「Thinkstock」より

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 ニュース、情報番組、ドラマ、バラエティ……と、毎日おびただしい数の番組がしのぎを削り、たった0.1%の差でも一喜一憂が繰り広げられるテレビの視聴率。個々の番組だけではなく、民放各局はゴールデン(19時〜22時)、プライム(19時〜23時)、全日(6時〜24時)の「三冠」をめぐっても激しく争っている。

 この視聴率の調査方法が、昨年10月から関東地区で変わり、今年10月からは関西地区と名古屋地区でも変更されるという。調査方法の変更点は、まずサンプル数の拡大。従来の調査対象は600世帯だったが、このサンプル数が900世帯に拡大された。

 さらに、従来の「リアルタイム視聴率」だけではなく、録画した番組を見る「タイムシフト視聴率」も調査対象とし、この2つを統合した「総合視聴率」も新設。つまり、「リアルタイム視聴率」「タイムシフト視聴率」「総合視聴率」の3つで視聴率を示すことになったわけだ。

 しかし、テレビ視聴率の調査方法が時代遅れというのは、だいぶ前から指摘されていたことだ。なぜ、今ごろ調査方法が変更されたのか。この変更によって、テレビ視聴率は本当に信頼できるものになったのだろうか。

●20代単身者の10%以上がテレビを持っていない

 リサーチ会社のビデオリサーチは、関東地区では1997年から600世帯、約1800人を対象にリアルタイム視聴率を調べてきた。この600世帯というサンプル数が、昨年10月から900世帯に拡大されたわけだ。

「日本の家庭環境が大きく変化しているので、サンプル数の拡大は必然でしょう」

 そう話すのは、津田塾大学研究員で次世代メディア研究所所長の鈴木祐司氏だ。

「2000年頃までは、1世帯あたりの平均世帯人数は3人だったので、600世帯なら個人視聴率測定対象者が約1800人いる計算でした。しかし、それから15年以上がたち、核家族化や少子高齢化が進んだ結果、若い人の数が少なくなり、個人視聴率測定対象者が1500人台にまで減ってしまった。そのため、統計学上の精度を保つために若い世代の分母を増やす必要が出てきて、総世帯数を900世帯に変更したわけです」(鈴木氏)

 家庭環境の変化は、当然ながら生活のあり方の変化にもつながる。昔のように家族全員で食事をしながらテレビを見ることが少なくなった上、その変化に拍車をかけたのがスマートフォンの普及だ。テレビは録画しておいて「時間に余裕があるときに好きな番組を見る」という人が増えたことで、リアルタイム視聴率はどんどん下がっていった。

 そこで、新たに調査方法に加えられたのが、録画した番組を見るタイムシフト視聴率だ。昨年10月クールのドラマは、関東地区ではビデオリサーチによって初めて、リアルタイム視聴率、タイムシフト視聴率、総合視聴率の3種類で調査されたが、話題となった『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の場合、リアルタイム視聴率は16.9%でタイムシフト視聴率は17.5%(12月6日放送の第9話)。総合視聴率では30%以上の高視聴率を記録している。

 しかし、鈴木氏によれば、だからといって視聴率の数字が十分なものになったわけではないという。

「録画視聴が多くなっているのは事実で、タイムシフト視聴率を加えるのは当然でしょう。とはいえ、この数字を鵜呑みにして一喜一憂するのはいかがなものでしょうか。なぜなら、現在の調査はテレビのない家庭を最初から除外しているので、視聴率の分母が100%ではない。20代の単身者では、約10%がテレビを所有していないのです。

 欧米では率ではなく、視聴者した人数で表現するようになっています。これだと、たとえばリアルタイム視聴者〇〇人、録画再生△△人、ネット経由で見た人◇◇人、合計□□人で、コンテンツのパワーをわかりやすく表現できるようになります」(同)

●プラスマイナス2%以上の誤差がある視聴率

 しかも、視聴率には「誤差」がつきもので、正確さという意味では疑問符がつくという。実際、ビデオリサーチのホームページにも誤差があることが明記されている。

「サンプル数600世帯で視聴率10%というのは、本当は7.6〜12.4%のどこかということ。プラスマイナス2.4%の誤差があるんです。サンプル数を900世帯に増やすと、この誤差がプラスマイナス2.4%からプラスマイナス2%になりますが、それは『視聴率10%の番組が、実は8〜12%だった』ということしか意味していない。だから0.1%の多寡で一喜一憂しても意味がないのです。」(同)

 では、なぜテレビ局はそこまで視聴率にこだわるのか。それは、もちろん視聴率がCMの価格に直結しているためだ。スポンサー各社が視聴率を重視し、テレビCMを打つ際の指標としている以上、テレビ局も視聴率を上げることに重きを置かざるを得ない。

「視聴率に誤差があることは、みんな知っている。しかし、ほかに使える指標がないので、テレビ局は誤差があるとわかっていながら、0.1%に血道を上げているのです」(同)

 そもそも、テレビCMには「タイムCM」と「スポットCM」の2種類があり、たとえば、1月クールのドラマで最高視聴率を記録した『A LIFE〜愛しき人〜』(TBS系)が放送された「日曜劇場」という枠はタイム広告が中心。スポンサーは東芝など大手4社で占められている。

「タイムCMは半年くらい前からその番組に広告を出す契約をしていて、金額も決まっている。視聴率が1〜2%動いても、すぐには契約に影響が出ません。ただし、低い数字が続くと、次の契約のときに『数字が悪かったから、もう1000万円も払えませんよ』と値下げを要求されることになる。つまり、視聴率がロングレンジで価格決定に影響するのがタイムCMです」(同)

 スポットCMとは、「のべ視聴率」を基準に契約するCMのことだ。「新製品が出たので、1カ月間に15秒のCMを合計1000%露出してください」という契約で、番組も時間帯も指定できない。テレビ局側のCM枠の状況により、ゴールデンタイムに流れるかもしれないし、早朝に流れるかもしれないわけだ。

 そして、鈴木氏によると、視聴率というのは、このスポットCMにこそ大きく影響するという。

「あるCMが『1000%で1億円の契約』だった場合、合計で1000%取ればいいわけだから、極論すれば視聴率20%の番組ばかりで流せば『15秒CMを50回』で1000%を達成できます。ところが、視聴率5%程度の番組ばかりの場合、1000%を達成するためには200回も流さなければならない。

 もともと、テレビは1日あたり24時間しか広告枠の売り場面積がないビジネスです。その24時間のうち、CMを流せる時間は計2時間半ぐらいと決まっている。視聴率が好調なテレビ局なら、あっという間に1000%を消化することができ、どんどん収益を上げられますが、数字が悪い局はなかなか1000%を消化できず、次の契約も取れなくなる。だから、誤差があるとわかっていても、テレビ局は0.1%の視聴率にこだわらざるを得ないのです」(同)

●ネット同時配信で「視聴率」は死語になる?

 しかし、テレビを取り巻く環境が、今後もっと変化していけば、誤差があり曖昧な視聴率も正確なものにならざるを得なくなる。その環境の変化のひとつが、15年10月に民放5局が連携して開始した公式テレビポータル「TVer(ティーバー)」だ。

「TVer」とは、オンエア後1週間に限って無料でテレビ番組を配信する「見逃し配信サービス」のこと。広告収入で成り立っているが、CMを飛ばせないようになっているため、単価をより高く設定できる。

 何より、テレビとの大きな違いは、ネット配信はウェブサイトのPV(ページビュー)数と同じように、番組を見た視聴者の実数が出るということだ。

「総務省は、19年からテレビ番組のネット同時配信を実施する方針といわれています。全番組をテレビとネットで同時配信するとなれば、もうチューナーを内蔵した従来のテレビは必要なくなります。外ではスマホで番組を見て、家ではスマホからモニターに映像を飛ばしたりパソコンで見たりすればいい。そうなれば、視聴率は『率』ではなく、実際に番組を見た人の『数』になっていくでしょう」(同)

 こうして見ると、今回のビデオリサーチによる視聴率調査の変更は、「視聴数」への移行期における、過渡的な措置とも思えてくる。いずれにせよ、近い将来、「視聴率」という言葉が死語になる日がやってくるのかもしれない。
(文=船山隆子/清談社)