えていたかもしれないですね。対友人、対大人、対女性でスイッチを変える瞬間は、少なからずあったかもしれません。14歳って、いろんなことをわかっているようでわかっていない反面、わかっていないようでわかっている部分もある年頃だと思うので……僕にも、メルヒオールに似ているようなところがあったんじゃないかなと思います。

舞台に立つといつも思う…「僕も客席で観たい」

『春のめざめ』構成・演出の白井 晃さんは、今回のキャスティングについて、「舞台経験の少ない若い俳優たちと、この作品の創作に挑むことにした」とコメントしていますが、オファーがきたときはどう思いましたか?
作品も知らないし、白井さんにお会いしないとわからないし、白井さんの作品を観ないとわからないなと思っていたんですね。それで、白井さんの舞台を観させていただいて……「スゴいな」って。
どうスゴかったのでしょう?
ものすごく面白かったんですよ。「演劇的にみて、ここが面白かった」っていう感覚じゃなくて、舞台を観に来たそのときの自分、20歳の僕が、純粋に舞台というエンターテインメントを楽しめたんですよね。
なるほど。
それで、白井さんとお話をさせていただいて。とても理論的な方なんですが、おっしゃることすべてが刺さるんですよね……もちろん、経験も全部含めたうえでの言葉だからだと思いますが。それで、「やってみたいな」と思って、「やらせてください」と伝えて、メルヒオール役に決まりました。
白井さんから、「こういう理由であなたを選びました」みたいな説明が具体的にあったのでしょうか?
囲み取材でご一緒したときに、「(志尊さんは)柔らかそうな雰囲気だけど、すごく芯があって負けず嫌いで、頑固なところが面白いと思った」っておっしゃっていただいて…。
白井さんにそう受け取られたのは、なぜだと思いますか?
メルヒオール役をお受けするかしないか、まだわからないときに、白井さんと1時間くらいお話させていただいたんです。そのときも僕は……自分の負けず嫌いなところとかを、隠したり、飾ったりする必要はないと思っているので、目の前にいる白井さんとお話する、ただそれだけだったんですね。
なるほど。
だから白井さんに、僕のそういったところを読み取っていただいて、そこが面白いって言っていただいて、嬉しいなあと思いました。もともと、自分の本質を隠してるつもりはないので(笑)。
たしかに、志尊さんは柔らかそうなイメージがありましたが、今お話しているなかで、ちょっと印象が変わってきました。
顔の印象のせいか、そう言われることがけっこう多いんですよ。でもそれは、全然イヤなことでもなんでもなくて。逆に「イメージが変わった」って言っていただけるんだったら、嬉しいなと思います。
今回は初のストレートプレイということで、意気込みはいかがですか?
ストレートプレイについて、まだ右も左もわからないので……お芝居という本質的なところは変わらないにしても、お客様を目の当たりにして、どういった表現をしたらいいのか。見せ方だったり、声の出し方、体の使い方だったりと、わからない部分が多いので、台本を読み込んで、真摯に作品と、役と、白井さんと向き合っていけたらなあと思います。
今から楽しみですね。
そうですね、僕も客席で観たいですもん(笑)。舞台に立つと、いつも思うんですよ。「客席で1公演ぐらい観ることができたら、どんなに楽しいだろう」って(笑)。

どれだけ舞台の世界に引き込ませられるかが勝負!

話題作へのご出演が続いていますが、ドラマ、映画、舞台、それぞれに思う魅力はどこでしょうか?
ドラマの魅力は……家で誰でも観られる環境なんですが、逆を言えば、ただテレビをつけているだけの人もいる。なにかをしながら観ている人もいるなかで、どうやってドラマを楽しんでいただけるかっていうところだと思うんです。
そこを意識してお芝居をする?
うーん……観ている人がハッとするような。お芝居としてなにかを変えるわけじゃないですけど、そういうところを意識しようとは思いますね。
映画はいかがでしょう?
ドラマは今言ったような、“観ている人が、すべてを観ているとは限らない”という特質があるので、寄り(※カメラを被写体に近づけて撮影すること)などを使って、わかりやすく伝えるというのが軸にあると思うんです。それに対して映画は、映画館で観ることを前提とすると、その映画を観ることに集中しますよね。
観ている人が、画面で起こっていることのすべてを観ている可能性が高いですね。
そういったなかで、正解をわざわざ導かせない。あえて、引き(※カメラを被写体から離して撮影すること)のショットで感情を表現させたりしますし、長回し(※カットなしで長いあいだ、カメラを回し続けること)があったり……お芝居のなかなんですが、“その場で生きている時間”っていうのは、すごく長い気がしますね。
そして今回の舞台は、ストレートプレイということもあって、まさに“ドキュメントとして、その場で発生するお芝居”ということになってくると思いますが。
そうですね、舞台については、あんまりわからないですけど(笑)。なんかちょっと、映画もドラマも生意気に語ってしまいましたが(笑)、自分が経験してきて思ったことなんです。
今までの舞台の経験をふまえて、どう感じていますか?
そうですね、あんまりやったことがないというのを前提に言うと……おっしゃっていただいた通り、誰かに観られながらお芝居をするんですよね。リアリティとリアリティじゃない狭間で、作品によってどちらかに寄るのかなあと。
たとえば今作でいうと?
リアリティのほうが強いような気がします。それから、舞台は客席からすべてが見えるので、一歩足を踏み出すといった、ひとつひとつの行動にもきっと意味がある。それはとても繊細な部分ですよね。舞台では「大きく芝居をする」ことを心がけますが、そのうえで、繊細な気持ちをどこかで持っておかないとダメだなっていうふうには感じています。
なるほど。
あと、お客様は2時間ずっと座っているので……どれだけ舞台の世界に引き込ませられるか、ですね。僕は、「引き込ませたい!」っていう気持ちがすごく強いので、どうにかしてでもお客様を引き込みたいですね。本当に、ドラマ、映画、舞台、それぞれにたくさんの魅力があります。
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