今村雅弘前復興大臣の「失言」が「被害者の感情を逆なでする」表現が問題である、という指摘を目にします。

 一例としてNHKの報道から麻生太郎・副総理兼財務大臣の発言を引用してみましょう。

 「前大臣の発言はふざけている。言っていることは正しくても、表現の仕方で感情を逆なですることもあるので、よくよく注意してもらわないといけない。安倍(晋三)総理大臣は『閣僚は全員復興担当だと思ってほしい』と組閣のたびに言っており、きちんと頭に入れて対応してもらいたい」

 これは、自民党内からも今村氏に批判、として出ている意見として報じられているものですが、本当に今村氏の「言っていることは正しい」のでしょうか?

 ここで仮に被災地を「東北」でなく、別の場所を代入して、今村氏の発言を検討してみましょう。「代入」は中学数学で習う義務教育の範疇で、論理的な骨格を浮き上がらせるのに有効ですから、演繹してみます。

 「これがまだ熊本で、あっちの方だったから良かった。けど、これが本当、福岡に近かったりすると、莫大な、甚大な被害があった」

 論理の構造を全く変化させず、ただ被災地名だけを入れ替えているので、今村氏の発言はこういう内容の論理構造を持っていることが明らかになると思います。

 いったい、これは我が国の復興大臣として、あるいは復興政策の考え方として妥当なものでしょうか?

 前回触れなかった2つの面から考えてみたいと思います。

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地震と本質的に縁が切れない日本列島

 まず最初に、気象庁のホームページから、日本列島全域で起きる地震のデータを確認しておきましょう。

 特に、発生した地震の場所を明示したこの図を見ると、顕著だと思います。

 大小各色のマル印で地震が表現されているので、まるで列島全体がにきびか吹き出物で覆われているような図柄になっています。

 上の気象庁のHPにもあるとおり、日本列島は世界でも極めて特異な惑星規模の構造を持っています。

 太平洋の東日本側(東北沖も含まれます)は「太平洋プレート」と呼ばれる地球表面の殻が押し寄せて来ます

 一方、太平洋の西日本側(名古屋以西、四国や九州を含む)は「フィリピン海プレート」が押し寄せて来ます。

 プレート同士の運動による軋轢で地震が発生、といった説明は震災のたびごとに彼方此方でなされているはずで、詳細はここでは省略して本論の骨子のみを強調します。

 これらの海底プレートは、大陸側のプレートの下に潜り込む形で地震を発生させるわけですが、

 日本列島の東日本側は「北米プレート」に乗っています。千葉県銚子市の犬吠埼も福島県も北海道も樺太も、実はカムチャツカ半島やアラスカと同じお盆の上に乗った陸地です。

 これに対して日本列島の西側、関西、中国四国、九州以西はすべて「ユーラシアプレート」に乗っています。大阪も熊本も平壌も北京も、ストックホルムもベルリンもロンドンも同じプレートの上にあると考えられ、札幌や盛岡とは地質構造上別の基盤の上に存在しています。

 つまり4つのプレートがあたかも1点で集まるような、地球全体で見ても珍しい形になっている。

 「地殻」がよく分からないという方には「卵の殻」を考えてみてください。ゆで卵の殻を割って食べるために、大きなヒビを入れたとして、2つのヒビを寄せるようにすれば、より細かく割れたり、あるいは卵の白身にめり込んでいったりするでしょう。

 実際、フィリピン海プレートと太平洋/北米プレートの間には「相模トラフ」と呼ばれる海底のへこみ、盆地があります。

 またフィリピン海プレートとユーラシアプレートの間にも同様のへこみがあり、こちらは「南海トラフ」と呼ばれています。

 こんなものが常にめり込んで来るものですから、大陸側プレートの海よりの縁にあたる日本列島には大きなヒビが入っています。

 例えて言うなら、せっかく直りかけた傷口のカサブタだったのに、変に力をかけてヒビを入れてしまった経験などないでしょうか?

 南海トラフと並行するように日本列島に入ったこの「カサブタの傷」を「中央構造線」と呼んでいます。これは実は日本列島の地図を目視するだけで確認することができます。

 遠州灘に沿ってまっすぐな静岡県の海岸は渥美半島から伊勢湾の対岸にあたる鳥羽に点と線でつながっているように見えます。

 この直線を紀伊半島を挟んで反対側に伸ばすと、和歌山から淡路島の南辺を経由して徳島の鳴門までが一直線と分かるでしょう。

 直線を四国の反対側に伸ばせば愛媛の西端、佐田岬半島がまさに直線状に、豊予海峡の大分側、佐賀関崎に指を伸ばすようにつながっています。この先で、昨年から群発地震が続く熊本被災地が所在します。

 この全体を貫くのが、日本列島最大の断層である「中央構造線」にほかなりません。

 佐賀関半島の名は「関あじ」「関さば」など豊かな海産物を通じて全国に知られる通りですし、佐田岬半島の所在する愛媛県伊方町は四国電力伊方原子力発電所の所在地としても知られる通り、善し悪しと無関係に日本列島全体が、こうした構造あって成立しています。

 この事情は太古の昔から変わりません。

首都圏は何に乗っている?

 さて、先に東北は北米プレート、関西はユーラシアプレートに乗っていると記しました。では犬吠埼より西、岐阜あたりより東にあたる、東京都心部を含む中間地帯はどうなのでしょうか?

 ここはフォッサマグナ「大地溝帯」と呼ばれる境目のエリアで、古い地層の割れ目の上に新しい層が積み重なってできた中間エリアにほかなりません。

 東京都心部、富士山、あるいは前回触れた柏崎なども、すべてこのフォッサマグナのエリアに所在し、その地質的特徴は複雑を極め、安易なモデルに基づく地震予知など到底不可能です。

 注意深く観測を続けて災害に備える以外に科学に誠実な観点から方法がないのは、ロバート・ゲラー教授が長年指摘されている通りと思います。

 やや日本列島の地学的地誌に踏み込んだのは、私自身思い出が深いことによります。子供の遊びでしかありませんが、私は中学高校時代、クラブ活動で地学部というものに所属して、思春期の数年を千葉県の地質調査に明け暮れた時期があります。

 中3からは部を率い、予算折衝なども行って、サイエンスとしては失敗しかありませんでしたが、普段活動する茂原や上総一ノ宮は新しい第4期の層であるのに対し、銚子まで足を伸ばせば古生代の化石が取れ、子供の宝探しでしかありませんでしたが銚子でアンモナイトを掘り出せたりしたのは、少年時代の思い出でもあります。

 当時、新入生の中1にも分かるよう、毎年平易な解説を心がけて「部紹介」や「記念祭展示」などを行ったのと同様に、分かりやすく説明するよう心がけましたが、不正確がありましたら私の責ですので、ご指摘いただければ幸甚です。

 平易に説明できるかどうかは、理解の深さに直結します。プロには到底かないません。

 さて、こういう日本列島の地誌に関連することを、情けないことに、先日の今村氏の「講演」では、まず間違いなく誰かスタッフが作って、閣僚はレクチャーを受けただけで登壇して馬脚を現しまくってしまった現場の「後半」で触れています。

 で、棒読みしているだけの閣僚は、何一つ理解せずに、表層だけをアナウンスしていたことが、ハッキリ分かってしまうわけです。

 もしこうした列島の地誌を、中学レベルで満点を取る程度にまともに理解していたならば

 「これがまだ東北だったからどうした」

 みたいな発言が出てくるわけがないでしょう。と言うか口頭試問でこの種の質問に引っかかったら、私なら落とします。

 日本列島は一箇所として、地震と完全に無縁な場所などあり得ないのです。

 歴史を紐解くまでもなく、揺れたことがない地域など沖縄から北海道までどこにもない。あえて言うなら、あらゆる地域が常に地震に襲われるリスクを持っており、それを現実的に判断して、2次的な被害、とりわけ人災と社会基盤の毀損などを最小にとどめるよう、合理的な対策を講じていくのが、政府の仕事ではないでしょうか?

 東北も、今回に限らず、また繰り返し、地震も津波もやって来ることが、あらゆる地球科学の必然の結論としてあらかじめ分かっているのですから、必ずやって来る災害にどう取り組むか、あらゆる地域について適切に対策検討するのが、ここでなすべき当たり前の手筋です。

 そうでないおかしなことがあるならば、復興利権の不合理なつけ替えを疑った方がよいかもしれません。

 日本列島のどの一箇所として、ここから例外になる場所はありません。首都圏もまた然り。

 東京は必ず、再び巨大規模の地震に襲われることが、あらかじめ分かっているわけで、誰も保証できない「安全安心」を安売りするのではなく、災害発生を前提に、国としての対策を適切に立てるのが必須でしょう。

 さらには、仮に関東圏が大災害に襲われた際にも、首都機能や国家機構が間断なく働き続けるよう、リスクの分散を適切に考えることも必須不可欠な対策と私は考えます。

 これは誰でも考えることで、かつて冷戦期、ワシントンなりニューヨークなり、一都市がソ連の核で破壊されても、フィラデルフィアやボストン、あるいは東海岸以外でもサンフランシスコやシアトルに同一の機能を持つシステム(迎撃システム)が分散配置するように考えるところから、今日のインターネットが構築されていった経緯を見るだけでも、明らかでしょう。

 ここまで見たうえで、再び、担当閣僚の弁として報じられた内容を確認してみましょう。

A「皆さんのおかげで東日本の復興も着々と進んでいる」(中略)

B「マグニチュード9.0と日本観測史上最大、津波も9メートル、死者行方不明計1万8478人、一瞬にして命を失われた」(中略)

C「社会資本の毀損も(中略)25兆円という数字もある」

D「これがまだ東北で、あっちの方だったから良かった。けど、これが本当、首都圏に近かったりすると、莫大な、甚大な被害があった」

E「復興予算が34兆円。おかげさまで道路や住宅の高台支援は着々と進んでいる。皆さんに厚くお礼を申し上げる」

 災害と、その復興に必要な基礎科学を何一つ理解しておらず、もっぱら金勘定と、労務対策よろしい被災者対策だけで何かの後始末をしている稜線が、隠しようもなく浮かび上がって来はしますまいか?

 今村氏は佐賀で選出された議員だそうです。地元九州で

 「なに? 熊本が災害。それは災難だったねぇ。でも福岡でなくて良かった。福岡だったらもっと被害額が大きかっただろう。助かった」

 と発言したら、何が起きるか?

 さらに言えば、佐賀の地元が地震や津波に襲われたとしたら?

 「唐津が津波でやられたそうだけど、まだ佐賀市内でなくてよかった」

 なんて日本語が出てくるでしょうか。地域エゴならまだしも、一国の復興・災害対策を担う内閣・閣僚レベルで、こんな言葉が出てくるということ自体、米国でも欧州でも諸先進国ではちょっと想像もできない話であって、人材の払底というより、性根の問題ではないかと思ってしまいました。

 日本列島に地震、ならびに津波などの関連災害と完全に無縁な場所は基本的に存在しない。

 その冷徹な認識のもと、まともな災害対策ならびに、その地域、そこに住む地域住民のための復興が合理的、有効になされることが、何をおいても必須不可欠と思います。

筆者:伊東 乾