背番号10とキャプテンマークを託された渡井。静岡学園の押しも押されもしないエースだ。写真:安藤隆人

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  静岡学園の10番は、チームで一番巧い選手じゃないといけない。
 
 技巧派集団として全国にその名を轟かせる名門・静岡学園。その伝統のグリーンキットを身に付けているだけで、「技術の高い選手」という目で見られる。10番を付けていればなおさらだ。その選手に対する視線のハードルは、より高くなる。
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 かつて谷澤達也(現・FC町田ゼルビア)、狩野健太、大島僚太(ともに現・川崎フロンターレ)、旗手怜央(現・順天堂大)らがその重圧と戦った。そして今年、その系譜を継ぎ、強烈なプレッシャーを一身に背負っているのが、MF渡井理己だ。
 
「10番の責務は理解しています。僕が攻撃のリズムを作るだけでじゃなく、ゴールを決める、結果を残し続けなきゃいけないと思っています」
 
 こう語る新キャプテンは、栄光のナンバーを担うに相応しい資質の持ち主だ。ボールコントロールに秀でているのはもちろん、駆け引きに長け、少しでも相手の重心のバランスが崩れたら、持ち前のアジリティーを駆使し、一気に相手の逆を取り、巧みに交わしていく。
 
 運動量もある。前線で空いているスペースを見つけ出しては顔を出し、2列目以降が顔を上げたときにしっかりとパスコースを作り出す。チームはバックパスに頼ることなく、積極的な縦パスで攻撃のスイッチを入れることができるのだ。
 
 4月29日、プリンスリーグ東海・第4節、中京大中京との一戦でも、渡井は高い位置で絶妙な位置取りを繰り返し、効果的な縦パスを多く引き出した。一か所に留まらず、状況を見定めて自由に動き、ボールを持ったらひとりでは奪えない渡井の存在は、中京大中京にとって脅威そのものだった。
 
 ふたり掛かりでチェックしても交わされ、もうひとり食いつこうとすると、さっとボールを離して、左サイドハーフの伊藤稜馬、渡井と2シャドーを組むMF河口雄太ら、フリーの選手に繋げていく。守備組織を思うように構築できない中京大中京に対し、静岡学園は前半に2本のCKから2点を奪い、2-0のリードで前半を折り返した。
 後半、中京大中京が反撃に転じてピンチを招くなか、渡井は中盤まで落ちてボールを受けてはタメを作り、流れを変えるべく献身的なプレーを見せた。結果、劣勢の時間帯を耐え凌いだ静岡学園は、78分にMF伊藤稜馬が3点目をゲット。後半アディショナルタイムに2点を追加し、終わってみれば5-0の大勝を飾った。
 
「勝てたことは嬉しいですが、今日は点に一切絡めなかった。それでは仕事をしたとは言えません」
 
 試合後、渡井はこう話して唇を噛んだ。たしかにゴールには絡めなかった。しかし、ゲーム全体には関わり続けた。彼が前半、相手の傷口を広げたからこそチームは攻勢に転じ、後半は劣勢のなか、時間の作りどころとして機能したことで、反撃の時間を生み出した。間違いなく、ゲームの中心には背番号10の存在があった。
 
「やっぱり今日の出来はダメです。得点に絡むのが僕の特長なんで、結果が出なければできたとは言えません」
 
 静学の10番を背負う自覚と責任。
 
「静学の10番はチームで一番巧い選手じゃないといけないし、チームのなかで輝かないといけない。今日は輝けませんでした」
 
 生半可な輝きでは納得しない。その想いが選手を成長させ、より静学の10番の伝統と重みを高めていくのだ。
 
 苦しくも充実の表情を浮かべながら、渡井理己の華やかなシーズンは続く。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)