渡辺頼純・慶大教授が「トランプ政権と通商政策」と題して講演。トランプ大統領の通商政策はTPPからの離脱、WTOの軽視など「多国間協定より二国間取り決め」であると指摘。このままでは中国が米国に代わって貿易秩序の主導者になる可能性があると予想した。

写真拡大

2017年4月27日、国際政治経済に詳しい渡邊頼純・慶大教授が「トランプ政権と通商政策」と題して講演。トランプ大統領の通商政策は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、世界貿易機関(WTO)の軽視など「多国間協定より二国間取り決め」であると指摘。このままでは中国が米国に代わって貿易秩序の主導者になる可能性があると予想。日本企業が東アジアで構築してきた生産ネットワークの維持強化のためには東アジア包括経済連携(RCEP)の推進が重要と提言した。

渡辺教授は外務省出身で、元同省参与。メキシコとの経済連携(EPA)交渉で首席交渉官を務めた。発言要旨は次の通り。

◆トランプ新大統領の通商政策

(1)通商枠組み:マルチ(多国間・複数国間)からバイ(二国間)へのシフト⇒NAFTAの見直しTPPからの離脱、WTO軽視。
(2)自由貿易よりも「公正な貿易」⇒貿易における結果についての「公平さ」、貿易収支の均衡⇒黒字国は「数値目標」を設定し、米国からの輸出を増加させ、米国の赤字を減らす⇒これが実現できない時には米国が輸入制限を行い、貿易収支の均衡を図る(米国通商法301条の考え方)。

◆TPPの地政学的意義は何だったのか?

グローバルな覇権交代期の予兆:ブレトンウッズ体制の変容プロセス⇒相対的に弱体化するアメリカの覇権と問われるルール形成能力⇒不安定性・不確実性への備えとしてのメガFTA。

中国にとっては発展モデル選択の正念場:真の「市場経済国」になるか、このまま「中所得国の罠」にはまるか?カギは国有企業の体質改善、特権はく奪⇒共産党による一党独裁は耐えられるか?

GDP世界第3位の日本は人口減少が続く。「グローバル・パワー」にとどまるのか、それともアジア太平洋地域の「ミドルパワー」に成り下がるのか?⇒TPPや日EU・EPAで生産ネットワークを強化し、国際競争力を強化できれば日本のプレゼンスの維持は可能

◆トランプ大統領誕生と米国のTPP「離脱」

トランプ大統領:「米国はTPPから離脱する」「米国の雇用を増やすような二国間の公平な貿易協定を結ぶ」(二国間主義)、「中国、日本、メキシコとの貿易で米国は損失を被っている」(結果における均衡を目指す相互主義)

「トランポノミクス」=法人税・所得税減税+インフラ投資⇒短期的には株価上昇+ドル高⇒中長期的には財政赤字十経常収支赤字(双子の赤字)⇒高関税+ドル安誘導(「近隣窮乏化政策」)⇒保護主義の蔓延⇒世界経済の分断化・縮小(1930年代の再来か?)
対外投資と生産ネットワークに制限か?
「口先介入」だけでなく、政府の政策として関税賦課などが行われるとWTO協定違反になる。

◆東アジア経済統合の行方- RCEP、日中韓FTA、FTAAP

中国:2つのシナリオ=(1)アメリカに代わって貿易秩序の主導者になる、(2)TPPが立ち消えになったことで中国もFTA推進の誘因を喪失。(1)の場合にはRCEPは前進するが、(2)の場合には中国は「一帯一路」に資源を集中、「中国による中国のための」貿易秩序を構築へ(中国も2国間主義)。

韓国:TPPが頓挫したことでTPP参加のための韓日交渉を急ぐ必要がなくなり、ひと息。韓中FTA、韓米FTAなどで日本を凌駕と自負している。

台湾:FTAAPはアジア太平洋経済協力(APEC)の枠外ということになっているので、TPPがないと台湾の孤立化が進行、韓中FTAのマイナス効果をまともに受ける。

東南アジア諸国連合(ASEAN) : TPP不参加のASEAN加盟国(タイ、インドネシアなど)は現状維持に安堵。

日本:(1)TPPへの米国回帰を模索、(2)米国抜きの「TPP−1」を志向、(3)RCEP・日中韓FTAを推進、これらを同時並行で進め、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構築に貢献、(4)米国との貿易志向のFTAか、それとも「相互主義」か?